第十二章
「わあ大きな家」
ダンバー邸の前に着くとミシェルが、家の大きさに驚いた。
アレンがインターフォンを押すより先に庭に居た執事が気づいて声をかけてきた。
「これはこれはヴァーノンのお坊ちゃま。ようこそいらっしゃいました」
「こんにちは」ミシェルが執事に挨拶した。
「こんにちは…約束していないんですけど…ロバート居ますか?」
アレンがおずおずと執事に尋ねた。
「これから、こちらでお茶なんですよ。今、いらっしゃいますから、どうぞ御一緒に。こちらにお掛けになって、お待ちください」
執事は屋敷の中に入って行った。
「ヴァーノンのお坊ちゃま?」ミシェルが目をパチクリさせて呟いた。
「僕は、お坊ちゃま育ちじゃないけどね」
アレンは勧められた椅子に腰かけた。
「ねぇ、ここ、アレンのお友達の家なの?」
ミシェルが家の大きさに改めて驚きながら訊いた。
アレンはロバートに連れられて初めてこの屋敷に来た時に執事に友達だと言ってくれていた…会ったばかりだったのに。ライヴのチケットを買った後に少し顔を赤らめながら『いつでも遊びに来ればいいじゃん。土曜日なら大抵居るから』
と言ってくれた…アレンは思い出しながら頷いた。
ロバートがクッキーとフルーツパウンドケーキが入った大きめのバスケットを持ってTシャツにジーンズ姿で現れた。
「アレン、来てくれて嬉しいよ。こちらはガールフレンド?」
ロバートがミシェルにニッコリ微笑みながら挨拶し、ミシェルも挨拶した。
「クラスメイトなんだ。よく僕のギターを聴きに…」
ギターという単語を発するのと同時にアレンの目に涙が溢れた。
「それか?見せてくれるか?」ロバートはアレンの様子に気づいてギターケースを見ながら言った。
「突然、来て、ごめんね…でも、ロバートなら弦の張り替え上手だったからギターが何か変なら解るかなって…」
アレンはポロポロと涙を流してギターを渡しながら言った。
ロバートが、アレンの言葉をそっと手をあげて遮り、
「アレンなら、いつでも来てくれていいから。もちろん友達も一緒に。開けて見ていいか?」
ロバートはアレンとミシェルに顔を向け言いながら訊いた。アレンは何回も首を縦に振った。
ロバートはアレンのギターをケースから取り出して眺めた。
しばらく無言でギターを見てからギターケースに仕舞うと口を開いた。
「アレンの大切なギターだけど、これ、俺に預けてくれるか?」
アレンは青ざめた。
「え?もしかして壊れたの?」
「糸巻きの部分が、ちょっと浮いている感じがするから。もっとよく診てみたいんだ。必要なら修理するから預かってもいいか?」
「修理って、いくらくらいかかるの?」
アレンが涙を拭きながら訊いた。
「出世払いで」
ロバートは言いながらミシェルとアレンにクッキーとフルーツパウンドケーキを勧めた。
「でも…」
ロバートは言いかけるアレンを手で制し口を開いた。
「俺、しょっちゅうギターを作ったりカスタマイズしているから材料は沢山あるんだ。それと、お茶を飲んだら二人とも俺の部屋に来て」
執事がニコニコしながら紅茶を運んできた。
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