ミエナイコブシ〜ABSOLUTE ONE

 警告:【胸糞】 ※文字数かなり多め

 ===========

『『頼む、俺たちに力を貸してくれ!』』

『・・・わかった』


 弟くんは、家ではネグレクトもされてたけど。

 不良系の少年グループAの、用心棒をして。

 報酬に食べ物を貰って、飢えを凌いでいた日もあったみたい。

 ああもう。

 アタシの留学前に言ってくれたら、まだどうにかできたかもしれないのに!

 

 ーーそして、決定的な事件が起きる。


『ぐはああっ』

『な、ゴロ坊を一撃だと!?

 かかれ、数で押し潰せ!!』

『・・三日月軌跡くれせんとるかす。』

『な、なんて威力のキックなんだ・・

 ぎゃあああああッ!!』


 中学生の不良グループBと、廃工場での諍い。

 グループAに言いくるめられて、抗争に参加した弟くんは。

 超人としての身体能力を覚醒させ、中学生のボスたちを大怪我させて、病院送りにした。


 予想以上の大きな騒ぎになってしまった。

 でも、Aグループの少年たちは。


『俺達は止めたんです。でも、有人が勝手に暴走して・・』

『『『その通りです!!』』』


 弟くんを庇うどころか、傷害の責任を押し付けたんだ。

 無口で口論が苦手だった弟くんは、上手く弁解できずに、少年鑑別所に送られた。

 父が被害者に示談金を払った結果、不起訴処分で済んだけど・・・・


 バヂバヂバヂイイッ!!


『我が一族の面汚しも、遂にここまで来たか。

 穀潰しの凡愚に、もうカネをかける必要は無いなあ!

 オイ、外の大物置に放り込んでおけ。

 は、追って考える。』

『承りました御主人様!』

『フン。ルンペンの1枚くらい、捨ててもバレぬ方法などいくらでもあるなあ。クククッ。』


 弟くんは、全身を火傷していたものの。

 物置の壁、薄いところをぶち破って脱出。

 その後は万引きしたり、生ゴミを漁って飢えを凌いでいた所、スカウトを受けた。

 高校生くらいで、喧嘩慣れしてそうな、ガラの悪い集団。


『俺らはチーム倭王叛魔ワオウ ハンマ。お前の噂は聞いてるぜ。

 行く場所が無いなら。

 俺らと共に来るか、このまま野垂れ死ぬかを選べ!』


 弟くんは、またしても不良に利用された。

 最低限の治療を施され、連中の手駒になったのだ。


 知能に問題のある〈超人〉を騙して、犯罪に加担させる行為は。

〈超人世代〉の黎明期から、社会問題になっている。


『がはッ・・こんなガキ相手に俺があ・・』

『フヒヒッ、良くやった有人!

 今夜はたらふく食わせてやるからな

 ・・・オイ、敵チームの金目のものを奪え!』

『『『ヒャッハー!!』』』


 こうして、倭王叛魔ワオウ ハンマは抗争相手を次々と潰し。

 危険ドラッグを売るなどやりたい放題。

 

 ・・・そうして、ある日。

 有人が一人でアジトに戻って来た時の事。


『ぐふう・・このジジイは何者・・べぎゃッ!』


 倭王ボスが、踏み潰された疣蛙いぼがえるのような断末魔を晒す。

 昏倒した他メンバーらは、チンピラからボロ雑巾に転職し、あちこちに引っかかっている。


『む。お前さんが例の小学生か。

 単刀直入に言おう。ワシとともに来なさい。』


 廃ビルの、広い汚部屋の中央。

 モッッサリした白眉毛と、仙人髭が特徴的な、紋付袴の老人が立っていた。


『・・あんたが、ボスたちをやったのか。

 ならば俺が相手を・・・

 !!うおっ!』


 の気配を感じ、〈脚力強化レッグブースト〉を使い、慌てて避ける。

 立っていた所にあった、空き缶がグチャリと潰れた。


『ほう。では、これはどうかの?』


 老人は、眉ひとつ動かさないままで立っている。

 部屋の中のテーブルや注射器が、

 ポルターガイストの輪舞と錯覚するほどに。

 弟くんは直感でそれを避けながら、老人への距離を詰める。


『・・捉えた。受けてみろ。

円月車輪脚サマーソルトキッ〉・・』


 老人の眉が、初めて`ぴくっ`と動いた。


 べシャアアアッ!!!


