第20話 説明会
「本日はお集まりいただきありがとうございます。労働としての農業のお話をさせていただきます。まずはこの仕事の価値と将来性についてお話します。砂糖は幸福感を与えてくれます。それはチーズケーキを召し上がった皆さんなら、感覚としてお分かりいただけるはず。実際、それは例のお祭りの売り上げにも反映されています。次に将来性についてですが、この島の外にも砂糖はあります。しかし原材料のサトウキビを量産できる体制は出来ていません。それは気候的に向いていないからです。ですがこの島なら量産が可能です。そうすれば他国との貿易で有利になります。外貨の獲得、特産品の入手ができます。砂糖は嗜好品に留まらず、生活必需品になり得る可能性を秘めています。ここまではよろしいでしょうか?」
一人の男が手を挙げる。
「まずは魅力的な提案に感謝する。質問なのだが、売上の具体的な金額はいくらだ?」
「お祭りの粗利益は大体694万ゼニーです。家賃と費用を差し引いて残ったのが大体500万。祭りの出店であることを考えると、一週間ちょっとでこの稼ぎは十分なはずです。他にありますか?」
女性が質問する。
「砂糖の原材料は本当に他国では量産できないの?」
「砂糖の原材料にはてん菜と呼ばれるものもあります。現在島の外ではサトウキビではなくこちらが主流です。しかしサトウキビの方が生産性が高く、気候変動や害虫に強いです。さらに、栽培サイクルが早いです。他に質問のある方はいらっしゃいますか?」
手は挙がらなかった。
「では次に法整備についてお話します。私は以下の決まりを作りたいと考えています。労働時間は最大で1日8時間まで。年休は最低105日で。賃金は、1日で3日間の食事に困らない程度の報酬を最低限とします。可能な限り自然環境を壊さない。子どもは使わない。労働者が仕事中に病気や怪我をしたら雇い主が治療費を払う。以上です」
若い男が挙手をした。
「どうぞ」
「なぜ環境保護を?」
「持続可能な産業にすることと、他の業種に悪影響を出さないためです」
「繁忙期は子どもの手伝いも必要だと思うのですが、それも禁止なのですか?」
「子どもの学びや遊びの時間を邪魔しないこと、危険な作業はやらせないこと、子どもに丸投げしないこと。この3点を守れば、例外として家業の手伝いとして認めたいと思っています」
「病や怪我が故意のものか否かは、どう判断すればいいのですか?」
「事故発生時の状況の詳しい調査、目撃者がいる場合は証言を集め、普段の業務態度や行動から信憑性を確かめます。また、事故現場の状況や使用していた道具などを確認することも判断基準になるでしょう。医者の判断を仰ぐことも有効かと」
「なるほど。ありがとうございます」
「最後に、育成についてです。これは経験者に任せるのが一番ですが、今はその経験者が少ない状態です。したがって、これから畑を買う方には、本で勉強してから栽培を開始していただきます。ゆくゆくは、キャリアを積み、試験を合格した人には教育料を別途支給する形で報酬を増やし、後進育成に励んでもらいます。また、労働者のコミュニティを作るため、希望者には寮に住んでもらうことにしたいと思っています」
「スタートアップにかかる費用と、それを回収するまでの期間はどう見積もっていますか?」
「この場にいる方全員の協力を得られれば、1人当たり月額5066セニーあれば運営が可能です。回回収期間ですが、収穫量や他国の情勢にも影響されるので断言はできませんが、10年ほどかかると予想しています」
それを伝えると一部の人は顔をしかめた。
「一度思い返してみてください。皆さんが社会的に成功するまでには10年では足りなかったはずです。しかし今回はたったの10年です。この場の殆どの方が存命のうちに収支が釣り合うのです。労働者、ひいてはこの島の将来のためにも、どうか改革にご協力ください」
「私は協力しよう」
太った男が賛同の声を上げた。
「俺も」
「私も」
続々と改革に協力の声が上がる。なんとこの場の全員がナザトの案に乗った。
「ッ! 皆さん本当にありがとうございます!」
改革の火は灯った。残る問題はサトウキビを植物に戻すことだけだ。
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