第69話
「ていうか今年の普通科、おかしくない? 侑生、なんで特別科入らなかったの?」
「俺が普通科だからだよなー」
「本当にな、お前のせいだな」
「冗談で言ったのに!」
「あー、仕方ないよね、昴夜、昔っから全然勉強できないんだもん。ね、三国さんは? なんで普通科なの?」
入試だって1番なんだから特別科でも余裕だったでしょ? そう言いながら、牧落さんの大きな目が探るように私をじっと見つめた。お陰で少しだじろぐ。
「……なんでって言われても」
「三国は普通だから、普通科なんだよ」
桜井くんがそのセリフを繰り返せば「なにそれ、じゃあたしは普通より頭が悪いってこと?」と牧落さんは頬を膨らませる。そんな仕草すら可愛らしいリスのようで、なんだか顔が可愛い子って何をしても可愛いんだななんて思ってしまった。
「つか胡桃こそ
「仕方ないじゃん、お父さんが
「あー、なるほどね。大変だな」
「お兄ちゃんが貢献したからいーじゃんって思ってるんだけどね。ま、校則緩いからそれはいーんだけど」
牧落さんは、私と雲雀くんの机の間で
「でも、そっかー。三国さんかあ。ていうか、三国さん、最近昴夜と侑生と仲良いって噂聞いたんだけど本当?」
なんだか、今日はその噂を耳に入れられることが多い日だ。……ということは、もしかしたらゴールデンウィークのあの日をきっかけに噂は一層の
「うん、仲良し仲良し。一緒にチャリ乗る仲」
「微妙過ぎて分かんないんだけど、それ」
「だって侑生がニケツすんだよ」
「あー、そういえば侑生、頭悪い子嫌いなんだっけ? じゃ、三国さんは好みなんだ」
ごふっ、と陽菜が飲んでいたオレンジジュースに咳き込んだ。私もほんの少し気まずかったし、何より雲雀くんがその鋭い目で牧落さんを
「え、そうなの。侑生って妹以外に興味あったんイッテェ!」
桜井くんの手からぽとりと菓子パンが落ち、桜井くんはそのまま足を抱える。
「なあ侑生、
「つか牧落、飯食ったのか」
「無視!」
「まだ。学食で友達に席頼んでるから、もう帰る。あーあっ、普通科と特別科だと順位も別々だから、勝つなら実力テストだって思ってたのに!」
牧落さんはふくれっ面で、その割に私に笑顔を向けて「ね、昴夜たちと遊ぶなら、あたしとも遊んでね! またね!」と言って教室を出て行った。
私が呆然としていると、陽菜が「え、マジあの子めっちゃ可愛くない? 多分学年で一番可愛いわ」と呟いた。陽菜の美少女基準は高いので、つまりそういうことだ。
「……桜井くんの友達?」
「あー、うん、俺の幼馴染なんだよね」
桜井くんは足を抱えたまま、大きな目に涙を浮かべながら頷いた。そういえば、桜井くんが私に勉強を頼んだとき、雲雀くんが桜井くんには幼馴染がいるなんて話をしていた。
「……雲雀くんとも友達なんだよね?」
「いや、俺はあんま知らね」
「嘘吐くなよ。たまーに顔は合わせるんだよ。侑生、こんなんだから胡桃にも愛想悪いの」桜井くんは牧落さんが出て行ったほうを見ながらそう言って、不意にハッとしたような顔で雲雀くんを振り向き「お前マジで三国にだけは愛想いいけど三国のこと――」今度は椅子ごと蹴られ「待って! 死ぬ!」と頭からひっくり返りそうになったところを、
「冗談じゃん? 本当に危ないからやめて? 俺じゃなかったら頭打ってるからね!?」
「打てばよかったのに」
「なんだと!」
「俺、数学できない女、嫌いなんだよな」
それが牧落さんに対する評価なのだということに気付くまで暫くかかった。でもいわれてみれば、さっきの話ぶりからして、牧落さんは数学ができないのだろう。桜井くんは「でも胡桃、中学の頃から数学得意だつってたよ?」と首を傾げるけど雲雀くんは無視した。
「あと、馴れ馴れしい」
「あー、お前はそういうの嫌いだよね」
それは、なんとも反応に困るというか、つい自分の言動を
海では大丈夫だっただろうか、変に馴れ馴れしい態度をとってしまっていないだろうか、今朝パーカーを渡したときも変な反応をされたけど何か気に食わないことがあったんじゃないか……と色々考えながらもくもくとお弁当のおかずを頬張っていると、桜井くんが私を見た。
「あ、大丈夫だよ三国。コイツ、三国のことはちゃんと好きだから」
今度こそ、桜井くんの椅子は派手にひっくり返った。
ガァンッ、と金属のぶつかり合う音が響き渡る中に「ぐお……痛い……」という桜井くんの小さな泣き声が混ざった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます