暴力装置という両刃の剣

 警告:【残虐描写】

 ===========

 ドグシャアアアッ!!


「・・何だ、蚊でも刺したか?」


 俺は仁王立ちしたまま、奴らを睥睨する。

 奴らが俺に叩きつけ、突き刺そうとした得物群は。

 


 ーー俺の基本技、〈不動ステッドファスト〉。

 

 筋肉を一時的に膨張させるスキル〈筋肉肥大化パンプアップ〉。

 鐘堂千早こと早姉はやねえを始め、多くの格闘家の基礎である〈闘気防御オーラガード〉。

 この2つを組み合わせ、、相手の攻撃をライフで受ける

 ・・もとい、素肌で食い止めるという荒業だ。


 増加した筋肉に服が耐えきれず、破れてしまうので。

 事前に服を脱いでおくのを忘れずに。

 

 ・・冬は寒いけどな。くしゅん。


「「「馬鹿な、直撃のはz・・おぼおぉおっ!?」」」


 一瞬動きが鈍った敵集団を、〈筋肉肥大化〉したままの腕と足で、ぶっ叩いて処理する。

 立ち上がってこれないように、ふくらはぎや足首を踏み潰しておく。


「フン、硬さだけはいっちょ前だな。

 だが闘気を使えるのは、こちらも同じこと。

闘気斬撃ぶったぎれろお〉!!」


 敵リーダー(名前忘れたわ)が、居合抜きから刃を薙ぐ。

 とっさに両手をクロスさせ、さっきと同様にガードするが・・


「ぐうっ・・・」

 完全には防ぎきれず、前腕部に刃が食い込んで出血。

 骨には遠く届かないものの、皮膚を切り裂かれた鈍い痛み。


「〈闘気連続斬りイイイイオラオラどうしたあああ〉!!」


 涎がほとばしり、歓喜で歪んだ表情を晒して。

 正眼の構えから、小刻みに切りつけてくる。

 皮膚の表層しか斬れていないものの、傷創と鮮血がいたずらに増えていく。


「ふっ!ふんっ!」


 こちらから僅かに踏み込む事で、相手の刀は最後まで振り抜けない。

 それを利用して威力を殺す。

 ノーガード戦術の基本技だが、このままじゃジリ貧だ。


 まだだ、今は耐えて、隙を伺え。

 誘い込むために、一瞬だけ〈筋肉肥大化〉を緩めて・・


「〈闘気刺突トドメだああ〉!!」

「〈筋肉白刃取りまっていたぜ〉!!!」


 ズブウゥッ!!

 切っ先が、俺の脇腹に刺さる。

 5cm食い込んだ所で、再び〈筋肉肥大化〉を発動!

 相手の刃をガッチリ掴み、動かせないようにする。

 真剣白刃取りの、腹筋版といえる技だ。


「ぬぬっ、抜けない・・動kわぷううっ!?」


 その隙に、先輩から貰った「スコビル爆弾」をパンツから取り出し、奴の顔面に投擲する。

 小さく弾けて、飛散した赤い唐辛子ふんまつが、奴の目と鼻を灼く。

 ・・・公式試合では事前申請が要る武器だが、まあ非公式だしな。


 あーあ。初めて先輩と会った日の俺みたいに、地面を転げ回ってるよ。

 刀を引っこ抜いて肉薄。

 拳を振り上げてーー


 「おラあッ(ボゴッ)!

 よくもぉ(ベキッ)!!

 調子にィ(べチッ)!

 乗ってェ(バゴッ)!!

 くれたァ(ゴスッ)!

 よなあッ(ブチュッ)!!

 整形手術ふるぼっこじゃああっ

(ドカバキグシャ)!!!」


 ・・ああ、やっぱこれだよ。

 暴力を振るうのが、楽しくて仕方ない。

 外道の血の色が、見たくてたまらない。

 

 己の憤懣を乗せるのも。

 狂気の沼を、潜水して泳ぐ感覚も。

 天へ突き抜けるような、浮揚感も。

 相手の皮膚を抉り、毛細血管を引き裂き。

 返り血がされる様も。


 無上の悦楽だよなあああボコボコボコボコッ!!!



「いー加減にせんかーっ!!!」


 バヂバヂバヂイイッ!!

 痛烈な電気ショックに焼かれ、俺は動きを止める。

 後ろには、テイザー銃を構えた先輩。

 そして警察の機械兵士が立っていた。


 ★雨宮瑠奈あまみや るなView★

 あーあ。いくら相手が悪いとはいえ。

 サギ君、勝負がついた後の相手を何度もボコッていたら、そりゃあ過剰防衛やりすぎだよ。

 警察ロボが『試合許可ライセンス二週間停止・・・動画配信報酬から強制天引き・・科料・・』とか、サギ君に言ってる。


 傍らでは、救護ロボがサギ君の止血をしたり。

 搬送ロボが、外道たちを応急手当して、どこかに運んでいったり。

 違法闘技イリーガルファイトの後始末は、実にメンドイ。


 アタシは、簡単な事情聴取を受けて開放された。

 サギ君は、大人しくへこへこしてる。

 まあ、彼にとっては日常茶飯事だよねえ。


 血液がついた身体で、荷物を持たせるわけにもいかないので。

 仕方なく、家までの短い距離を(自動)タクシーで帰った。


 車中で考える。

 この街には、全国各地から『気性が荒く、喧嘩っ早い男』が集まってくる。

 持て余した超人の力を、金銭に換える為。

 或いは故郷で罪を犯し、落ち延びてきたり。


 それが、格闘磁石ファイター・マグネットと呼ばれる現象。

 より良い福祉制度のある地域に、人が集まりやすくなる・・福祉磁石ウェルフェア・マグネットの亜種だ。


 そんな男を、彼氏にするのは容易いだろう。

 でも、今日のサギ君のように、共に歩いてトラブルに巻き込まれたり。

 えっちを断った日に、暴力で脅されたり。

 或いは店員に、尊大な態度を取ったり。


 そんなリスクが高そうな相手じゃ、付き合えないだろう。

 やっぱりアタシの初カレは、もっと思慮深い人がいいなあ。


 帰宅後、こってり絞られた(だろう)サギくんと、チャット通話。


『先輩、荷物を最後まで運べず、申し訳ありませんでしたあああ

 m(_ _;)m』


『全くもう・・まあ、まだ軽食を奢る前だったし、今回は許したげる。

 でも、格闘都市特別法のある場所では、君と一緒には歩かないからね!

(# ゚Д゚)』


『すみません、殴り病患者とはいえ、一度スイッチが入ると、自分でも止められなくて。

 この体質があるから、闘技を戦えますが・・・人の迷惑にもなるわけで。

 もっと周りを見て動きます_| ̄|○』


『君もアタシも〈超人世代〉。お互い、厄介な体質を持つよねえ。

 そういや、刀で刺された傷は、大丈夫そう?

(・・?』


『明日は普通に登校しますよ。

 第一、刺されたくらいで学校を休むなんて、軟弱にも程があります。

 拳闘も学問も手を抜かないのが、真の文武両道でしょう

(-д☆)キラッ』


『そいつは文武両道じゃなくて。

 脳筋って言うんだよおおお!!

( ‘д‘⊂彡☆))Д´) パーン』


 脳みそを使わない時間。

 研究中に過剰思考オーバーシンクしてるアタシには、これも必要な時間なんだ。


 会話を打ち切ったら、夜の帳が降りていた。

 さあ、泡沫上がる地へ。

 との、約束を果たしにいこうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る