マイナスからはじめる初心者恋愛

 ※作者より:美里編がかなり長くなりそうなので、独立した章にします。

 また過去の話についても、いくつか加筆修正する予定です。

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 ★柊美里ひいらぎ みさとView★


「ぐふう・・馬鹿なあ・・べぎゃっ!」


 ーー圧倒的瞬殺。

 私を犯そうとしたチンピラ3匹VSイケメン君の一対多ハンディキャップ試合は、蹴り技の乱舞によって、あっさりと決着。

 警察ロボ隊がやってきて、チンピラ共は連行されていった。


「・・名乗るほどのものじゃ無いんで。それじゃ・・」

「それじゃ私の気が済まないです。今は時間がないですけど、どうかお礼をさせて下さい!」


 理由をつけてちょっと強引に、連絡先を交換した私達。

 後日、私が予約した洋食屋で会うことになった。

 それが2125年の4月のこと。


 当日。お礼も兼ねてるし、メイクやコーデはキッチリ決めよう。

 ヘアアレは昔から研究してきたし。職場の先輩達に、他分野のオシャレも教えてもらった。

 ・・・『イイ薬アルヨー』とかの勧誘は、流石に遠慮したけどね。


 現地集合した私達。店内の席は7割以上埋まっていて、洋楽ジャズ歌手の渋い歌声が流れている。テーブルに向かい合って自己紹介へ。


「・・雨宮有人あまみや あるとです。名栗中学2年で、つりがね流道場の闘士ファイターをやっています。あと俺が年下なので、敬語は不要です。」

「わかったわ。私は柊美里。名栗高校3年の家政科。専門学校に進学予定なの。

 あの節は本当に助かったわ。ここは私が持つから、たくさん食べていってね。」


 海老ピラフ、アラビアータ、マルゲリータ、田舎風サラダ大盛り、葡萄ジェラート・・・私達の胃袋に、注文した料理が収まっていく。

 お互い、肉体を酷使する立場だからね。私は最低限の体型維持が必要だけど。

 雨宮くん、嬉しそうに食べるなあ。貯金をちょびっと崩した甲斐があった。

 無表情イケメン少年の相好がちょっと崩れてて、新鮮な感じがする。


「動かないで、口元にソース付いてるから。」


 ハンカチでふきふき。

 お客様でもない男の人に、ちょっと距離感バグっちゃったかな。

 でも何か、母性本能を刺激されたのよね。

 あ、顔を赤くしてる。可愛いかも。

 そうして食事が終わると・・


「ねえ、これからも時々会えないかな。

 雨宮君と一緒にいるの、なんかいいなって思ったの。」

「・・そんな。俺は話すの苦手で。今日は食べる事中心で、そこまでトークも弾まなかったし。一緒にいても、楽しくないと思います・・」


 そっか。彼は多分吃音きつおんっぽいし、喋りに自信が無いのかな。

 私の同僚や学友にも、そんな感じの人がいるし。

 それでも私は、飾らない言葉を伝えなくちゃ。


「私も、人と話すのはあまり得意じゃなかったわ。

 多少はバイトで鍛えたけど。

 今も話が続かなくて、お互いに沈黙しちゃう事もあるし。


 ・・でもね。

 雨宮君との沈黙って、不思議と嫌じゃないの。

 喋っていなくても、落ち着けるっていうか。

 何か上手く言えないけど、『心地よいなあ』って感じ。

 雨宮君は、私といるのが嫌・・かな?」


 ちょっと首をかしげて上目遣い。

 あざとい?

 でも、これっきりで関係を終わりにしたくなくて。

 今思うと、必死だったわ。その感情の正体にも気づかなかったのに。

 ・・あっ、頬がちょっと紅潮して、目をそらしてる。ちゃんとこっち見て。


「・・その、柊さんは綺麗ですし。

 気持ちは嬉しいです。

 また会って、出かけたいなあって思います。

 面白い話も出来ませんけど、俺なんかで良ければ・・」


 男の人に仕事以外で褒められたの、殆ど無かったなあ。

 ちょっと嬉しいかも。

 だけど、過剰な自己否定は聞きたくなくて。


「『なんか』とか言わないで。

 私がいいって言ってるからいいの。

 雨宮くんのようなイケメンさんと出歩けるなんて、こちらこそ鼻が高いんだから。」


 ーーそれから。

 私と雨宮くんは、休みが合った日に、二人で出かけることが多くなった。


 お互いに経済的な余裕は少なく、多忙ではあったけど。

 戸鳴町の映画館や、カフェでの感想戦。

 ちかい町の美術館に、自然公園。

 遥井とおい市の水族館や、亜苑アオンモール。


 会話はそこまで多くなかったけど、お互いをある程度知ることができて。

 会話のないまま、二人の間に流れる時間も、それはそれで良いもので。

 フィーリングが結構バッチリだなって気持ちが、お出かけの度に深まって。


 いつしか、私達はそれをデートと呼ぶようになり。

 ハッキリした告白はまだないし、健全な関係のまま。

 名前呼びも手繋ぎも当たり前になった頃、11月こがらしのきせつを迎えた。


 体を酷使する仕事が終わって、部屋で一人。

 来年の3月には、目標額が溜まって、このバイトも辞めるだろう。

 

『俺もバイト終わったとこです。精神的にマジ疲れますが。

 同僚や上司とも、そこそこ上手くやれてるのが救いです。

( ゚Д゚)y─┛~~キュウケイスル』


『有人もお疲れ様。目標額が溜まって名栗高校ここを卒業したら、バイトを変える予定だから。一緒にいられる時間が増えるわ

( ー`дー´)ショウネンバダゼ』


《メチャ期待する犬のスタンプ》


 デジタル空間では、私達二人はとても饒舌になれる。

 有人となら、お喋りも沈黙も楽しい。


 ・・ああ。私ったら抑えられないくらいに。

 好きになっちゃってたんだなあ。


 ーーでも。私のような汚れきった女が、純朴イケメンな彼に相応しいとは思えなくて。

 告白のチャンスから何度も逃げて。

 それでも、心地よい二人の時間が続いて欲しくて、答えを先延ばしにしてきたんだ。


 そして。

 そんなツケを払う日は、もう背後に忍び寄っていた。

 ある日のビデオ電話。

 緊張した面持ちで、有人が口を開いた。


『・・悪い噂を聞きました。

 美里さんが、その、愛欲びっち四天王の一人で。

 誰とでも寝るって噂を。

 ーー会って、話がしたいです。』


 その噂ーー半分以上真実は、もう学外にまで広まっていて。

 いつまでも隠せるものでは無かったか。


 緊張が走り、肺に重いものが落ちていく感覚。

 それでも。愛しい彼への最後の誠意を示すため。

 包み隠さず、打ち明ける覚悟を決めた。

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天皇が消えた国で〜もさちんまい天才薬学者の愛欲制御 殉教@公共の不利益 @jyunkyo4444

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