第33話 鏡
トウモロコシの能力を分析するために、彼女に付きまとうことにした。
「一晩寝て考えました。あなたの能力が植物由来のものなら、あなたが育てたトウモロコシを食べれば私の身にも、何か変化があるかもしれません」
「残念だけどそれはないと思うよ」
「やってみないと分かりませんよ。お手数ですが、トウモロコシを出してくれませんか?」
「まぁ、やるだけやってみたくなるのは分かるけど」
生のトウモロコシを出す。
「いただきます」
「……」
「……」
特に変化はない。
「鶏たちの餌にはトウモロコシを混ぜている。それでもあいつらは普通の鶏だ。この時点で無意味なのは分かるだろ」
「人間と鳥では違うかもしれないじゃないですか」
「分かるよ。セレカレスが食べても変化はなかったんだから」
「それ最初に言ってくださいよ」
「だから「それはないと思う」って言ったんだよ」
「ぐぬぬ」
「もう集卵の時間だから帰って。もしくは手伝って」
「手伝います」
――少しでも彼女のことを知らないといけない。このままおめおめと帰れない。
昨日と同様に卵を回収する。事務所で仕訳をし終わった。
――彼女はまだ戻ってこない。今のうちに居住スペースを見てみよう。
階段を上り、彼女の部屋に入る。
「!!」
殆ど何も無い。布団とクローゼットだけだ。買ったばかりの新居の様だった。
――事務所には経営に必要な、最低限の物しかなかった。生活スペースがこれは、いくら何でも……。
下から足音が聞こえる。急いで下に戻る。
「仕訳は終わったみたいだね。ご飯にしようか」
昼食を食べながら、ナザトは違和感を抱いた。
「おや、今日のご飯は美味しくなかったかな?」
「いえ、美味しいですよ」
――そう、この料理には違和感はない。二階に原因が? いや、あの部屋だったら戻ってから違和感を抱くはずもない。ならこの部屋に原因はある。
午後、違和感の正体に気が付けず、作業が終わった。
帰り道を歩いているとき、やっとわかった。
――あの建物、窓がないんだ。鏡も無かった。トウモロコシの施設には姿が映るものがないんだ。でも何で? 知らなければ。
施設に戻る。
「あの!」
「?」
「どうしてこの施設には、鏡や窓が無いんですか?」
「なんでって、某は自分の姿を見るのが嫌いなんだよ」
「どうしてですか?」
「さあ、なんでだろうね」
「答えるつもりはありませんか。では、別の質問です。姿を見たくないことと、貴女の能力は関係がありますか?」
「ふむ。無いとは言い切れないかな?」
「そうですか。ありがとうございます。失礼します」
――鏡に映らない。または映ってはいけない能力なんだ。
――とか考えてるのかな? 彼女は。でも別にこの能力は鏡とは関係ないんだなー。
トウモロコシは日記を綴る。
彼女と出会ってから視線を感じるようになった。きっと彼女こそが……。だとしたら私の願いの2つは叶いかけている。私が偉業を成すまではここに居てもらわないとね。
翌日。ナザトは鏡を持ち込むことにした。
――さて、どうやってこれを見せたものか。
「まったく、今日も来たのか。どんだけ俺に付きまとうのさ」
「依頼達成まで」
「真面目なのはいいけど、こっちの気持ちも考えてほしいものだね」
「すみませんね。こういう性分なんです」
「あっそ。で、今日も手伝ってくれるの?」
「勿論です」
その日、集卵しているとき、1羽の鶏が鶏舎の隅で震えているのが見えた。産卵が始まるのかと思い様子を見てみる。10秒ほど見ていたが卵は出てこない。
「トウモロコシさん。あの子様子がちょっと」
トウモロコシにその鶏を見せる。
「……ああ、そうか。自分はこの子を連れて行くから、集卵の続きを頼む」
「承知しました」
集卵が終わり事務所に着いた。
「あの子はどうしたんですか?」
「別の鶏舎に移した」
「なぜ?」
「あの子は虐められていたんだよ」
「⁉」
「つつかれた跡があった」
「鶏にも、そういうのあるんですね」
「神様は残酷だよね。人間も動物もまるで纏まりがない。よくもまあ、こんな不完全な舞台を用意してくれたものだよ」
「私は神様とかよく分かりませんけど、確かに世の中、どうしようもない絶望や悲しみを感じることもありますよね」
「君でもそう思う事があるのか!」
視覚効果を使い、「!」を浮かべながらそうリアクションをとる。
「私を何だと思っているんですか! ていうかそれどうやっているんですか⁉」
「この感嘆符か? これこそが君とは別の舞台に立つ者の能力。言っとくけど、これは植物由来じゃないからね」
「その感嘆符、鏡に映してもいいですか?」
「まぁ、別にいいけど……」
トウモロコシは少し冷めた目と声で了承する。
――私の予想ならこの能力は映らない。どうなる。
感嘆符は鏡に映ってしまった。
「なっ」
「どうした? 予想が外れて驚いたか?」
「ええ。そうですよ。能力が鏡と無関係なら、なんで鏡を避けるんですか?」
「フッ。だって、作り物じゃん」
「作り物? 確かに鏡に映るのは虚像ですけど、そこ拘ります?」
「私は気になるんだよ。鏡に映るモノが。自分以外のモノだって映したくないくらい」
「変わってますね」
「そう。拙者はそんな変わり者を探している」
「! それが貴女が抱える問題」
「の、1つさ」
「何で今になって急に答えたんですか?」
「焦らしすぎたらイライラするだろ?」
「訳が分かりません」
「理解出来ぬものはある。柔軟になれよ。お嬢ちゃん」
――彼女の核心に近づくことが出来た。けど、どうすれば願いを叶えられるんだろう。
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