汚れ続けた私が、生まれて初めての恋を知るまで【R-15、修正あり】

 ※文字数が多いです


 ★柊美里ひいらぎ みさとView★


 ーーつまり、私のハジメテは「仕事」に奪われる運命。

 

 昔から根暗で人見知りしていた私は、男の人と話すのも苦手だったし、今もそう。

 お客様とのトークも「営業マニュアル」のコピペが多いし、同行する正従業員さんに委ねる事も多かった。

 男の人と付き合っても「話がつまらない」と、捨てられるだろうな。

 あと単純に、貧乏で恋愛をする余裕も無かった。


 また格闘都市たる名栗町このまちには、粗暴で野獣のような男が、各地から集まってくる。

 不同意で純潔を散らされる女性ひとも少なくない。

 住人女性の間では「初めてを不同意にされるくらいなら。同意した男性に、早めに捧げよう」という考えも、珍しくない。


 そりゃそうだし、私もそんな感じ。

 超人ではない平均男の腕力も、平均女の約2倍だもの。

 闘士ファイター崩れや超人にとって、私達普通の女をのは、3秒もかからないのだから。


 今日は、無垢(笑)なる小魚が水揚げされて。

 それがまな板の上で捌かれて、初刺身の試食会が行われるのだ。


 戸鳴となり町のホテルの一室は、クリーム色と黒の色彩だった。

 カナと私と、30代くらいの清潔感のあるオジサマ。

「模範客リスト」の常連で、気配り上手らしい。


「そ、そにょっ。最後までは初めてですが・・よ、宜しくおねがいしましゅっ!」


 彼は緊張していた私に、柔和に応対してくれる。

 この人なら、必ずしも悪くはないかなあ。

 一番はお金の為だけど、副店長さんや仲間たちの為にも。

 覚悟、決めなくちゃね。


 シャワーと共に最終確認して、漁場へ。 

 丁寧な下準備、手順を踏んだ盛り上げ方。

 カナの支援砲火もありがたい。

 もう、私達を隔てる布は消え去り。

 準備が出来た私に「力を抜いて」と声がかけられ。

 

「いいですよ・・来て、下さいっ・・!!」


 私の花園マグノリアの守護は、ここに役目を終えたーー


 陸で力尽きた魚のように、水滴に塗れている私。

 痛みと疲労感で、指一本も動かないまま、天井の光が滲んでいた。

 カナが「お疲れさん」と、タオルで拭ってくれた。


 私は微笑を浮かべて礼を言い。

「やっとみんなと同じになれた」とか。

「マジ眠すぎる。あ、赤いシミがいっぱいだ・・」とか。

 とりとめもない思考に沈んでいった。


 ・・解散後は簡単な食事を取り、入金を確認して帰宅。

 今日は叔母さんも帰ってこないので、部屋で一人だ。


『まあ、初めてがいい人で良かったな。

 同僚たちはもっと酷い相手が多かったし、こりゃ嫉妬されるぞw』

 そんなカナの話に愛想笑いで返したのが、ついさっき。


 スマホの通帳画面には、基礎料金分の配分と、追加料金が上乗せされている。

 つらい思いをしても、この画面を見ると心が安らぐ。


 追加7万円。

 喪われた、花一輪の価格なり。


 気づいたら私の頬を、冷たい水滴が伝っていた。


「・・う。ひぐっ。う、わあああんっ!」

 

 少し声を押し殺して。

 ただただ私は泣き通した。


 分かってるわよ、「初めては好きな人と」なんて、私には過ぎた願いだって事は。

 それでも時々「ああ・・私、何やってんだろ」って、どうしても虚しくなるの!

 そんな感情、自分でも制御できないんだから!!


