第18話 注意事項

 朝の食堂にノーマンは姿を現わしていた。

 いつもの朝は部屋でコーヒーを飲みながらくつろいでおり、従業員の朝食が終わったら1人ゆっくりと食べるのが習慣になっている。 

 普段は王都での仕事が多く、こちらは秘書のナターシャにまかせてある。

 だが、今回は特別だ!事情が事情なだけに人任せには出来ない。

 朝早くから食堂に出向き、アキナが朝食に来るのをひたすら待っていた。


「おはようございますノーマン様!こんなに朝早くどうかされましたか?」

 朝は早くから、アキナ探しをしていた従業員達が次々食堂にやってくる。

 そして全員がノーマンの姿に驚きを隠せないでいた。

 今までに、一緒の時間に食堂にいた事が無かった為だ。

「おはよう!・・・アキナ様は降りてこないのかな?」

 ノーマンの問いかけに、リリーが説明をした。

「ノーマン様!アキナ様はお疲れの様子で、まだお休みです。もう暫く時間が掛かりそうですが・・お呼び致しましょうか?」

 リリーは、明菜が部屋で休まず厩舎で寝ていた事は敢えて伝えなかった。

「いやその必要は無い!そうか、突然の出来事で頭の整理ができていないんだろう。」

 ノーマンの言葉が理解できない従業員達は、首を傾げていたがそれぞれテーブルの席に着いた。

「アキナ様が起きられる前に、皆にお願いがある。」

 ノーマンの言葉にただ事ではない雰囲気を感じとっていた。

「アキナ様の存在は、ここだけの秘密として部外者には内緒にしてほしい。」

 席に座っている全員も、リリーも驚いている。

 ノーマンは、皆の驚きを無視して言葉を続けた。

「理由は今は言えないが、アキナ様は大切な人材でここには身寄りが誰もいない。」

「しばらくはここで暮らしてもらえるが、その先ここに留まる保証はない。」

 全員が黙ったままでノーマンの言葉を聞いていた。

「アキナ様が興味を示せば、工房の作業を手伝ってもらう。ただし、アキナ様は魔法は使えないが錬金術は可能だと私は考えている。」

 魔法が使えないのであれば、魔力を必要とする錬金術は出来ないのではと疑問に思っているが、ノーマンの言葉を遮ることは誰もしなかった。

「最後に、今後アキナ様の功績はここだけの秘密とし、外部には絶対知られないようにする事と、ごく普通の平民の女性として接してほしい。」

 いつもは命令口調のノーマンが、頭を下げてお願いしている姿を見て、誰も口をはさめなかった。

「リリー、アキナ様のお世話をお願いする。」

「かしこまりました。」

「キャロット、錬金術のイロハをアキナ様が理解しやすいように教えてほしい。」

「私に出来ることでしたら。」

「他の皆も、アキナ様の事を気にかけてほしい。」

 ノーマンがそこまで言うと、明菜が元気よくこちらに小走りでやってくる。

「すみません!寝すぎました、まだ朝食たべれますか?」

 明菜のくったけのない言葉に、全員の厳しい顔つきが笑顔に変わった。

「大丈夫ですよ、みんなで今から食べる所ですよ。」

 リリーが席に案内しながら、答えてくれた。

「アキナ様、ちょうどよかったです。さあ!一緒に食べましょう。」

 ノーマンの言葉でみんなの朝食が始まった。

 みな明菜をチラチラ見ながら無言で食べていたが、明菜はその場の空気を読めずに出された食事に嬉しそうに眺めている。

「いただきます!」

 明菜の見慣れないしぐさに驚いたが、気にしない様に心掛けた。

「美味しいです。こんな美味しい朝食なら毎日食べたいです。」

「そうですか!毎日好きなだけ食べて構いませんよ!その分のお手伝いはお願いします。」

 さっきまでの口調と180度違う言葉で、軽い口調で明菜に伝える。

「はい、食べた分はしっかり働きます。」

「アキナ様、お願いします。最初は初級ポーションの作成方法をキャロットから教えてもらって下さい。」

「はい、お願いします。」

「キャロット!頼みましたよ。」

 ノーマンの言葉の重みを受け止め、明菜の手を握って精一杯の笑顔を見せる。

「アキナ様、今日はよろしくお願いします。」

「はい!頑張ります。」


食事が終わり、キャロットはアキナと一緒に初級ポーション工房へ向かった。


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