ダイズ編

第3話 ハグサービス

 小麦と、彼女が着ていた服を手に取る。

 これは彼女の家に届けないとね。まぁ届けたところで、これを着る人はもういないんだけど。そんなことを考えながら、ナザトはコムギの家に向かう。


 コムギの家に着いた。鍵は彼女の服に入っていた。それを使い家に入る。

 小説、絵巻物、玩具、引き篭もっている間の暇つぶしの道具が散乱していた。

 そうだよね。逃げるのも辛いよね。部屋の状態は心の状態と言ってもいい。娯楽に溢れていても、平静ではいられなかったのだろう。

 クローゼットを開き服を仕舞う。ついでだからこの部屋の掃除もすることにした。

 埃の溜まり方からして、3か月くらいは掃除をしていないと見える。床にゴミ袋が放置されている。これも出さないと。と思い袋を集めていると、その下に紙が置いてあるのが見えた。何だろうと思い見てみると、それは地図だった。

「この丸印何だろう?」

 地図のいたるところにマークがあった。丸の数は14個。手紙の数はコムギの分を含めて13個。コメの分も入れるなら、印の数と手紙の数は一致する。

「丸の位置、ヒボツ国に3つ、日東に1つ、他には……。やっぱりこれは植物たちがどこにいるのかを示しているんだ」

 コムギはどういうわけか、各地に旅立った植物たちの居場所をしっているようだった。

「これは有り難く写させてもらうことにしよう」


 地図の写しを書き、荷物を整理し終わった。

「ヒボツ国に3人もいるとはね。まあ近い分には困らなくていいけど。次は国の少し南、ニコナンへ行こう。ダイズがいる」

 

 ニコナンへ向かい歩くこと12時間。

 もうすっかり夜か。今日は宿に泊まって、ダイズ探しは明日にしよう。

 ナザトは宿に泊まり、風呂に入ることにした。

「ふー」

 半日も歩き、流石に疲労を感じていた彼女だが、入浴したことで心身ともにリラックスできた。

 それにしても、この町にいることは分かったけど、もう少しヒントが欲しいよねー。まあ、元になった植物の特徴が見た目に反映されるから、見れば分かるけど。

「「はー」」

 

 声がハモった。その声の方を見ると、目にクマがある女性がいた。女性の方もこちらを見る。「どうも」と言うと、女性は視線を外す。だが、ナザトはもう少し見ていた。

 目のクマがヒドイ。それに顔色も良くない。

「あの、ちゃんと寝れていますか?」

 気付くと声をかけてしまっていた。

「え?」

 女性が驚く。

「あっ、いや、なんだかとても疲れているようだったので」

「ちょっとネタが見つからなくて」

「ネタですか?」

「私作家でして、次回作のネタを探しに旅行に来たんですけど、一週間経つのに見つからないんです」

「それは大変ですね。でも休憩も大事ですよ。そういえば、入り口に「ハグ無料」って書いてありましたよ。身体的接触は効果が強いって知り合いが言ってました」

「ありがとうございます。今夜試してみます」


 翌朝。

 さて、リフレッシュできたし、ダイズを探しに行くか。そう考え、荷支度をする。

 廊下を歩いていると、昨日の女性が向こうから歩いてきた。目のクアはそのままでが、顔色は良くなり、表情は少し明るくなっていた。

「あ、昨日の」

 女性が声をかける。

「おはようございます。今日は昨日に比べると調子が良さそうですね」

「ええ。昨日のハグのお陰で少し楽になりました。凄かったですよ。なんだか不思議な力を感じました。教えて下さりありがとうございます」

 彼女は部屋に戻っていった。

 ハグの力って強いんだなー。折角だし、出かける前に試してみるか。

 ナザトは受付でハグのサービスを受けたいと申し出た。


 部屋で待つこと五分。戸を叩く音がした。

「お待たせいたしました。ハグサービスの者です」

 鍵を開ける。

「私、お枝と申します。この度は本サービスをご希望いただきありがとうございます」

 部屋に入ってきた女性の見た目は、大豆のさやと豆の要素があった。

 これは多分、大豆だ。何でお枝なんて名乗ってるのかは分からないけど、とにかく会えた。

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