第17話 本心

 予定よりも早く売り終わったナザトとサトウキビは、祭を見て回ることにした。

「こういう祭は初めてなので、ちょっとドキドキします」

 ナザトは少し楽しそうに言う。

「私も」

「え?」

「実はここに来たのって数か月前でして。それまでずっと放浪してたんですよ」

「それは大変でしたね」

「ええ。まあ」

「なら思いっきり楽しんで、良い思い出を作りましょう」

 陽気な音楽が流れ、派手な格好をした人が踊り、行列を成している。

 知らぬ踊りに音楽。故にそれに乗ることはしなかったが、見ているだけでも十分楽しめた。


 二日目以降も売り上げは好調だった。1週間ちょっと続いた祭りも終わりを迎えた。

「売上の10パーセントは、マウセさんをはじめとする貴族に広告費として納めるとして。その他経費を除いた純利益は大体500万ゼニー。家賃替わりにカイさんに納めるのが300万ゼニー。残った200万ゼニーはサトウキビさんが自由に使っていいですよ」

「いいんですか?」

「路銀には困っていませんから」

「そうですか。ならこのお金でちょっとやりたいことをやります」

「やりたいこと?」

「そうです。植物に戻る前に遺しいものがあるんです」

「分かりました。ではそれが終わったら教えてください」


 それから3日が経った。しかしサトウキビからの報告はない。

 ――何を遺すのかは聞かないと決めた。だけど3日経っても中間報告すらない。一体何をしているのだろうか。

 翌日。

「サトウキビさん。遺したいものについての進捗はどうですか?」

「順調ですよ」

「それは良かったです。差し支えなければ拝見してもよろしいでしょうか?」

「口出ししないって、約束してくれますか?」

「約束します」

「じゃあ、着いてきてください」


 彼女に連れられて畑に着いた。

 ――そういえばこの島で畑は見たことなかったな。

「あの200万で土地を買ったんです」

「土地を」

「そこでサトウキビを植えて、育てているんですよ」

「貴方達は畑なんて使わなくても、育てられるはずですが?」

「今回は小分けにしてそうしましたけど、次からはそうはいきません。なぜなら私が消えるから」

「……そうですね」

「そこで私は考えました。砂糖およびサトウキビを根付かせるなら、島の人に育てさせればいいと」

「だからマウセさんとの交渉で、畑を作ると言ったんですね」

「この畑はそれとは別です」

「わざわざ2つ用意したんですか?」

「そろそろ来るはずですよ」

「来るって、誰が……」

 農場にやってきたのは、島の子どもたちだった。そして子どもたちは、挨拶をすると半分はすぐ、サトウキビの収穫を始めた。まず収穫に邪魔な葉を刈り取る。次に硝頭部(上の部分)を刈り取る。地際を確認し切る。残った葉を刈り取る。

 長さ3メートルにもなるサトウキビを、1メートル強の子どもたちが収穫するのはとても時間と労力がかかる。

 残った半分の子どもたちは、サトウキビが収穫されるそばから隣の建物に運んでいく。収穫されたサトウキビの茎を細かく砕いて汁を搾る。汁の中の不純物を取り除く。煮詰めて結晶を作る。結晶と結晶にならなかった溶液(糖蜜)を高速で回して糖蜜を振り分ける。こうして砂糖ができあがる。

 こちらもこちらで重労働だ。


 半日を掛けて畑1つ分の収穫、砂糖の精製が終了した。

「自然に育てる分の種も蒔いていますが、需要がある限りこちらも並行して行います」

「貴女には悪いですけど、私は旅人です。まだ行かなければならない場所があります。種を蒔いたなら後は手を引いてもらいます」

「良いんですかねぇ?」

 ――揺さぶり? 何をネタに?

「ここで働いているのは子どもだけです。それは畑作業が新しすぎて、労働として認められていないから」

「!! まさか無賃労働!?」

「大正解です」

「なんてことを!」

「言っておきますけど私は文無しです。それに仮にお金があっても払わなかったでしょうね。どうせ消えるから」

「つまりサトウキビさんは、私にこの島に農業を労働として認めさせたいということですね」

「そうとは言っていませんが、そう捉えたいならご自由に」

 ――厄介なことを押し付ける。でもきっとこれこそが彼女の本心。自分が消えてもその影響が残ること。つまり命以外の不死を目指している。さらにそのために動いてくれる存在が欲しい。そうまでしないと自信を持てないのか?

「分かりました。勝手な解釈で話を進めます。農作業をこの島に定着させてみましょう」

「期待してます」

 かくしてナザトの真の戦いが始まった。

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