 ーー次の瞬間。

 弟くんの肉体は、不可視の力により、大地に縫い付けられていた。

 強烈な重力がかかったかのように、指の一本すら動かせない状態。


『お前さんのは、相当なものじゃ。

 じゃが今のままでは、ただ他者から奪うだけの存在じゃ。

 それでは、何も守れはせんのう。』

『・・意味、分から、ん事を。

 俺が生、きるのに、他に方、法があると思っ、たか・・ぐうっ!』


『申し遅れたのう。

 ワシはつりがね流道場当主代行、鐘堂鎧羅しょうどう がいら

 生きる方法が絶たれておるのなら、ウチで稽古を積みなさい。

 己の道を、自力で切り拓けるように、の。』


 その後、弟くんは鎧羅さんに連れられて実家に戻った。

 あの外道親父も、元『弐翻にほん最強の武闘家』と事を構えるのは面倒だったのだろう。


『フン、手切れ金の入った通帳だ。

 もはや一族の子でもない、貴様のようなバケモノともおさらばだ!

 二度と敷居を跨ぐでないぞ!!』


 兄と母もこれに同調した。

 これが弟くんが実家から聞いた、最後の台詞だったそうな。


 ーーこうして弟くんは、小5の終わりに名栗町に引っ越して。

 鐘流道場の宿舎に入り、配信報酬やバイトで生計を立てることになった。

 その後、ちーちゃんやサギ君と出会い、今に至る。


 ☆

 過去を話し終えた弟くん。

 ひとつ残った疑問。

 アタシは、涙を内心で噛み潰しながら問いかける。


「ねえ。超人としての能力があるならさ。

 なんで外道父に、暴力で抗わなかったの?」


 弟くんは、ほんの少し考えるようなを置いて。


「・・抗うなんて。

 俺の頭が悪いから仕方がないのかなって、当時は思っていて。

 学校のみんなは、俺を受け入れてはくれたけど。

 でも、テストの点が桁外れに悪かったのは、やっぱりコンプレックスで。

『教育的指導』されても、文句は言えないなって、思い込んでいた。


 ・・でも。どこかでモヤモヤはあって。

 そのイラつきを、喧嘩の敵にぶつけていたんだよな、当時は。

 喧嘩の場所を与えてくれた仲間には、むしろ感謝していたかも

 ・・・切り捨てられたけどさ。」


「弟くん!!」


 アタシの涙腺は一部決壊していた。

 もう耐えられなくなって、言葉を遮るように。

 弟くんに飛びつき、腰に手を回していた。


 ・・手が回りきらないなあ。身長差は40超えてるし。

 がっしりした筋肉。未だに残る火傷の跡。

 今思うと「タワマンのプール、一度は使ってみたい」という身勝手な理由で、無理にプールに連れてきて申し訳ないと重う。


 しかしそれ以上に。

『勉強ができない奴は人でなし』という家訓が、弟くんをパブロフの家畜に堕とした事に、憤りも湧いていた。


「ばかばかばかばかあッ!

 ・・もう、アタシも含めて馬鹿が蠢く阿鼻叫喚で、ぐすっ、やりきれなくなるよお。

 ごめんね、アタシが力をつけるのがもっと早かったら、こんな事には・・」


 辛うじて嗚咽をこらえながら、弟くんの胸に顔を埋め、そっと火傷の跡を撫でる。

 弟くんは、そっとアタシの頭に左手を、背中に右手を置いた。


「・・はは。飛び級しまくった姉貴がそんなこと言ったら、他のガリ勉たちにツッコまれるぞ。


 いいんだ、もう。

 あの頃は姉貴に助けられたし。

 今は早姉はやねえや恭也という友人もいるし。

 勿体ないくらいの綺麗なカノジョも出来たし。

 ここからまた、やり直せばいいから・・・」


 そこからは言葉もなく。

 アタシは弟くんの胸で、さめざめと泣いた。

 引き締まった筋肉に包みこまれる感触が、どこかアタシを安心させていた。


(・・いくら細身の姉貴とはいえ。

 殆ど素肌でくっついていると、意識してしまう。

 美里みさとさん、反応はしませんので、今だけは許して下さい・・)


 ーーーしばらく後。


「ゴメンね。弟くんを慰めるつもりが。

 これじゃミイラ取りがミイラもいいとこだよ・・」


「・・しょげるなよ姉貴。

 むしろ姉貴一人も受け止められないなんて、そっちの方が男らしくないだろ?」


 弟くんの、どこか安心したような微笑。

 うん、もうお互いに大丈夫そうかな。


 ・・じゃ、そろそろ聞こうか。

 聞き捨てならない事を。


「ありがとね。アタシもちょっと救われたよ。

 ・・所でさ。ひとつ聞きたいんだけど。」


 アタシの目からハイライトが消え。

 細身の筋肉が`ヒュッ`と縮こまった気がした。


「ネエ。って一体ナニ??」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る