第3話 出会い

 今いる場所には見覚えはないけど、勝也と一緒ならどごでも構わないと言う気持ちが心のスキマを埋めてくれたのか、急にお腹が減ってきた。

「勝也!お腹が空いたね・・・ここにいても食べ物が無いし、人が住んでいる場所まで移動しょう!」

 勝也にそう言うと、方向音痴の私は森の中を歩き始め勝也も一緒に移動する。

 

 ずいぶん歩いただろう、足が疲れてきた。

「疲れたよ~少し休んでもいいよね!」

 私が地面にへたり込むと、勝也は真横にしゃがみ背中に乗るような仕草を見せる。

「エッ!乗っていいの?」

 一瞬戸惑ったが、勝也なら安心できると思い、スカートをまくり上げ背中にまたがった。

 フサフサした毛の感触が直接肌に触れているように感じる。

 気持ちが良いと下半身から感じた瞬間に、額から汗がうっすらと出て来た。

(しまった!下着を脱いだままだ!)

 心の声が勝也に聞こえない様に必死で平素を装う。

「ネェ勝也~喉が渇かない・・水辺がある方へ行こうよ~」

 勝也は明菜の言葉に反応して、向きを変え川辺を探しながらゆっくりと移動した。

 しばらく移動していると、森林の合間から明るい光が入って来た。

「道に出たわ!向こうには川も流れているわ!」

「さすが勝也ね、私が進んでいた反対方向に行くなんて。」

 私の方向音痴は今に始まった訳ではない、

 子供の時からいつも迷子になっていて、いつも勝也が見つけてくれていた。

 そんなことは気にしない、早く川辺で下着を洗わなければ・・・・・

「今、何か悲鳴が聞こえなかった?」

 悲鳴の方向を見ると、オオカミが人を襲っている。

 一台の荷馬車の周りで剣や弓を構えてオオカミと対峙している。

「あの人達大丈夫なのかな?アッー1人倒れたよ!」

「勝也!助けに行かなきゃー」

 勝也に乗ったまま、襲われている荷馬車の近くまで行くとオオカミ達がこちらに気付いたみたいで何匹かが襲ってきた。

「キャー・・・怖いよ勝也!」

 私は怖くて背中に顔をうずめてしがみ付いていた。

 

「なんでこんなところにいるんだ!」

 荷馬車の護衛をしていた男達が、突然魔物に襲われて防戦一方を強いられて不利な状況化で突如現れた銀色の魔獣に驚いていた。

 銀色の魔物は圧倒的な力でオオカミを蹴散らす。

 さすがのオオカミ達も分が悪いとシッポをまいて逃げて行った。


 オオカミ達がいなくなるのを確認して元の川辺に戻ろうとした所、荷馬車の後ろのキャビンに乗っている老人から声を掛けられた。

「危ない所を助けていただきましてありがとうございます。」

 老人はキャビンから降りて、こちらに近づいてくる。

「こちらの魔獣はお嬢さんの従魔ですかな?」

 従魔?お嬢さん?・・・私のこと?・・・

 声を掛けてきた老人が言ってる意味が理解できない・・・

「申し遅れました、私はこの先にある町で商いを営んでいますノーマンと言います。」

 ノーマンと名乗った老人は、よく見ると白髪に眼鏡を掛けていたため老けて見えただけで、そこまで年をとってはいない紳士風の男であった。

「お嬢さんはどちらからいらしゃいましたかな?」

どちらからと言われても、私自身がわからないので答えられない。

「私の名前は明菜と言います。記憶がなくて、気付いたらこの森の中にいました。」

「アキナ様、記憶がないとは・・・そちらの従魔様はどうされましたか?」

「勝也は私の幼馴染の友達です。」

「従魔様のお名前は勝也様と呼ばれるんですか?」

 従魔を友達と言うこの得体のしれない少女、問題は少女の従魔であろう神獣フェンリル!伝説と言われている銀色のフェンリルが今、目の前にいる。

「アキナ様、助けていただいたお礼としまして、町までご一緒いたしませんか?」

「記憶がないとおしゃられていましたので、この辺りの事情も分からず不安だと思います、町にある私のお店でゆっくり休んでからでも遅くはないかと存じますが。」

 たしかにノーマンの言う通りだ、ここは甘えてもいいかな?

 勝也に聞いてみたが、案の定そっぽをむけられ変な顔をされた。

「従魔殿は主人であるアキナ様の意向に背きは致しません。」

 それは違う!勝也は平気で私の期待を裏切るし・怒る・叱る・全然私の気持ちに気がつかない!

でも、いつも私を守ってくれるし・優しい・いつも傍にいてくれる・私の秘密を知っているただ1人の幼馴染。

「勝也!この状況がわかるまで、ノーマンさんの世話になろう。」

「そうですか!ぜひ私のお店で休んで下さい。お話はその時にじっくりと致しましょう。」

 ノーマンと話が付くと、護衛の男達は武器をしまいフェンリルを恐れるように荷馬車を早々に移動させた。

 ノーマン達の後を、勝也と一緒に後ろからついて行った。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る