第28話 試作

「さて、料理を振る舞うにしても、現状を変えなくてはいけません」

「「毒を食べさせる」という噂を撤回させなくてはならない、ということですね」

「勿論その考えもありです。しかし、そんな手間のかかることをしなくても、人を集めることはできます」

「そうなんですか?」

「毒があっても食べたいと思わせることが出来ればいいんです」

「そんなこと出来るとは思えませんけど……」

「この町で影響力のある人が、美味しいと言って食べれば皆も食べます」

「それが出来れば苦労はしませんよ」

「何が難しいんですか?」

「この町ではカーストがあるんですよ」

カースト階級。身分制でしたっけ?」

「この町におけるカーストは、法で決まったものではありません。もっと陰湿で社会的な物です」

「階級というより、階層や序列みたいなものですか」

「そうです。下の者は上の者に話しかけることすら憚れます」

「それは面倒ですね。でも法で決まっているわけではないなら、逆転した人もいるんじゃないですか?」

「ええ。スポーツの大会で活躍した人が上位に成りあがった例があります」

「スポーツ。つまり、上位者の領分で活躍すればいいわけですね。料理人の上位者とかいらっしゃいませんかね?」

「マークという方がいます」

「いいですね。ではその方に気に入られましょう」

「具体的には何をすればよいのでしょう?」

「料理人ならコンテストを開催することもあるでしょう。そこでトマトさんには優勝してもらいます」

「コンテストって、そんなこと言われても、私はそこまでの腕はありませんよ」

「大丈夫です。コンテストの審査基準は味だけではありません。独創性や見栄え、汎用性などで戦えば良いんです」

「簡単に言ってくれますね」

「貴女なら出来ると信じているから言っているんですよ」

 はぁとため息をつく。

「そう言われたら断れないじゃないですか」

 その日からコンテストに向けて料理を考えることにした。


「折角コンテストに出るんです。トマトここにありと表しましょう」

「なら、作ってみたい料理があります」

「試作しれみましょう」


 1トマトのヘタをくり抜き、熱湯に通す。皮がめくれてきたら、冷水にとって冷まし、皮をむく。

 2皮むきしたトマトをざく切りにする。

 3ニンニク、タマネギをみじん切りにする。フライパンにニンニクとオリーブオイルを入れて、弱火で焦がさないように熱する。フライパンをななめにして、油がかぶるように炒めるとうまく香りが立つ。香りが立ったら、タマネギを加えて、弱火でじっくり炒め、タマネギの甘みを引き出す。

 4ざく切りしたトマトを加えて、軽く混ぜる。塩、コショウ、ハーブを加え、フタをせずに中火で7~8分ほど煮込む。

「これでトマトソースの完成です!」

 ナザトはスプーンでソースを掬って口へ運ぶ。

「んー。美味しいですね。酸味と甘み、そして旨味が引き立っていますね」

「ここからが本番です。このソースとひき肉を煮込んでミートソースにします」

「それで、このソースを使って何を作るんですか?」

「スパゲッティです」

「定番の料理に新機軸。いいですね。美味しいですし、これは優勝狙えるかもしれませんよ」

「他にも作ってみたい物が2つあります」


 試作を開始する。

 1ぬるま湯を用意する。

 2ボウルに強力粉、薄力粉、砂糖、ドライイーストを入れてよく混ぜる。塩、ぬるま湯、オリーブオイルを入れて粉気がなくなるまで混ぜる。

 3台に取り出して表面がなめらかになるまで擦り付けるようにこねる。

 4表面が張るように丸め、ボウルに戻し入れる。薄い布を被せ、常温で2倍ほどの大きさになるまで1時間〜1時間30分ほどおく。

 5台に打ち粉をふり生地を取り出す。生地の上にも打ち粉をふり、手のひらで押すようにガスを抜く。

 6指の腹を使って生地の中心から外側に向かって少しずつ25cmほどの大きさになるまでのばす。

 7生地にソース、モッツアレラチーズ、バジルを乗せて窯に入れて60秒~90秒焼く。

「モッツアレラピザ"マルゲリータ"の出来上がりです」

「トマトの酸味とチーズのコクがバッチリ嚙み合ってとても美味しいです」


「それは良かった。では、最期の試作といきましょう」

 1トマトのヘタをとり、くし形に切って、皮ごとみじん切りにする。

 2トマトを鍋へ移し、つぶしながら2/3量くらいまで中火で煮詰めてザルにとり、裏ごしをする。トマトを煮ている間にスパイス液と香酢をつくる。

 3別の小鍋に、タマネギ、ニンニク、種を取った赤唐辛子、水を加え、20分ほど弱火で煮る。

 4別の鍋に酢、スパイスを入れ、沸騰させないように弱火で4~5分煮る。

 5鍋にトマト、スパイス液、香酢を入れる。この際、スパイス液を作るのに使った唐辛子は取り除く。塩、砂糖を加え、強火にかける。

 6沸騰したら中火で約20分煮詰める。煮詰まってくるとハネるので弱火にし、トロトロになるまで煮詰めたら。

「ケチャップの出来上がりです」

「トマトソースとは何が違うんですか?」

「ソースはシンプルなトマトを味わうもので、ケチャップはソースというより、甘酢くて辛い調味料ですね」

「ケチャップの方が味が濃い感じですかね」

「そうです。そしてこのケチャップを使って作るのはオムライスです」


 1タマネギをみじん切りにする。マッシュルームを薄切りにする。鶏もも肉を1センチ角に切る。

 2油をフライパンに引いて、タマネギ、鶏肉、マッシュルームを焼く。ある程度妬いたらバターを入れる。そうすることで米がパラパラになる。

 3米を入れ、塩と香辛料で味を調える。ケチャップを大匙2杯入れて、しっかり絡ませる。

 4チキンライスを檸檬状の形にして皿に乗せる。

 5卵を3つ、黄身と白身がしっかり混ざるように30秒ほど素早く混ぜる。

 6油小さじ1入れたフライパンに、卵を投入し、素早く混ぜる。先端に寄せ、レモン状の形にする。繋目が上まで来たらひっくり返す。

 7形を整えたら再び繋目を上にし、米の上に乗せる。ナイフを薄く入れて卵を割る。そこにケチャップをかける。

「さあ、召し上がれ」

 実食する。

「卵が柔らかいですね。具材のお陰で食感も楽しいです。あれだけ入れてもケチャップが主張しすぎてないのもいいです。これなら本当に優勝狙えますよ」

「じゃあエントリーする料理はオムライスにしましょうか?」

「最有力候補ではありますね。詳しいことは明日にしましょう。もう夕暮れです」

「そうですね。じゃあまた明日」

「また明日」

「……試作品これ、どうしよう」

 この後めちゃくちゃ食べた。

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