第21話 騎士団長

 お店に入って来た騎士の姿を見て、明菜は思わず声を出しそうになったが、すぐに口を塞ぎうつむいて顔を隠した。

「こちらはニーデル商会のお店で宜しいでしょうか?」

「はい、ポーション等のお薬や魔道具の販売をしております商会です。」

 ミリヤは落ち着いた対応で受け応えをしていた。

「この度レイフォースの町に赴任しました王国第3騎士団長のオルフォースと言います。」

「騎士団長様ですか?それでお店には何用でいらっしゃいましたか?」

「赴任の挨拶と町のお店の現状を視察しており、こちらのお店も調べさせてももらってもよろしいですか?」

「もちろんご自由に調べて下さい。騎士団には町の治安に魔物の討伐までいろいろお世話になっております。」

 騎士団長の後ろで待機していた2人の部下が、店の中を調べ始めた。

 入り口の外は、騎士団の集団がうろついて物々しい雰囲気だ。

「あの~君は昨日路地裏にいたお嬢さんではないかな?」

「その節は助けていただきありがとうございます。」

「こちらの店で働いているのか?」

「いえ違います。こちらの宿舎を利用させてもらっている冒険者です。」

「ほぉ~冒険者ですか・・・職業は魔導士ですか?」

「魔導士ではありません。薬草採取を専門に行って、ここの工房のお手伝いもしております。」

「採取専門の冒険者ですか~今のこの町に必要な人材ですね。」

「お嬢さん1人で森は危険で命かけの仕事ですね、困ったことがあれば相談に乗りますから頼って下さい。」

 礼儀正しい騎士団長が少しカッコよく見えてしまった。

「昨日の路地裏での一件は、治安を預かる者として不安にさせて申し訳なかった。」

「イエイエ、私が道に迷ってしまって危険と忠告されていたのを忘れとしまい自分に責任があります。」(本当の事は言えないから必死にごまかした。)

 明菜は路地裏での行為を突っ込まれたらまずいので、話題を変えた。

「騎士団長さん!このポーション試供品ですので使ってみて下さい。」

 箱に並べたポーションから1本取り出し、騎士団長に渡した。

「商品のポーションが5銀貨ですので、試供品は半額の2銀貨と5銅貨です。」

「これが試供品のポーションですか!普通の色とは少し違いますね!」

 明菜が騎士団長に試供品を渡して、ミリヤとキャロットは大慌になった。

「申し訳ありません!騎士団の方に試供品を売りつけてしまいまして!」

 ミリヤが棚から市販用のポーションを取り出し、試供品と入れ替えを願う。

「試供品は冒険者に渡すもので、騎士団様には失礼に当たりますよ!」

 キャロットも私の腕を掴んで、騎士団長に向かって謝る。

「オルフォース様、こちらのポーションとお取り替えを!お代は頂きませんので!」

 ここで騎士団の機嫌を損ねたら、商売に影響が出る為必死の対応をするミリヤ!

 ミリヤとキャロットの対応には、明菜は理解できないでいた。

「私は気にしませんよ!試供品も大いに結構です。ポーションの作成には必要な検証ですし、品質のよいポーションが出来れば騎士団も冒険者も助かります。」

「騎士団長様・・・その試供品は私が薬草の配合を間違えて作成したもので、騎士団で検証してもらえる品物ではないんです。」

 キャロットが頭を下げて謝っている。

 それは違う!作ったのは私だから、問題があれば私が責任を取らなきゃいけないのでキャロットではないわ!

 そう言おうと前に出ようとしたら、ミリヤに止められてしまった。

「君の作成したポーションですか?」

 キャロットは静かに頷いた。

「わかりました!試供品と商品どちらも購入しましょう!お代は両方分を支払います。試供品ですので何か問題が出てもお咎めは致しません、またその結果も報告します。」

 オルフォースは何故か私の方を見ながら話し、部下に支払いを指示してた。

「前任者の不手際で今までいろいろ問題が在ったと思いますが、今後は気にしないで下さい。」

 オルフォースは店にいる全員を見ながら話した。

「この町の唯一工房がある商会ですので、人々の役に立つ商品を開発して下さい。」

 オルフォースは部下と共に店を出て、外で待機していた騎士団と合流して次の視察に向かった。

 店を出るオルフォースは、黒髪に黒い瞳の顔が心に焼き付いていた。 

 騎士団の一行が去って静かな空間になると、エミリーとキャロットは腰が砕けたように床に座り込んでしまった。


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