姉貴とふたり、廃墟プールで。【一部R-15】

 ★雨宮有人あまみや あるとView★


「おーぷん・ざ・げーと!

 ・・・先客なーし。

 今夜は、アタシら2人だけの貸し切りだぜえ!」


 タワマン「パノプティコン名栗」の20階。

 無骨で防御力の高そうなドアの先には。

 適度に暖房の効いた、灰色を基調とした更衣室があった。


 もさもさヘアをポニテにまとめ、比較的すっぴんに近い、緑コートの姉貴。

『アタシの部屋は散らかってるし、執事ロボもいるからさ。

 二人きりで話せる場所を予約しておくぜ!』


『予約取れたぜ!水着持参で現地集合な!』


 なんて言われて。

 持っては来たけど、今は3月初旬だぞ。

 しかも、この更衣室は男女兼用で・・・


「先攻もらった!きゃすと・おぉふ!!」


 厚手の上着とスカートが、宙を舞った。

 って姉貴、俺の前でストリップ始めるなよ!


「下に着てきたぜ。通販とはいえ、サイズ感も悪くねーな、コイツは。」


 姉貴は赤い水玉を基調とした、セパレート型の水着を纏っていた。

 仄かに膨らんだ胸の部分では、大きなリボンが目を引く。

 健啖家おおぐいにも関わらず、細い腰とお尻。


 二の腕には黒いシュシュを巻いて。

 ポリエステル製のホルスターに、水鉄砲が2丁。

 遊ぶ気マンマンのスタイルだ。


「アタシはこの先で待ってるから。

 弟くんも早く着替えて来てくれよ!」


 ・・やはり、奥の扉はプールに繋がっているのか。

 牢獄のような鉄格子に覆われたタワマンにも、そんな設備があるのだなあ。

 漠然と考えながら、着替えを済ませて後に続いた。


 塩素の匂いに出迎えられて。

 内部は、そこまで寒くないようだ。

 壁やプール槽は、年季の入った白。所々に、黒い黴がある。

 

 20階の大窓からは、名栗町の夜景が見える。

 特に、高階層の街のシンボル【拳闘天塔グラディアル・タワー】が目を引く。

 が、窓自体は鉄格子に囲まれており、まるで囚人の気分だ。

 ここはナイトプールというか、廃墟プールじゃないのか?


「よし泳ぐぞ。とうっ!」

「・・待ちなさいっての。」

 不意をついて駆け出す姉貴に、手を伸ばして止めるが・・


(ぎゅむっ。)

 柔らかく、弾力のある感触。

 ・・あ。まさか、俺とあろうものが。

 

 次の瞬間、引き金が引かれてクイックドロウ

 勢いよく噴出した水鉄砲が、俺の顔面を撃つ!


「弟くんの破廉恥ー!!

 胸パッドずれちゃったじゃねーかよ!」

「・・それは悪かった。

 でも、準備運動もシャワーもなしで入るのはダメ。

 あと姉貴、さっきからちょっと、テンション高くないか?」


 びしょ濡れになった顔のまま、本日の違和感を指摘すると。

 図星を突かれたのか俯いて、シュンとした表情に変わる。


「う・・・

 だってアタシ達が本格的に再会したのって、3年ぶりでさ。

 でもそこから2ヶ月間、互いの時間が合わずに、今日にズレこんじゃって。

 久しぶりすぎて、どう接したらいいか分かんなくて。

 それで誤魔化そうとして、空回っちゃたんだよお・・」


 だよな。俺は昔からずっと無口だったが。

 自分にとっては、の中で。

 普通に接してくれたのは、姉貴だけで。


 俺は追放されて、この街に来て。

 姉貴も左遷されて、この街に来て。

『左遷先には、危険いっぱいの格闘都市が適任』というネットの戯言。

 まるで、草木も生えない流刑の島みたいだ。


 なんて、心の中で自嘲して。

 ちっちゃな姉貴の肩を軽く抱き寄せ、頭を軽くくしけずる。

 この華奢な体は、沢山の苦労をくぐり抜けて来たんだろうか・・


「あわわっ//、いきなり何すんだよ!

 弟にまで子供扱いされたくねーよぉ//!」


「・・すまない姉貴。

 俺も、どう接していいか分からなくて。

 あの家で、俺を庇ってくれたのは姉貴だけだから。


 でも俺は無口だし頭も悪いし。

 感謝の伝え方も思いつかなくて、その・・」


 それを聞いた姉貴は、俺をとどめて、優しく体を離して。


「なーんだ。弟くんもそうだったんだ。何かホッとしたかも。

 でも、お互いモジモジしてるわけにもいかないし。

 ・・まずは、何も考えずに遊ぼうぜ!!」


 くるっとターンしながらの宣言に、おれは微笑で頷いた。

 

 ・・「胸パッド」という秘密しつげんは、忘れておこう。


 ーーそれから。

 水着を整え、準備運動とシャワーを終えて。

 温水プールにプカプカ浮いたり、軽く泳いだり。

 童心に帰って水鉄砲や、水風船で遊んだり。


 そうして姉貴のジョークに、適度なツッコミを入れられるようになるほど。

 俺達の間の空気からは、強張りが溶けていった。

 姉貴のキャラに引っ張られる形だったけど、結果的には良かったな。


 で、今はデッキチェアとテーブルに移動。

 お互い、下駄零度ゲタレイドで水分補給。

 ラッシュガードやパーカーは羽織ったけど。

 水着のまま、これからちょっと真面目な話をするんだ。


 でも俺は。

 やや緊張しつつも、興奮は適度に抑えられ、落ち着いた気分でいられる。

 それもこれも、出かける直前に会っていたのせいだろうな。


 ーー姉貴とそう変わらない身長、アンバランスな胸部装甲。

 弛まずに手入れされ続けた、艶やかな髪。


『へえ・・数年ぶりに、生き別れの姉に会うんだ。

 しかも水着持参って何よ。

 有人は長身イケメンだし、身内だろうと心配よ・・』


『危険な事態にならないように、バッチリを施してアゲルわ。

 気合入れるから、覚悟してね?』


『もう、やっぱりこれが好きなのね。

 双丘の中で、ドクドクが凄いじゃない。

 ・・ふふっ、まるでポンプみたいな勢い♪

 ほら、まだ残ってるでしょ、えいっ!』


『君のホワイトソースを、手のひらによく馴染ませて・・っと。

 これで握りしめながら、舌ドリルで先端を穿ってあげる。

 ・・もう、元気が有り余ってるのね。嬉しいケド。』


『じゅるるるるッ!・・・ちゅぽん。ごっくん。

 5回目ともなると、サラッとして真水っぽいかな。

 でも苦さも薄れているし、スッキリした喉越しね。

 をころころ、にぎにぎしてっと。


 ・・・うん、安心かな。

 気を付けて、いってらっしゃい♪』


 ーー現在。

「そーだなあ。まずはアタシが、この街に来た経緯を、簡潔に話そうかなー」


 思案している姉貴の前。俺は内心で土下座をかます。


(すまん姉貴・・俺はもう、とは言えないんだ・・・)

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