第9話 出港

「姐御ぉ!」

 海賊たちは海に落ちたトウガラシを探す。船に着いた火は鎮火済みである。だが、穴が開いていることに変わりないので、ゆっくりしか移動できない。

「クソッ、じれってーな」

「これ以上早めれば穴が広がる。仕方ねーだろ」

 水面に泡が湧く。

「あそこ、きっとトウガラシさんがいるのでは?」

 ナザトが発見する。

「でかした」

 船が近づくと、トウガラシが顔を出した。その手には財宝が抱えられていた。


 彼女を船に乗せる。

「ふー。死ぬかと思ったぜ」

「それはこっちのセリフですよ」

「何で財宝なんか集めてたんですか。姐御」

「ああ。これはな、私がネニスに来るときの船に乗せていた貿易品なんだよ」

「⁉」

「私が船員を集めるとき、海中の財宝を見つけるように課題をだすだろ? それはこの貿易品を少しでも回収したかったからなんだ」

「そうだったんですね。私が見つけた錆びない刀は、貿易品でしたか?」

「いや、それは違った。だからあれはお前の物にしてくれ」

「分かりました」

「よし。じゃあ神父。鎮魂の祈りを頼む」

「かしこまりました」

 トウガラシは海を眺めている。

 ――船長。皆。やっと終わったよ。あの時の貿易品も回収出来た。私も町に戻ったら、皆のところに行くよ。もうちょい待っててくれ。

 祈りが終わった。


 海賊団はネニスに帰ってきた。酒場で祝杯を挙げる。

「ここは私の奢りだ! じゃんじゃん飲め! 乾杯!」

「「乾杯!」」

「それにしても、船長が烏賊の口ん中入ってったときはヒヤッとしたぜ」

「ああ。仮に口内で防御魔法が砕けても、私は食われないから安心しろ」

「なんで奴は船長は食わなかったんでしょうね?」

「私が魔道具由来の生き物だからだろ。同種なんて食らいたくはないんだろうよ」

「同族だなんてとんでもない。姐さんは俺たちの船長で仲間だ。そうだろ? お前ら」

「当り前よ」

「そうだぜ。姐御は俺たち側の人間だぜ」

 そんなこんなで盛り上がった。円もたけなわ。海賊たちは解散した。


「ナザト。改めて例を言うよ。私たちの船に来てくれて、魔物と戦ってくれて、本当にありがとう。お陰で本懐を遂げられた」

「こちらこそ、いい経験が出来ました。ありがとうございます」

「もう思い残すことはない。やってくれ」

「はい」

 彼女はトウガラシに魔道具を被せ、元の植物に戻した。

 ――4人目。ここに来てから約6日。思ったより早く済んだ。でもまだ先は長い。あと10人。彼女たちはどんな問題を抱えているのだろうか。まあ何であれ、1人1人真剣に向き合うだけだ。


 翌日。ナザトは港に来ていた。

 ――海町に来たんだから、船で移動しないと勿体ないよね。

 彼女は船で次の目的地に向かっている。そこはオツピジェ。数時間で着く。

「おーい!」

「トウガラシ海賊団の皆さん」

「船長はもういない」

「そこであんたに船長の座を譲ろうって話になったんだが……」

「ごめんなさい。私にはやることがありますから」

「ありゃー。断られたかー」

 海賊たちは緩い反応をする。

「何というか。平時は緩いんですね」

「仲間の前だからだよ」

「仲間……。そうですね。私たちは仲間ですもんね」

「おうよ。だから困ったことがあったらいつでもここに来い」

「頭の片隅にでも入れておきます」

 汽笛が鳴る。

「引き留めて悪かったな。じゃあ元気でな」

「皆さんも」

 手を振って分かれる。姿が見えなくなるまで手を振る。それは彼らの、分かれたくない気持ちの表れだ。しかし分かれなければならない。彼らには別々の生活があるのだから。

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