第19話 歓談
――強さとは手札の多さと、手段を択ばない狡猾さのことだ。何とかマウセさんと利害関係を結べたけど、今後は脅しみたいなことはやめよう。関係にヒビが入りやすくなる。
「それで、全てを私に任せるつもりではないのでしょう?」
「はい。マウセさんには伝手を借りることはお願いしますが、交渉は基本的に自分で行うつもりです」
「具体的には?」
「仕事の価値を広めます。祭りでの成果を公表し、将来の展望を伝えれば価値は認められるかと」
「なるほど。良い案です。他には?」
「貴族や政治家から信頼や支持を得て法整備をし、育成機関を作りたいと思っています」
「そこで私の協力が欲しいと」
「そうです。さらに追加目標として、労働者のコミュニティも作るつもりです。労働者が物理的に近い距離に集まれば、あとは軽くひと押しすることで実現可能と考えております」
「それについては、私は手出しするつもりはありません。頑張ってください」
「ええ。頑張ります」
それから詳細を話し合った。
「では3日後の晩、我が家に来てください。新居購入のお祝いがあります。そこで貴族とのパイプを作ってください」
「はい」
「分かっていると思いますが、あくまでその日はパーティー。商談は禁止ではありませんが、褒められたことではないことをお忘れなきよう」
「肝に銘じておきます。本日はありがとうございました」
「こちらこそ、ビジネスチャンスを運んでくださり感謝しますよ」
予定の時間になった。
金持ちたちの集い。貴族たちは伝統の民族衣装に身を包み、酒を片手に優雅に歓談をする。
「マウセさん。新居購入おめでとうございます」
「ありがとうございます。テルシャク夫人」
「予定より随分と早く建築できたのね。急だったから予定を調整するの大変だったのよ」
「いやはや申し訳ない。それでもいらしてくださり嬉しいです」
「いいのよ。友達だもの。気にしないで。ところで、後ろの方は初めて見る方ね。新しいお手伝いさんかしら?」
「彼女こそが、建築期間を大幅に縮めた功労者です。皆さんとお話がしたいとのことでしたので、参加させました」
「初めまして。私はナザトと申します。以後お見知りおきを」
「テルシャクです。よしなに」
「私は3週間ほど前から、この島でベイクドチーズケーキを販売しいていたのですが、召し上がっていただけたでしょうか?」
「ああ、あの。ええ、美味しくいただきましたよ。お祭り以降見てないけど、もう売ってはくださらないのかしら?」
「まさにそのことでお話がしたかったのです。現在材料の砂糖およびサトウキビを生産するために畑を作ったのですが、この島では農作業は労働として認められていません。そのため決まり事や報酬をどうするか考えている段階です」
「確かに畑はこの島になかったわね。初めての事業ともなればやるべきことも多いでしょう」
「おっしゃる通りです。そこでこの場にいらっしゃる方々のお力添えが欲しいのです」
「お話を聞いてからですわね」
「ありがとうございます。詳細は追ってお話させていただきます」
これを繰り返した。
「本日はお越しいただきありがとうございました」
客人たちは帰っていった。
「8割近くの方が興味を持ってくれました。皆さんこういう話には敏感なんですね」
「だからこそ大金を得られるんです。お互いにとってチャンスなんです。しくじらないでくださいよ」
「はい」
後日。説明会当日。貴族や政治家の前にナザトは立っていた。
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