閑章A 弟くんは、とんでもない女を拾ったようです
残党カノジョ。ー愛欲四天王ー
警告:【下ネタトーク多め】
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個室料亭「鉄ーKUROGANEー」。
頑健な
秘密会議にはもってこいの場所だよね。
ーー苦悶や悲鳴さえも、さして響かないだろう。
そしてアタシは今。
剣呑な顔で、一匹の女狐と対峙している。
『ギギギッ!!オ待タセシマシタ。
大盛シュリンプ&チップス、シェア
ゴ注文ハ全テオ揃イデセウカ?』
「ん!(ゴゴゴゴゴ・・・)」
あ。型落ちの
敵意のオーラが出ちゃってたか、反省。
彼が出ていった後、視線を戻して正面を見据える。
まず、目を引くのは流麗な黒髪だろう。
アタシと同じセミロングでありながら、艷やかな光沢を放つ。
前髪から伸びた房は、それぞれ赤と金の細いメッシュで染めている。
無表情ながら整った目鼻立ち、シャドウやリップを上手く活かしたメイク。
ちくしょー。アタシの平面顔より、よっぽど顔面偏差値が高いじゃん。
ネッカチーフ付きの厚手ブラウスに銀のブレスレット、チェック柄のスカートに黒タイツ。
オシャレなコーデはアタシへの礼節か、マウントか。
女子力の差に圧倒されている場合じゃない。
アタシは弟くんの為に、女狐から真意を問い
弟くんと、3ヶ月前から付き合い始めたカノジョ。
そして、先日の名栗高校卒業式と共に解散した、あるグループの一員でもあった。
ーーその名は、
☆
弟くんとナイトプールで話した日の深夜。
アタシは、複数のディスプレイで情報収集に励んでいた。
足元には
作業用ドリンクの残骸が大量に転がっている。
柊美里の噂話や実話を中心に、電子スクラップ帳に貼っていく。
余りにも酷い情報が出てくるわ出てくるわ。
弟くんの恋人がこんな奴とか・・飲まなきゃやってられねーんだよベラボウがあ!!
ーー対話の最終盤。
どうしても気になってしまったアタシは。
弟くんから、初カノの情報を聞き出した。
だって心配だもん。
弟くんは今まで、境界知能で対話が不得手だったのを、悪人どもに付け込まれ、利用されてきたんだから。
その
また弟くんが利用されかねないとか、ポイ捨てされるかもとか思っても、仕方ないじゃんよ!
アタシは、確かに弟くんが大切だ。
あの頃は、頼れる存在がお互いだけだったし、ある種の依存関係だったのは否定できない。
とはいえ、それは恋愛感情ではないと思う。
弟くんの恋人が、境界知能にも一定の理解がある真人間なら。
ちょっと寂しいけど、お祝いできたさ。
ただし。
裏切る確率の高そうな女狐、テメーは駄目だ。
弟くんは顔に出さないけど。
悪党に騙されたと知った後は、相当応えていたと思う。
今は過保護でもいい。
これは姉として、数多の傷創を刻まれた弟の、幸福を願っての行動だから。
そう決意したアタシは、料亭に奴を呼び出すことにした。
☆
「全く。
名栗高校を卒業したら、距離を置けると思ったのに。
せめて、
冷茶を三分の一ほど飲んだ女狐は、無表情に不機嫌オーラを乗せながら続ける。
一見ダウナーそうに見えて、かなり張りのある声だな。
「まあ、呼び出された理由は予想ついてるわ。
私の過去を調べた上で『弟と別れろ』と言いたいんでしょ?」
いきなり喧嘩腰だな。
まあ、アタシも猜疑心を隠してないし・・これは
「まあ『すぐ別れろ』とまでは言わないよ。
そうしたら弟くんは、精神的にキツイだろうし。
たださ、アタシは心配なんだよ。
弟くんの抱える心の問題とか、過去にあったことは知ってる?」
「もちろん知ってるわ。
付き合う前に、お互いの過去のあらすじは、簡単に伝えあってるわ。
嘘だと思うなら、
へえ、意外と考えてるんだねえ。
互いの全てを暴き尽くせ・・までは、やり過ぎだけど。
付き合っている時に、相方の『過去の悪い噂』を他者から聞くこともあるし。
地雷をある程度撤去しておけば、お互いに納得して付き合えるし、フェアなやり方だと思う。
・・アタシもまだ15歳なのに、人に言えない秘密を抱えすぎちゃってるよ。
逆に相手に詰められたら、ちょっと苦しい展開になるだろうな。
「馴れ初めとかは、弟くんに聞いてるけど。
齟齬があったら困るし、ここでもう一度聞く事もあるかな。
まずさ。
女狐は無表情のまま、眉間にシワを寄せた。
弟くん以上に表情が変わらないなあ。
無表情カップルどうし、皮肉にも似合っているかも?
・・・いやいや、まだ警戒を緩める時じゃないぞ。
「はあ・・私が言うのも何だけど、単刀直入でデリカシーゼロの質問ねえ。
まあ、事情をすっ飛ばして結果だけで言うなら、男性経験はそこそこよ。
あと、四天王のうち三人は、私より前に卒業・退学してるから。
私は四天王の残党にして、最弱に過ぎないのよ。
しかも、自分の意志でチームに入ったわけじゃないし。」
「いや、少なくとも自主的には、チームを抜けられなかったんでしょ?
結果論としては、君が
・・・アタシは怖いんだよ。
君がカラダの疼きを持て余して、他の人と寝て。
結果的に弟くんを裏切っちゃうことがさ。」
バンッッ!!!
ヒラ子(柊をもじったあだ名)がテーブルを叩き、食器がガシャンと揺れ、内容物が一部飛び散った。
「・・あのさ。私が『せっくす依存症』か何かだと勘違いしてるでしょう。
仕方ないわ。私の過去を絡めた、有人との馴れ初めを語ってあげる。
それを聞いてから判断してよ。
(ボソッ)好き好んで、インラン女になったわけじゃないんだから・・・」
どうも何かありそうだな。
一旦ボールを向こうに投げて、それを聞いてから対策を考えるか。
ーー場合によっては、無理やり別れさせる事も視野に入れよう。
アタシはポッケに手を入れ、秘密裏に持ち込んだ薬の包装を撫でた。
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