第16話 就寝

 歓迎会の席で、ノーマンが明菜に工房の仕事を勧める理由がわからないと、ここにいるみんなが不思議に思っていた。

 錬金術師の全員は初級レベレではあるが、魔法が使える魔力を持っている。

 裏を返せば、魔力が無いと錬金術は使えない。

 錬金術の知識は覚えれば可能だが、そもそも魔法が使える人材はごく僅かで滅多にいない。

 ここにいる5名も国中で探し集めたごく僅かな人材だ。

 みんなが疑問に思っていることを、錬金術師の中では一番年上であろうヨーデルが尋ねた。

「アキナ様は、魔法が使えるんですか?」

「私、魔法は使えませんよ!」

 ヨーデルの質問に即答で答えた明菜に、他の連中もビックリしていた。

 しばらく無言の時間が過ぎたが、明菜は料理を食べ続ける。

「魔法が使えなくても、ポーションや魔道具は作れますので、キャロットと一緒に挑戦してみたらいかがですかね!」

 ノーマンの言葉にみんなの視線が集まったが、ノーマンの表情は真剣だった為、誰も異議を唱えなかった。

「そこまでノーマンさんが言うのであれば、キャロットに教えてもらおうかしら?」

 ノーマンの目が、一瞬で輝き始めた。

「そうですか!そうですか・・・キャロット~アキナ様に丁寧に説明して差し上げるよう頼みましたよ!」

 ノーマンから威圧的な言葉を掛けられ、キャロットは明菜にお辞儀をした。

「アキナ様!よろしくお願いします!」

「こちらこそお願いします。」

 ノーマンは、今日の食事がやっと喉を通ったようで撫でおろしていた。

「今日はこの辺でお開きと致しましょう!」

 ノーマンの言葉で皆席を立ち上がり、各部屋に戻り始めた。

「リリー!アキナ様をお部屋に案内しておくれ。」

「アキナ様、メイドのリリーと申します。わからないことは何なりとお申し付け下さい。」

「有難う!よろしくお願いします。」


 宿舎の部屋に案内される前に、ノーマンにお借りしていたお金を返していない事に気がついた。

「ノーマンさん、今朝立て替えてもらいました通行料とギルドの登録料をお返しします。」

 バックから報酬でもらった銀貨6枚を出して渡した。

「いつでもよろしかったのですが!さすがはアキナ様、もう収入があったのですか?」

「はいおかげさまで!私は薬草の採取、勝也は魔獣を倒して報酬を貰いました。」

「さすがです。ところでアキナ様、今後薬草の採取をした場合はギルドではなくニーデル商会で買い取らせて下さい。もちろんギルドより高い値段で買い取ります。」

「エッ!こちらで買い取り、それも高くですか?」

「先ほどお話ししたように、ポーションはとても貴重です。需要も多く生産が追いつきません。そのポーションには先ほどの薬草が必要で、これも数が全く足りてないのが現状です。」

「ポーション作りは必要な材料ですね。わかりましたたくさん採取しておきます。」

 お互い納得した様子で、食堂を後にした。

 

 食堂から2階の部屋に案内してくれるリリーに、厩舎は何処にあるのか尋ねた。

「この食堂の裏手にあります。この勝手口から出れます。」

 厩舎への出入り口を確認して、そのまま2階の部屋に向かった。

「アキナ様の部屋はこちらになります。」

 リリーが案内してくれた部屋は来客用の特別部屋で、今回アキナ専用の宿舎にあてる為、急遽広く立派な造りに改装された。

「すごい!こんな立派な部屋を私が1人で使用しいいの?」

 宿舎と聞いていたから、ビジネスホテルをイメージしていたので面食らってしまった。

「はい、ノーマン様の指示で改装させて頂きました。」

「足りない物があれば、何なりとお申し付け下さい。」

 改めて部屋の中を確認する。

「一つ聞いてもいいかな?」

「トイレはあるの?」

「はい、特別にこの部屋だけ準備致しました。」

「準備?」

「こちらにご用意しております。」

 リリーが示す先には、木の箱で作られたオマルがあった。

 そうよね、水栓トイレを期待していた私がバカだったわ!

「皆さんはどうしているんですか?」

「工房の裏庭でみなさんされていると思います。」

「周りの目は気にならないの?」

「当たり前の行為ですので、気にしたことはありません。他の方が不愉快にならないようになるべく近くに人がいない事と、行為が見えない様に注意しています。」

「有難う、勉強になったわ!」

 リリーが部屋を出てから、1人ソファーに腰を下ろして一息付く。

「私達が住んでいた日本とは違う場所だよね?」




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