第十四章
月曜日、アレンが教室に入るとミシェルが跳ねるようにして駆け寄ってきた。
「アレン!」
「おはようミシェル」
「おはよう。私、土曜日のこと先生に言ったのよ。ジャックが一方的に絡んできてアレンのギターを取り上げて弦を引っ張って壊したって。…えっと、そのう…私がジャックをひっぱたいたのは言っていないんだけど…でも、ギターも修理するかもしれないから、そうなったら弁償させるべきですって話したのよ。そしたら、ね」
ミシェルは、そこまで一息で話したので息を大きく吸い込んだ。
アレンは黙って聞いていた。
「そしたらね、ジャックは引っ越しすることになっていたんだって!だから、転校したの。もう学校に来ないんだって。だけど先生がジャックの御両親に連絡して、そのことを話してみてくれるって」
ジャックが転校…
アレンは今日、本当なら学校に来たくなかった。ジャックと顔を合わせたくなかったから。でも休む理由にはならなかったし渋々来たのだった。
土曜日にミシェルが映画なら、また、と言いかけた時、ジャックの顔は真っ赤になっていた。
たぶん、ジャックはミシェルのことが好きだったんだと思う。
だからミシェルが僕のギターを聴きに来ていたことに焼きもちを妬いたんだと思う。今まではクラスで悪ふざけしてもクラスメイトにはイタズラしなかったし黒板に落書きとかしたり授業をサボッたりするくらいだった。
自分のギターには関係ないのに八つ当たりしたジャックが嫌だった。
でも転校したなら、もう会うことはないだろう。
「アレン、聞いてる?」
ミシェルがアレンの顔を覗き込んだ。
「あ、うん。何?」
ミシェルの顔が近くにきてアレンはドキドキしながら答えた。
「先生がアレンの御両親にも連絡するって。ちゃんと話してあるでしょ?土曜日のこと」
「土日はパパが仕事で出掛けていたから…ママにも、なんとなく話しそびれちゃって。今日、帰ってから話すよ」
アレンが学校から帰ると父親も帰宅していた。
「アレン、学校から連絡が来たんだけど詳しい話を聞かせてくれるかい?」
父親がアレンを外の建設中のスタジオに呼んだ。
母親は夕食の支度に追われていた。
練習用のスタジオは、ほぼ完成していた。
父親は椅子を用意して息子と腰掛け向かい合った。
「学校の担任の先生からの話だと土曜日にクラスメイトに絡まれてアコースティックギターを壊されたとミシェルから聞いたそうだ。どんな状況だったのか話してくれるかい?」
アレンは頷いた。
「ごめんなさい。土日にパパが居なかったから、僕、ロバートがギターを修理してくれるとか代わりのギターを貸してもらったこととか話してなくて」
父親は微笑み頷いた。
「うん。パパは居なかったからね。で、どうして、そうなったのかな?」
アレンは土曜日のことを話した。
「なるほど…ね。担任の先生の話だと、そのギターを壊した子は引っ越ししたそうで、親御さんに連絡したけど既に連絡が出来なかったそうなんだ」
「うん…僕も聞いてる」
アレンは俯いて言葉を発した。ジャックのことは、もうどうでも良かった。
「パパ、あのね」
「うん?」
「僕、ギターの修理代、ロバートに訊いたんだけど出世払いでいいって…」
父親は少し考えて口を開いた。
「ロバートが、そう言ってくれてもアレンが納得いかないのならロバートに言って話し合ってみてはどうかな。お小遣いから払うつもりなら、いつものようにパパやママの手伝いをしてくれればいいから。さて、そろそろ夕食が出来た頃かな、行こうか」
父親はアレンの髪を撫でて立ち上がった。
…でも、ロバートの様子だと、お金受け取ってくれないだろうな…この前みたいにパークタウンで何か、おごるのならいいとか言うかな。
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