第25話 勝利

 翌日、2人はサルケスから紹介を受けて他の金持ちのところへ行った。

「初めまして。ウーヌスさん」

「やあ、サルケスから聞いてるよ。麻を潰したいんだってね」

「正確には「競合製品を潰したい」ですけどね」

「何だっていいさ。あの人生破壊草を無くせるなら協力は惜しまないよ」

「感謝します」

「それで、俺は何をすればいいのかな?」

「ウーヌスさんには、大麻が原因で死んだ人を見たという噂を流していただきます」

「それだけか?」

「その後は、デモにも参加していただきたいと考えております」

「それは任せてくれ。というか、デモなら俺も考えていてな、人を集めていたんだよ」

「おぉ、それはありがたいです」

「他に何か要望はあるかな?」

「デモに参加する方の中から、麻の輸出規制を提案する方を選出していただきたいです」

「それも俺が引き受けよう」

「よろしいのですか?」

「むしろデモをするなら、そういう所まで求めてこそだろ」

「ありがとうございます」


「準備はこれで終了ですわね」

「ええ。3日後、大麻の噂を流しデモを決行。輸出規制を敷いたところで、チューリップの噂を流布。商売を本格的に始めます」

「売れてきたら、大麻を売っている会社を買収してチューリップの流通を確保ですわ。お値段は球根一口4万ゼニー、種一口4百。売れるだけ売りますわよ」


 3日後。噂は瞬く間に流れ出した。

「聞いたか? 大麻中毒で死んだ奴が出たってよ」

「あー。吸った後意識失う奴の延長かー。あり得るなー」

「そんなの自分の許容量を見極められない初心者の自己責任だ。俺たちには関係ねーな」

「いや俺、今でもたまにバッドトリップするんだけど」

「かー。情けねーな」

「おー、何話してんの?」

「あっ、アニキ。聞いてくださいよ」


 1週間経つ頃には、噂は完全に町中に広まった。そしてデモが始まった。

「大麻生産を止めろ!」

「止めろ!」

「一時の快楽に身を委ねるな!」

「委ねるな!」

「輸出入を禁止しろ!」

「禁止しろ!」


「古典的で簡単なデモですわね」

「まぁ、お金持ちのデモ。つまり、参政権を持っている人の主張ですから、手の込んだ事はしなくていいんですよ。事前告知みたいなものです」

「詳細は議会で。ということですわね」

「その討論中に、チューリップが1億で売れたことが広まるように、そろそろこっちの噂も広め始めますよ」

 その日、ナザトたちは証券取引所の片隅でチューリップを売っていた。

 多くの人が通り過ぎていく。

「ナザトさん。全然人が来ませんわよ」

 チューリップは不安そうにする。

「慌てないでください。1人止まれば勝ちですから」

 対してナザトは冷静だ。


 1時間、2時間、2時間半。午前の販売を終えようとした時だった。

「君たち、売り場所間違えてんじゃない? ここは証券取引の場だ。そんなもの売れないよ」

 ――野次馬。これから客になるとも知らずに話しかけてきたか。嬉しいよ。

「そんなことありませんよ。実はこの間、縞模様のチューリップが1億で売れたんです」

「冗談も休み休み言えよ。そんなものが1億で売れるわけがないだろう」

「本当ですよ」

「じゃあ誰が買ったのか言ってみろよ」

「サルケスさんです」

「言ったな? 嘘だったら、ここの球根売りは嘘つきだって言いふらすからな」

「かまいませんよ。逆に、本当だったら買ってくださいね。球根」

「10口でも100口でも買ってやるよ」


「なあ、チューリップが1億で売れたって知ってる?」

「1億ぅ⁉ 花にそんな価値ねーだろ」

「いや、俺もそう思ったんだがよー、配達のノルカが裏取ったんだよ」

「マジかよ。どこのモノ好きが買ったんだ?」

「サルケスって奴だってよ」

「あの仙人みてーな奴が? あいつにも物欲があったのか?」

「どーもきな臭ぇな。何か裏がありそうだぜ」


 大麻生産および流通の議論が白熱する中、チューリップの噂が町中に広まった。世論は大麻からチューリップへと変わりつつあった。

 結果大麻派は負け、生産は縮小し、関連会社はチューリップを扱うようになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る