第二十七章
ミシェルは出発して行った。
彼女が話していた通りに早朝の出発だったのでアレンは会うことが叶わなかった。
アレンは学校に行き、週末には丘に行ってギターを弾いたり、父親が作ってくれたスタジオで練習して過ごした。
熱心に聴いてくれたミシェルは居ない。
寂しさが押し寄せる土曜日の午後、スタジオでエレキギターを練習して、一息ついたアレンは、ふと思った。
───そういえば、僕って友達あんまり…いや、ぜんぜん居なかったんだ…。
近所だから、同じクラスだからミシェルは仲良くしてくれたけど…
クラスで僕と仲良くしてくれる子って…いないかも…
そんなことをボンヤリと考えながらアレンがスタジオを出ると、
「いた居た!アレン!こんにちは」
顔を上げると、ミシェルと仲良しだったロジーが手を振っていた。
他にもクラスメイトが三人来ている。
「ロジー、どうかしたの?」
アレンはギターを担いだまま、ゆっくりとクラスメイト達に近づいた。
「アレンがギター上手だって、ミシェルから聞いていたのよ」
と、ロジー。
「そんな上手ってほどでもないよ」
ボソッと呟くように答えるアレンの声は矢継ぎ早に話すクラスメイト達に、かき消された。
「今、出てきたのってスタジオでしょう?凄──い!」
「聴かせて欲しいな♪スタジオに入っちゃダメ?」
「アレン、あのね、ロジーのお兄さんがバンドやっていてギタリスト探しているんだって」
「冬休みになったらクリスマスパーティーライヴするって、だからギタリストが必要なのよ」
ロジーが喋りまくるクラスメイト達を手で制し話し始めた。
「ごめんね、アレン。突然来ちゃって。だって、いつも即帰っちゃうから」
ロジーが言うには兄と、その友達を集めて家でクリスマスパーティーライヴなる催しをするのにギタリストが見つからず、頓挫の危機に陥っているという。
「来週の日曜日、都合良かったら、ちょっと家に音合わせだけでも来てみてもらえない?」
音合わせでも誰かと一緒にプレイ出来る…アレンの胸が高鳴った。
「ありがとう、ロジー。正直言って、そういう機会が凄い欲しかったんだ」
アレンは笑顔で二つ返事で約束した。
日曜日、アレンは父親に送ってもらい、ロジーの家に着いた。
「アレン、いらっしゃい待ってたのよ」
ロジーが自分の兄と、その友達を紹介した。
「良かったら、アレンのお父さんも、どうぞ♪庭にステージがあるんでいらしてください」
「ありがとう」
ロジーがアレンの父親にも声をかけ、ギャラリーが増えた。
ロジーが小さな声でアレンに話しかけてきた。
「あのね、アレン、ビックリしないでね…そのう…クラスメイトほとんど来ちゃったのよ。あっという間に広まっちゃって。隣のクラスからも十人くらい来てるわ」
「ええっ?なんで?」
驚かないワケがなかった。
クラスメイトで仲良くしている子なんて居ないのに…
「みんな、アレンのギターを聴きたいって…嫌だったら、ごめんなさいね、でも」
ロジーが泣きそうになっているのでアレンは慌てて、かぶりを振った。
「ビックリしたけど嫌じゃないよ。人前で演奏するのに慣れておきたいし、声かけてくれて本当に嬉しいんだ。ありがとう、ロジー」
「良かった…こちらこそ、ありがとう。こっちよ。庭に作った野外ステージなの」
ロジーに案内されてアレンは庭に行った。
本当に庭なのか?と、思うほど広い敷地にクラスメイト達がいて、その向こうにステージがあった。
「なんか凄いね!テレビで観たロックバンドのライヴ会場みたいなステージだね。ライトも本格的だ」
興奮した様子でアレンが話しかけた。
「私のパパがライヴにノリノリでね。その手の音楽のステージを模したのよ」
と、ロジー。
「これは凄い規模だね」
アレンの父親が頷き呟いた。
いざ、音合わせの準備を始めると、ロジーがマイクスタンドを用意してきた。
「もしかして、ロジーが歌うの?」
「そうよ。私、シンガーになりたいの。それに同じステージにクラスメイトがいると心強いでしょ♪」
ロジーはウィンクして微笑んだ。
音合わせはトントン拍子に進んでロジーやロジーの兄達に誉められ、クラスメイト達からも拍手喝采を浴びてアレンはロジーの家で開催されるクリスマスパーティーライヴに出演することに決まった。
「近隣の家の人達が集まるのよ。ざっと百人くらい。もう私が小さい頃から毎年、我が家のお祭りなの。ちょうど冬休みだし、今日来てくれたクラスメイト達もクリスマスパーティーライヴの日にも来てくれるわ♪」
ロジーが説明した。
話を聞いたアレンは更に楽しみになった。
そんなに大勢の前で弾くのは初めてで緊張するけど…本当に嬉しい機会だった。
この前のセッションライヴは観客はミシェルだけだった。
一緒に演奏したロバート、ライアン、父親も聴いてくれたけど…今度は桁違いの人数が集まって聴いてくれる。
彼の音 ブルートパーズ another story 玉櫛さつき @satuk1-tor1suk1
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。彼の音 ブルートパーズ another story の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます