第8話 宿舎

 ノーマンから案内された工房は、明菜にとっては物珍しく新鮮に映った。


 ただノーマンの考えと裏腹に、明菜はその奥にある広い場所が気になっていた。

「ノーマンさん有難うございます。ところで奥にある場所は何ですか?」

 ノーマンはまだ頭の整理が出来てなく、明菜の言葉に戸惑ってしまった。

「もうよろしいんですか?」

「はい、技術職はどこも人材確保が大変という事がわかりました。」

 ノーマンは困った表情でいたが、本人は気にしてないようで好い臭いがする奥の部屋が気になっていた。

 ノーマンは我に戻って、まだチャンスはあるはずだと気持ちを切り替えた。

「奥の広場は食堂です。」

「こんなに広い食堂があるなんて、宿泊施設でもあるんですか?」

「先々代が錬金術師で、お弟子さんや冒険者の人が大勢ここの宿泊施設を利用していましたので、このような食堂が必要だった聞いています。」

「今は使われていないんですか?」

「現在は従業員の宿舎用として使用しています。」

「空き部屋はありますので、アキナ様さえよろしかったらお使いください。」

「エッ!使ってもいいんですか?」

「もちろんかまいません。」

「でも・・・勝也は部屋に泊まれないし・・・」

 ノーマンの提案に心が動いたが、私だけベットで寝たら勝也がかわいそうだ。

「勝也様でしたら、建物の裏に厩舎がありますのでそちらでお休みが可能です。」

 ノーマンが明菜の心が動く提案を出した。

「本当ですか!・・・でも私達お金をもっていないんです。」

 お願いしたいけど、お金もないしタダと言うわけにはいかない。

「もちろんお金はいりません!アキナ様さえよろしかったら好きなだけ泊まって下さい。食事も無料でお出しいたしますけどいかがですか?」

「好きなだけ泊まって、食事も無料!・・・」

 あまりにも条件がよくて、考えてしまう。

 タダより怖いものは無いというし、ノーマンの言葉に疑問をいだいてしまう。


 アキナとのやり取りでノーマンは悩んでいた。

 普通の平民ならこんな好条件なら断る理由がないはず。

 でも彼女は明らかに拒んでいるようだ。

 もしかしたら他国の貴族で、プライドがそうさせているのか?

 ノーマンはすぐに内容を変えて再提案を口にした。

「アキナ様、この提案には条件がありまして・・・」

 やっぱり~うかつに返事しなくてよかった!

「ノーマンさん、その条件を教えて下さい。」

「アキナ様達がこちらで生活するのに、お金を稼がないと困ると思います。」

「そうですね、しばらくはこの町で生活ができればいいかなと~」

「手っ取り早いのが、冒険者になって勝也様と一緒に魔獣を倒してお金を得る事です。ただ一般の宿屋は従魔連れは宿泊できません。別々の場所になります。」

「勝也と別々は絶対にダメです。」

「そこで我が宿舎では厩舎も同じ屋根の下にありますので問題はないと思います。」

 そこは納得するわね。

「もう一つは、アキナ様がか弱い女性であることで冒険者の依頼を毎日こなすのが大変になってくるはずです。そこで時々この工房の手伝いをしてもらうというのが条件です。」

「冒険者の仕事が本業で工房のお手伝いが副業という事で仕事をこなせば、無料で宿舎の利用と食事が頂けるという事ですね。」

「さすがわアキナ様!理解が早い。」

 悪くはない条件!ノーマンの目的はまだ別にありそうだけど、悪人には見えないのよね~

「わかりました。ノーマンさんよろしくお願いします。」

 ノーマンが今までにない嬉しい表情で目を輝かせた。






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