 泣き疲れて、吐いて、服も着替えずに眠って。

 痛みと虚脱感に蝕まれたまま、学園を2日休んだ。


 その後は気持ちを切り替え、日常に復帰した。

 休んだ理由をカナに言ったら、謝られたけど。

「私が稼ぐのに、一番効率のいい方法はコレしかないから。

 目標額が貯まるまで続けるわ」と返した。


 いつもの三足わらじの、日々の隙間。

 カナと私は、お互いの身体における「神経拡張訓練」をする事になった。

 それは私の体を、仕事向きへとする行い。


 神経を広げれば、苦痛を和らげたり、あまつさえ心地よさにすら変換されると。

 それを信じて、カナと少しずつトレーニングに励んだ。


 その結果。

 私は持ち前の器用さを活かし、多くのお客様を相手に、戦果を上げていった。

 苦手なトークも少しづつ鍛える過程で、リピーターもついた。


 たちの悪い客やクレーマーもいたけど。

 副店長さん、カナ、みんなの力を借りて冷静に対処できた・・と思う。

 内心は結構ビビっていて、終わった後でこっそり泣いたけどね。


『正直言うとね〜。

 心や体を病んで退職する娘も多いのよ。

 ミサちゃんは良くやってくれるし、アタシの目に狂いは無かったわ〜♪』


 今まで私がヘアアレしてきた子からも。

 副店長さんたちからも。

 やっぱり、承認されるのは嬉しい。

 時々ココロが沈むのも処方薬で誤魔化せるし、通帳を見ると落ち着く。


 貞操ゆるい女子が多い、名栗高校うちのがっこう

 その中でも最大にゆるいとされる4人が【愛欲びっち四天王】と呼ばれる。

 うち一人のカナとつるんでいた私も。

 名実ともに、そこの仲間入りを果たしたのだ。


 はあ、カネのためとは言え不名誉だなあ。

 仕事以外で、そういう事はしていないのに。

 それでも、ゆるい系コミュニティからヘアアレの手伝いを頼まれるので、孤立はしなかった事が、せめてもの救いかな。



 ーーそんな感じで、歳月は矢の如く過ぎ去り。

 受験中は業務縮小しつつ進学を果たし、私の環境も変わって。

 それでも目標額までの、着実な手応えを感じていた、そんなある日。


『いやあっ、な、何なのよコレえーーっ!』


 心臓が止まりそうになってたなー。

 何せ、風呂前に脱いだショーツにが付いてりゃさ。


 病院で検査。一部、職場から補助金が出たのは有り難い。

 知らない間に、客に病を伝染うつされていたらしい、畜生が!!


 投薬治療を一ヶ月ほど受ける運びに。

 その間、バイト内容は縮小して禿かむろ業務のみ。

 粘膜以外での伝染性は無く、普通に生活は出来る。

 一部の従業員からは同情されたり。

 或いは「汚いのが移る」と文句を言われたりした。


 少し前には本業務の後で、酷使した箇所が出血して、それが3日続いた事も。

 あのときは痛さと空しさで、メッチャ鬱になったなあ。


 これ、労災出ないのよね。

 この組織自体も、必ずしも「合法」とは言えないし。


 そうして塞ぎ込んでいた、ある夕方のこと。


 名栗町の路地裏で格闘家(崩れ)3匹に、声をかけられた。


『ふひひ。試合に負けてツイてねえと思ったが。

 とんだ拾い物をしちまったぜww』

『小柄で巨チチとはギャップなりい。

 しかも慣れてる感じがしますし、気軽に使い捨てられますなあ!』

『いくらか握らせてやれば、すぐに開くだろ。

 オラ、とっとと相手になれよお!!』


 ちょ、止めてよドクターストップがかかってるのに!!

 コイツラ、女を何だと思ってんのよ!!


 ・・押さえつけられて声も出ないよ。

 いくら仕事で慣れていようと、こんなキモい奴らになんて・・


『・・お前ら、何をしている。その娘を放せ!』


 その視線の先には。

 黒髪ウルフカットで180㎝はありそうなイケメン。

 アンニュイな雰囲気に、引き締まった肉体。


 ーーねえ、【拳の王子様】って知ってる?

 それは名栗町このまちで、日々増殖し続ける恋のはじまりミソロジー

 ピンチに遭った女の子を、筋肉で迎えに来てくれる存在。


 私の存在もまた、この街の神話へと絡め取られ、落ちていく。


 それが、汚れきってしまった私の。

 生まれて初めての恋の序曲プレリュードだったのだ。

========


修正履歴:9月5日に文章を追加

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