天皇が消えた国で〜もさちんまい天才薬学者の愛欲制御

殉教@公共の不利益

プロローグ【R‐15】

渡りガラスの音速なる導き

 白。白。白。蒼。白。白。隙間の蒼。


 澄み切った水蒸気のもやを、マッハ2の音速で吹き散らしながら進む。

 空気の薄さも凍てつく冷気も、翼から発する衝撃波の反動も。

 の俺にとっては、全く無視できる些事だ。


 そのまま急降下して、雲海を突き破って減速。

 衝撃波で霧散した水滴に陽光が反射し、キラキラと輝く。

 煌きを置き去りにしてホバリングした眼下に、首都統京とうきょうの町並みを望む。


 景観を崩壊させた摩天楼の烏合が、大きな森と水場を取り囲むように立ち並ぶ。

 その森の中央にある大きな建物こそ、かつて「皇居」と呼ばれていた、日本国の聖域の跡地である。


 ー西暦2127年の弐翻にほん。男系男子の後継者が枯渇した事により、天皇制が廃止されて40年余り。


 今でも皇居跡地や伊勢神宮などは「皇室ゆかりの地」として、多くの観光客で賑わう。

 制度廃止されても、国家の名前が変わってもなお、国民たちの心には、皇室が生き続けている。カミの使いたる「神獣」の俺にとっては、幾ばくの慰めになる事実だ。


 おっと、自己紹介が遅れたな。俺は神獣・八咫烏やたがらすのヤタ。

 普通の人には見えず、確固たる実体も持たない存在。それでも霊感のある人には「透き通った3本足の巨大なカラス」が見えている事だろう。


 俺の祖先は、神武天皇の導き手として知られている。で、俺自身は皇室祭祀を行う歴代の天皇に、皇祖皇宗こうそこうそうからの託宣を届けたり、その他の雑事をするのが努めだ・・まあ、最近は雑用ばっかりだけどな。

 なんか左遷されたみたいで、面白くねえなあ(ぶおんっ!)!


 ボゴッ!!!


 ・・あ。ムカついて翼を振ったら、衝撃波でビル50階の外壁にヒビが。

 まあ別にいいか。室町時代に元寇を退けた「神風」も、俺の先輩が

「力の加減を間違えて飛行したら、暴風雨が起きて、敵の船が沈んじゃいました。テヘペロ♪」というしょーもない理由だしな。


 時間は正午を回ったか。閑話休題それはさておき

 俺が本来の管轄地域である格闘都市・名栗町なぐりちょうを離れ、ここに来た理由はだな。

 俺が今、仕えている神様からの命で、ある人物たちを監視しているからだ。彼らがわざわざここに来るというので俺も追ってきた、それだけの事。


 監視対象は全部で6人の若者。みんな高校生くらいの年齢だな。

 そのうち5名が「天賦研究会てんぷけんきゅうかい」なるサークルを結成。

 で、新メンバー加入の儀式と称して、彼らはここに旅行に来ているーー国内の富の5割以上が集中している首都、白銀と混沌の魔都・統京に。


 ホバリング中の俺は、皇居前広場の森林地帯の上空を、緩やかに周回している。

 こんな場所でも、ビル街よりかは空気がうまい。かつての聖域の残滓ではあるものの、ここの清浄な気配に包まれていると、安らぎを覚える。少しばかり、移動中に減った霊力を補給しておこう。


 地上では、因幡兎いなばうさぎの末裔(神獣の仲間)が時間を気にしながら、森林の隙間であくせくと働いている。彼らへの挨拶と情報交換は、また後にしておくか。


 ・・こうしてリフレッシュしたはいいが、今からの俺の使命みっしょんを思い出すと、気分が萎える。


 だってなあ。

 天賦研究会って、表向きは「政治論争は対面で。議論もディベートもするサークル」だが、その実体は・・口にしたくも無ェ。


 だが、尊敬する我がカミの命。目を閉じて全身の羽を逆立たせ、魂絆こんばんを手繰り寄せ、彼らの居場所を探る。

 俺とあいつの魂を結びつけている、見えざる細い糸。この国にいる限り、どこにいても見つけ出せる。


 っておい、マジかよ。やや遠くに見える、重厚な鈍色のタワマン。

 その最上階である40階に、5人分の反応を確認できたぞ。

 そーいや、あの俺TUEEEな格闘娘が、また大きなあぶく銭を稼いでたっけ。で、気前よく一同をご招待したのかねえ。


 ふむ。あのウィークリータワマンの最上階は、宿泊施設として貸し出されているとか。

 そんな豪華な部屋じゃあ、彼らもには振る舞えないだろう。何かあったら原状回復費用だって、馬鹿にならないんだから。


 ・・・そう思っても、嫌な胸騒ぎが消えない。善は急げだ。

 衝撃波を出さない程度の速度で、地上160m・天空を穿つ塔へ急ぐ。

 ・・・見えた。突入だ!はあっ!!


 透明で霊体の俺は余裕で壁をすり抜け、40階の部屋内部に、気配を殺してひっそりと陣取る。

 その広大な部屋は緑や白を基調とし、安らぐような配色。

 ハート型の観葉植物(ウンベラータ)が並んでおり、採光性に優れた強化ガラスの、一面張り大窓。調度品は高級感のある木製が中心で、外にはベランダや小型プールまで完備だ。所々に設置された輸入品の間接照明は、夜になればムーディな雰囲気を作り出すのだろう。


 そして、部屋の中枢に鎮座するキングサイズのベッド2つでは・・・・


「あはっ♪無防備な背後から、一方的に貫くつもりなんだ。

 雑魚の助手くんには、これくらいのハンデが丁度いいよね♡」


「はあはあ・・一方的に4回も絞り倒しておいて!

 でも、姉御の体も敏感になってきたし、まだまだこれからっすよ!」


 左のベッドでは、オスとメスが一匹づつ。


「はーいヨナちゃん、みるくの時間でちゅよ〜。

 上手にちゅぱちゅぱして、いっぱいおっきしちゃいましょうねー♪」


「モゴモゴ・・んちゅっ!んう。んううぅ・・くちゅっ」


「もー。脂肪の塊で凄い反応しちゃってるねー。

 このぴくぴく、アタシが知ってる中でも史上最カワだよ♪しかも硬度も最強くらす!

 いーよ。吹き出す瞬間までじっくり見ててあげるから、びゅくびゅくちっち、しちゃお♡」


 右のベッドでは、オス一匹に、メスが二匹がかりで。


 つーか右のメスのちっこい方、お前は仮にも学者だろ、語彙力崩壊してんぞ!!

 

 ・・・もう分かったろう。このサークルは、名実共に「ヤリサー」だったという事実が。



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