第18話 第一交渉
――とは言っても、何から始めたものか。まずは仕事の価値を明確にして、広めないと。その次は成果を公表する。そんで育成機関を作る。そのためには金持ちや政治家からの信頼を得て法整備をしないと。さらには労働者のコミュニティを作って、存在を大きくする。できれば将来性も伝えたい。
「やることいっぱいだな」
紙に計画を書き始める。
仕事の価値:砂糖は幸福感を与えてくれる。それは例の祭で島の住民は身をもって知っているはず。その元になるサトウキビは社会的に意味がある。
成果:祭りの粗利益は大体694万。家賃と費用を差し引いて残ったのが大体500万。祭りの出店であることを考えると、一週間ちょっとでこの稼ぎは十分なはず。
金持ちや政治家の信頼:マウセさんを頼ろう。法整備も彼らにお願いすれば何とかなるかな。
育成機関:最初の農家の方々に任せる。知識はサトウキビさんから伝授してもらわないといけないけど。
コミュニティ:畑仕事をしている方には、なるべく近所に住んでもらおう。そうすれば自然と交流できるはず。
将来性:砂糖はこの島以外にもあるけど、まだ量産できる体制は出来てない。この島で大量生産できれば交易ができる。そうなれば外貨の獲得や特産品の入手ができる。生活が豊かになる。砂糖には、嗜好品でありながら必需品になり得る可能性がある。
――早速交渉だ。
マウセの家。
「ごめんください」
「どちら様ですか?」
「こちらの建築に携わった、ナザトという者ですが」
「確かサトウキビ畑の。上がってください」
「失礼します」
客間に通される。
「本日はどのようなご用向きで?」
「献上したサトウキビ畑についてお話を聞きたくて」
「ああ、今勉強しながら育ててますよ」
「マウセさんが畑に出ていらっしゃるのですか?」
「まさか。従者の仕事ですよ」
「仕事。今仕事とおっしゃいましたね?」
「そうですが何か?」
「実は――」
サトウキビの話をする。
「無賃労働ですか。それは確かにいただけませんね」
「彼女曰く、労働として認められていないからとのことです」
「確かに、私も農作業単体での賃金は出していませんね」
「農業は立派な労働です。労働には対価が支払われるべきです。彼女の畑で働いている子どもたちにも給料を与えなければいけません」
「そうですね」
「そこでマウセさんには、農業を仕事としてこの島に定着させることを手伝っていただきたいのです」
「それは出来ない相談です」
「どうして⁉」
「私は砂糖の生産ラインを独占できるから畑を求めたのです。定着させてしまってはうま味が無くなる」
「それはそうですが……」
「もうお引き取りください」
駄目だ。ここで引き下がるわけにはいかない。
「……ならば私も鬼になります」
「……」
「砂糖は全て奴隷によって作られたものであると吹聴します」
「ああ、それは困る。では条件つきで協力しましょう」
「何なりと」
「サトウキビさんには今後、砂糖およびサトウキビ畑を作ることを禁止します」
――それについては問題ない。
「そして彼女が作った畑は私が買収します」
「承知しました。その条件を受け入れます」
――第一段階は完了した。私の戦いはここからだ。
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