第30話 食事会
「続きまして、栄えある1位の発表です。本コンテストの優勝者は、エントリーナンバー10番ジェームズ。アニフォルカロールです」
歓声と拍手が沸き起こる。
優勝トロフィーと賞金100万ゼニーが授与される。
「ありがとうございます。僕の優勝は師匠のご指導あってのものです。彼に感謝を」
コンテスト終了後、入賞者はマークの作った料理を食べ、運営委員会の者と歓談出来る。
「皆お疲れ様。良い料理だったよ」
3人は「ありがとうございます」と答える。
「今回は3軍の中から入賞者が出るとは思わなかったよ。トマトさんだっけ? 噂は耳にしていたけど、あれ違ったみたいだね。事前に材料はチェックしたけど毒は無かった。材料は自分で調達しているのかい?」
「はい。あれは私が自分で育てています」
「そうかそうか。君がよければ、その材料の研究に協力してくれないかな?」
「え?」
「使い道は他にも色々ありそうな気がするんだ。どうだろう」
「あ、えっと、その」
「まあ直ぐに返事をするのは難しいだろうから、ゆっくり考えてね。待ってるから」
「あっ、はい」
歓談会が終わった。
トマトは自分の家へ戻る。
「お帰りなさい」
ナザトが出迎える。
「ただいまです」
トマトはマークから、研究に誘われたことを伝えた。
「いいじゃないですか。優勝こそ逃しましたが、上位者とのコネを手にすることが出来ます。これなら食事会が開けますよ」
「分かりました。じゃあ、ナザトさんも来てください」
「私が行っても手伝えることはないと思いますけど?」
「うまく喋れる自信が無いので」
「あぁ、そうですか。なら仕方ありませんね」
翌日。2人はマークのところへ向かった。
「もう来てくれるとは思わなかったよ。上がってくれ。お茶でも飲んで話をしよう」
家政婦がお茶を持って来る。
「改めて昨日はお疲れ様。いい料理だったよ」
「あっ、ありがとうございます」
「あの大会は味は勿論、新規性も重視しているから、それが効いたね」
「あれは前から考えていて、やってみたいと思っていたんです」
「そうだったのか。3軍も馬鹿にできないね」
「はは。どうも」
「マークさん。ちょっといいですか?」
ナザトが口火を切る。
「君は?」
「ナザトと申します。トマトさんの受託者で、2週間ほど前から彼女と知り合い、彼女の願いを叶えるためにサポートをしています」
「自己紹介感謝するよ。私はマーク。この町1番の料理人と呼ばれている」
「この町はそんなにカーストが大事なのですか?」
「人は意識的であれ、無意識であれ優位に立ちたがるんだよ。この町は元々小さなグループ、民族が集まって出来た歴史がある。自分たちの特権や優位性、アイデンティティを守るためには勝ち続けなくてはならない。だから今更カーストを無くそうとか思っても無駄だよ」
「無くしたいなんて思ってませんよ。ただ、垣根を超えて仲良くすることは出来ないものかと」
「それを実現したければまずは自分が上位者になることだ。改革には様々な力が必要だからね」
「そんなこと、知ってますよ」
アリエダム諸島で農作業を労働として認めさせることを経験した彼女にとっては、釈迦に説法である。
「だから私たちは貴方とコンタクトを取ったんです」
「へぇ。何を企んでるの?」
「ただ、皆と一緒に食事がしたいだけですよ」
「なるほどね。確かに君たちの立場では叶えられない願いだ」
「お礼として研究に協力する。これでどうでしょうか」
「いいよ。乗った」
「ありがとうございます」
5日後。
トマトの家で食事会が開かれた。コンテストでは出せなかったピザや、新規に考案したメニューなどを次々と作った。
「お姉さん」
「っ……」
そこには、かつて彼女が助けられず、引き篭もってしまった少年の姿があった。
「お姉さんが食事会するって手紙が届いたから、来ちゃった」
「ダニア君」
彼女はダニアを抱きしめる。
「助けられなくてごめん」
「ううん。あの時手当てしてくれたから、僕にも味方がいるって思えた。だから引き篭もった後も家業の手伝いは出来た。お姉さんのお陰だよ。ありがとう」
嗚咽を漏らして泣いた。
夜。
「やっと片付けも終わりましたね」
「はい。色んな人が来てくれた証です」
「満足できましたか?」
「はい。もう思い残すことはありません」
「それでは――」
トマトを回帰させようとした時だった。戸が鳴った。
「誰でしょう?」
「回帰は対応してからでいいですか?」
「どうぞ」
「はーい。今出ます」
戸を開けると男が立っていた。
「トマトさんですね?」
「ええ。そうですけど」
「裁判の証人として同行願います」
「裁判?」
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