第31話 野菜か果物か
「証人としてと言われましても、一体何の裁判ですか?」
「トマトは野菜か果物か。そういう裁判です」
トマトは呆れて声が出ない。
「は? 何ですかその下らない裁判は?」
ナザトはその下らなさを指摘する。
「詳しい事は明日。裁判所でお話します。それでは」
男は去った。
「えっと、どうしましょう」
「仕方ありません。回帰は裁判の後にしましょう」
翌日。
「本裁判では、「トマトは野菜か果物か」を話し合います。まずは原告から主張を始めてください」「植物学的にはフルーツとは植物の果実のことであり、トマトは植物の果実です。彼女の研究資料や現物を見て、はっきり分かりました。故にトマトは果物であることは明白です」
「では次に被告、主張を始めてください」
「私はトマトは野菜であると主張します。トマトはデザートではないからです。先日のコンテストでも昨日の食事会でも、トマトはデザートとしては食されていませんでした。このことからトマトは野菜であると主張します」
「と、このように両者譲らない状況です。そこで、最初にこの植物をこの地に持ってきたトマトさんには、トマトが植物か果物かを証言していただきます」
――果物とか野菜とかの分類は人間が決めたことだ。だから私にも分からない。でも分類として果物なら、きっとそうなのだろう。
原告と被告の方をチラリと見る。
「ト、トマトは野菜……です」
被告はニヤリとし、原告は頭を抱えた。
「決まりましたね。トマトは野菜である。以上の結論を以て、本裁判を閉廷とします」
原告はトマトに声をかける。
「どうしてですか? どうして本当のことを言わなかったんですか⁉」
「だって、被告の人、顔が怖かったから」
「いいですか。彼がトマトを野菜にしたがっているのは、税金を集めたいからなんですよ」
「税金を?」
「現在この町では野菜には関税がかけられています。しかし果物は無税です。彼は必要以上に税金を集めたいから、トマトを野菜にしようとしているんです」
「そ、そんなこと、言われても……」
「お願いします。真実のために勇気を出して声を上げてください」
「あの、その、ごめんなさい」
彼女は逃げ出した。
家に帰ると、丁度ダニアが来ていた。
「お帰りなさい。お姉さん」
「ダニア君」
「僕家の都合で遠くへ引っ越さないといけなくなったんだ。だから最後に挨拶をしようと思って」
「そっか。とりあえず上がってよ」
「トマトジュースでいいかな?」
「ありがとう」
「昨日は来てくれてありがとうね。良い思い出になったよ」
「こっちこそ、この町で楽しい思い出があったって思えるのは、僕にとって救いになるよ」
「……やっぱり君は強いね。自分の思ってることを素直に言える。私には出来なかった」
マークに食事会について話すことも、裁判でトマトが果物であると主張することも出来なかった彼女にとって、ダニアの真っ直ぐな生き方は羨ましく映る。
「そのせいで痛い目を見たから考えものだけどね。でももし、素直になりたいなら1つアドバイス。どちらにしても悔いは残るんだから、自分の心が楽になる方を選ぶべきだよ」
「そっか。そうだよね。ありがとう。心が決まったよ」
翌日。果物派の元へ行き、第二審を開くことを提案した。その日のうちに二審は開廷された。
「「トマトは野菜である」これに異議申立があったため第二審を開廷します。原告、主張を始めてください」
「以前申し上げた通り、植物学上トマトは果物です。トマトさん。改めて証言をお願いします」
「昨日の証言の後、研究の資料を見返して分かりました。トマトは果物です」
「おかしいですねぇ!」
被告が声を上げる。
「昨日は野菜であると主張していたではありませんか! その時既に資料は存在していました! それなのにたった1日で意見を変えるなど、そんな意志薄弱な証言など証言足りえませんよ!」
「それを言うならば、昨日の証言だって怪しくなります。そうなったら、分類に従って果物とすることになりますが?」
「ではその分類の仕方がおかしいのでは?」
「植物学では、果実とは花の一部である子房が受粉後に発達して構造をいいます。トマトは花の子房から発達し、中に種子が含まれているため、この定義に完全に当てはまります。この分類は疑いようがありません」
「それなら……、それなら……」
「決まりましたね。トマトは果物である。以上の結論を以て、第二審を閉廷します」
「裁判での証言、見事でした」
ナザトはトマトを称える。
「私も最後くらいは、心が楽になる方を選びたかったんです」
「そうですか。じゃあ、やりますよ」
「ありがとうございました。ナザトさんの旅が良いものであることを願ってます」
回帰させた。
――「いいもの」ね。当り前だ。私の旅は私だけの旅ではないのだから。
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