第21話 不遜
説明会が終わった夜。ナザトはサトウキビを自室に呼び出した。
「貴族や政治家の方々にはお話をしました」
「そうですか。私の悪あがきもここまでですか。あーあ、死にたくないなぁ」
「私はそれでもやらなければなりません」
「そういえば、何であなたはセレカレスと交渉したの?」
「私の為です。私には知りたいことがあって、彼女はそれを知っている。教えてもらう条件として、皆さんを植物に戻すことを提示されました」
「自分のために人を殺すなんて、不遜なんですね」
「そうですね。私はずっと誰かの命を犠牲にして生きてきました。だからこそ、犠牲にしてきた方には納得していただきたいし、無駄にするような生き方はしないと決めています」
「強い人だなぁ。これじゃ言い負かせないや。じゃあ、やっちゃてくださいよ。一応初期の願いは叶ったし、私の死後もサトウキビは残るみたいですしね」
「ありがとうございます。必ず私は皆さんが抱える問題を解決してみせます」
ナザトは彼女を元の姿に戻した。
「カイさん。ナージャさん。サトウキビさんを植物に戻しました」
彼女だったものを見せる。
「そうか。ナージャの読心の魔法で知ってはいたが、あいつは本当に植物だったんだな」
「おっしゃる通りです」
「寂しくなるわ」
「申し訳ありませんが、私はこうするために、ここに居ましたので」
「もう用が済んだなら、明日には出て行ってもらうぜ」
「あなた、もう少しゆっくりしていってもらってもいいじゃない」
「お気遣い感謝します。しかし私にはやることがあるので」
「そう。でも朝食は食べていってちょうだい」
「お言葉に甘えてさせていただきます」
翌朝、ご飯を食べたナザトは海岸に向かった。
――次の目的地は、少し北上したところにあるアヅナロだ。チューリップがいる。とりあえず貿易船に乗れないか交渉してみよう。
と考えていたら声をかけられた。
「マウセさん⁉」
「カイさんの家に向かってみれば、出ていったというから駆け付けたんですよ」
「何か御用ですか?」
「移住者かと思ったら旅人だったんですね」
「そういえば言ってませんでしたね」
「本来改革を掲げるなら最後まで付き合うものですよ」
「申し訳ありませんが、私には他にもやらなければならないことがありますので」
「今回は私が引き継ぎます。その方が上手くコントロールできますからね。ですが、信頼を失いたくないなら、こんな半端なことはしない方が良いですよ」
「ご忠告感謝します」
「ところで、船の当てはあるのですか?」
「今丁度それを探しておりまして……」
「餞別です。送っていきますよ」
「ありがとうございます」
数分待ち、彼の船が海岸に着く。それに乗ってアリエダム諸島を出た。2人は船の上で軽く談笑した。アヅナロへ到着した。
「では、頑張ってくださいね」
「はい。私も改革を陰ながら応援しています」
手を握る。姿が見えなくなるまで見送る。
海に背を向け町に向かう。アヅナロは少し煙たい臭いがした。
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