第二十六章
ミシェルは早めに来てしまったから、とアレンの母親を手伝っていた。
アレンも手伝おうとしたが母親とミシェルから安静にしていた方がいいからと言われて座っていた。
手持ち無沙汰でテレビをつけると、ロバートの凱旋コンサートのCMが流れた。
まだ3ヶ月くらい先の日程だった。
お小遣い貯めて、聴きに行きたいな。
ツアーを終えたら留学するって言ってたけど凱旋コンサートするなら帰ってきたら少しでもロバートに会えるかな…
アレンの父親が仕事帰りにコナリー邸に寄り、ミシェルの両親を連れてきて、ディナーになった。
食事が済んで、父親同士で色々と話しが弾み、ミシェルとアレンの母親は後片付けをし始めた。
「ね、アレン、大丈夫?元気?」
ミシェルがオレンジジュースが入ったグラスを二つ持って、一つをアレンに差し出しアレンに話しかけてきた。
「うん、大丈夫。ありがとう」
アレンはオレンジジュースを受け取った。
「庭に…ううん、アレンは熱あったもんね。アレンの部屋に行こうよ」
アレンが返事をする前にミシェルはトントンとリズミカルに階段を上って行った。
アレンの部屋に入ってミシェルは椅子に腰掛けてオレンジジュースにゴクゴク飲んだ。
それからアレンを、じっと見つめた。
「あんまりディナー食べてなかったでしょう…だから大丈夫かなって」
アレンは自分のベッドに腰掛けた。
「大丈夫じゃないよ」
アレンは俯いて答えた。
「やだ、じゃあ着替えて横になって。私、出るから…」
ミシェルが立ち上がりかけるのをアレンは勢いよく、かぶりを振って止めた。
「違うんだ、大丈夫じゃないよっていうのは、えっと、その…」
「うん?」
ミシェルは再び腰掛けた。
アレンは顔を上げて話し始めた。
「えっと、その…ミシェルが転校しちゃうと寂しくなるなって思って…だから、その、僕の心が大丈夫じゃないっていう…」
アレンの言葉を聞いたミシェルの目に涙が光った。
「ありがとう…寂しいって思ってくれるのね」
アレンは口の中がカラカラになったのでオレンジジュースを一息に飲み干した。
「うん。そりゃ寂しいよ。でも解ってるんだ。みんな、それぞれ違う道に進んで行くんだから、いつまでも子供じゃいられない。だけどミシェル、突然過ぎるよ」
アレンは涙がこみ上げてきた。
「アレン、私も勇気が要ったわ」
「勇気?」
「そうよ。国内とはいってもパパとママから離れて寮に入って学校に通うのよ。知らない人達の中に入って生活するのよ。不安だらけよ。本当は、このまま今の学校に通っていたいって、友達と離れたくない、週末にはアレンのギターを聴いて過ごしたいって思ったりもしたわ。だけど…自分の将来を考えたのよ。担任の先生にも、最後の登校日まで言わないでくださいって、お願いしてたの。アレンに言い出せなくてギリギリになっちゃって、ごめんなさい」
「ううん…だから、その…解ってるんだ…」
ミシェルは無言で頷いた。
「この前も言ったけど、手紙、書くわ。それにクリスマスカードやバースデーカードも贈るわ」
「うん」
階下からミシェルの母親が、おいとまするから降りてくるように呼ぶ声が聞こえた。
「じゃあね、アレン。出発する日は朝早いし、たぶん、これで」
ミシェルは勢いよく立ち上がり母親に返事をして、アレンの方を見ないで階段を降りて行った。
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