トマト編
第27話 美しい最期とは
ナザトはチューリップを回帰させた後、船に乗りアキレマのアニフォルカに渡った。
――地図を見る限り広くて、その分人も多い。目撃情報が入りやすいと考えよう。
早速聞き込みを始めた。すると予想通りすぐにトマトの情報が入った。曰く、彼女は風花の庭という小さな花屋を営んでいる。毒のある花を売っており、それを使った料理を食べさせようとしてくるとのこと。
――毒草。懐かしいな。山で過ごしていた時、うっかり食べたことがある。あの時は1日中お腹を下したっけ。けどそのお陰で毒物への耐性もつけられたし、結果としてはプラスだったな。仮にトマトさんが本当に毒物を出してきても死にはしないし、誘われたら食べてみるか。
ナザトは花屋に向かった。
「いらっしゃいませ」
――スズラン、夾竹桃、スイセン。本当に毒のある花を売っている。特にスイセンはニラと似ていて、誤食事故の報告が多いことで知られている。これはマジで毒を食べることになるかも。
「何かお探しですか?」
「今日は花を買いに来たんじゃないんです」
手紙を差し出す。
「
トマトは中身を改める。そして泣いた。
「貴女を植物に回帰させるように仰せつかりました。ですがその前に、貴方の抱える問題を解決したいと思っています」
「グスッ。そうですか。なら、皆で食事がしたいです」
「皆とはこの町の人たちのことですか?」
「そうです。セレカレスのところでは皆で食事をしていました。料理は当番制で、私が作った料理は皆から好評だったんです。あれをもう一度体験したくて、出来る限り多くの人と、私の作った料理で食卓を囲みたいのです」
「貴女の料理で、ですか」
――しかし毒を食べさせるのは流石にマズい。ならまずは。
「貴女の料理。食べてみてもよろしいでしょうか」
「ええ、勿論」
時刻は12時。昼食をごちそうになる。ハマス、ピタブレッド、キャロット&セロリスティク、野菜や玄米入りの豆スープ。
――毒ねーじゃん。いや、別にそれは喜ばしいことだけど。
「美味しくありませんでしたか?」
「いえ、どれも美味しかったです」
「それは良かったです。この日のために腕を磨いた甲斐がありました」
「あの、例の噂についてはどう思っているんですか?」
「ああ。「まあいいか」と思っています」
「まあいいかって……」
「調和のためには自分を殺さないといけないこともあるでしょう?」
「最期なんですよ? 悔いが残りませんか?」
「今までこうしてきたんです。だからこれでいいんです。食事をしたいという願いも、ただの世迷言みたいなものですから」
――こうしてきたからこれでいいだと?
「なら、やりきることと我慢することの、メリットとデメリットを考えてみましょうか」
「いや別にそんなことしなくても――」
「まず、やりきることのメリットです。第一に、自分の望みを叶えることで充実感や達成感を得られます。第二に、後悔を減らすことができます。第三に、最後に笑顔でいる姿を見る方が、残された人たちの心の支えになることもあります。第四に、あなたの行動が周囲の人々に、「人生を大切に生きる」という重要な教訓を与える可能性があります」
「ただの食事会で第三と第四のメリットを与えられるとは思えませんけどね」
「次にデメリットです。第一に、自己本位な行動が周囲の人々との関係を悪化させる可能性があります。第二に、他者への配慮を欠くことで、罪悪感を感じる可能性があります」
「食事会をして親交を持ったら、それも心配しないといけません。そこも嫌なんですよ。私は」
「そうですね。ではやらない場合のメリットを考えていきましょう。第一に、最後まで良好な人間関係を保つことができます。第二に、余計な心配や負担をかけずに済みます。第三に、他者への思いやりある行動は、社会的に高く評価される可能性があります。第四に、信念を貫くことで自身を誇りに思うことが出来ます」
「だから私はやらないと言っているんです」
「物事はデメリットまで見ないと判断できませんよ。第一のデメリットとして、自分の望みを抑えることによるストレスや後悔が生じる可能性があります。第二に、本当の気持ちを表現できないことによる精神的な苦痛が生じます」
「信念を貫けるなら、そこにストレスは生じません」
「だったら何で、問題を抱えていないか聞いた時、嘘でも願いはないとか、もう叶ったとか言わずに、素直に答えたんですか」
「あくまで聞かれたからそう答えただけで……」
「タマネギさんは最初に会ったとき、願いはないと答えました。でも違った。褒められたものではないかもしれないけど、ちゃんとあしましたし、叶えました。聞かれたら答えてしまう程度には、本当は我慢したくなんてないんですよ。貴女は。もっと素直になってください」
アニフォルカに着いたばかりの時。
村人が彼女をみてヒソヒソと話をしたいる。
「あんた随分と毒々しい髪色してんな」
赤髪が気になるようだ。
「地毛ですよ」
「なら染めろ。町の皆が落ち着かねぇ」
「分かりました」
ある日。花屋の広告を掲示板に張り出そうとしていた。
「おい、あんた。そこは町長のスペースだ。端の方に貼っておけ」
「1番目立つところに貼りたいんですけど……」
「だから町長はそこに貼るんだ。どけな」
「分かりました」
別の日。
「毒草を扱っていると聞きました」
「はい。毒も扱い次第では薬になるので」
翌日、その客が買った毒草を使った殺人が起きた。
警察の事情聴衆に協力し、犯人は捕まった。しかし、その母親には恨まれた。貴女が警察に言わなければ息子は捕まらなかった。そう言っていた。
それから。
服や髪がボロく、表情の暗い少年の手当てをした。曰く、クラスのマドンナに告白をした。その日以降泥水をかけられたり、不審に物が無くなるようになったそうだ。
結局彼は引きこもってしまったけど、最後に顔を見たとき笑顔でお礼を言ってくれた。
「本当にいいんですか? 素直になったら嫌われたりしないですか?」
「大丈夫です。心を開いたら相手も開いてくれます」
トマトは再び泣いた。涙と共に決意した。必ず悔いのない最期を迎えようと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます