第34話 来訪者

 呼び鈴が鳴った。

「お客さんかな?」

 トウモロコシは事務所の戸を開ける。

「今日も卵買いに来たわよ」

「ランカさん。いつもありがとう」

 どうやらお得意様らしい。

「ここは1パック6個入りを50ゼニーで買えるから助かってるわ。なんだか申し訳ないくらいよ」

「採算は取れてるから安心してよ」

「そう? じゃあこれからもお願いね」

 ランカはそう言って事務所を出た。


「本当に元取れてるんですか?」

「本当だよ。如何に私が金儲けに興味が無いとは言え、営業継続に必要な分は稼がないといけないからね」

「それ以外はどうなんですか?」

「ん?」

「私生活にはどれくらい使っているんですか?」

 布団以外何もないあの部屋を思い返し、疑問に思った。

「言われてみれば、何も使ってないなぁ」

「自営業だと忙しいからですか?」

「いやぁ。価値を感じないからじゃないかなぁ」

「無価値感ですか」

「君もこの舞台に来れば分かるよ。まあ、君はきっと来れないと思うけど」

 煽るような言葉だが、その気はない。むしろ来られないことを羨ましく思っている。

「キツイですね」

「移動することが幸せとは限らないからね」

「じゃあ、貴女は今不幸なのですか?」

「そうだね。幸せだったら、君の仕事を即座に終わらせられただろうね」

「だったら尚更話を聞かせてくださいよ。抱えている問題を教えてくださいよ」

「てちかちとにくち、のらみらといのちにきちはにのなとんらみしいちすなからとにかかいにすな」

「は?」

「直接的なことを言おうとするとこうなる。だから言おうとしても言えないんだよ。まあ、同じ舞台に立っていると、意味は通じるんだけどね」

「最初から言ってくださいよ」

「嫌だよ。これ気持ち悪いんだもん」


 事務所の呼び鈴が鳴った。

「誰だろう?」

 戸を開けると見知らぬ女性が立っていた。

 バーンという視覚効果を使いながら話し出した。

「もいかちみにみかにきちしいのにかいにすなもらみらみらのらいきちのにのらいかち」

「ハハハ」

「ははは」

「「アハハハハ!」」

 女性とトウモロコシは大声で笑った。涙を浮かべ笑いあったかと思えば抱き合った。

 ――え。どういうこと。

「私はギン。君と同じ水域に住んでいる者だ」

「僕はトウモロコシ。君と同じ舞台に立っている者だ」

「そうか。舞台か。随分と攻めた表現だ」

「水域。確かに的を射てる。良い表現だ」

「えっと、どういう状況ですか。これは?」

 ナザトが質問する。

「ナザト、俺の願いの1つが叶った。今から他の願いを叶える準備をする。悪いが2人だけにしてくれ」

「あっ、はい」

 事務所を出て、彼女が泊まっている旅館に向かった。

 2人のペースに完全に飲まれていた。

 ――あれが私とは違う舞台にいる人たちの会話。確かについていけない。というか、なぜあの舞台に立たなければ、願いが叶えられないのだろう。

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