第26話 散歩の末路

  アデルと2人で採取の依頼を受け、魔の森の手前の生息地で黙々と薬草を探す。

「アキナさん!少し休憩しませんか!」

「アデルさんは、どのくらい採取できましたか?」

「まだ5本です。この辺りは他の冒険者が採取していますので、これ以上は期待できそうにありません。」

「私も5本です。これじゃサンドイッチ代にもならないわ!」

 2人とも、あまりの現実に疲労感が増していた。

「違う場所に移動しましょう!」

「他の場所は、魔物が出る可能性がありますから、やめませんか?」

「あら!先ほど魔物が出たら任せておけといいませんでしたか?」

 アデルの不安そうな表情を見ながら、わざとらしく話す。

「アハハ!・・・そんなこと言いましたかね?」

 明菜は、アデルの言葉は無視して移動を始めた。

「アキナさん!勝手に移動するのは危ないですよ!」

 アデルは、慌ててアキナの後を追いかけていく。

 今までの安全な薬草の生息地と雰囲気が違う、少し見晴らしが悪い湿地地帯に出た。

 魔の森の中ではないが、初心者の場所ではないと肌で感じたアデルであった。

「この辺りは薬草がありそうよ!」

 明菜はさっそく採取を始めた。

 アデルは採取よりも周りに神経を尖らせていた。

「凄いわ!図鑑で見た薬草以外の草もあるわ!」

 明菜は薬草以外に、毒消し草や眠り草を見つけて大喜びしている。

「アデルも採取しないとお金を貰えないわよ!」

 明菜に催促されて、仕方なく薬草採取を始める。


 静かな時間が過ぎていく。

 結構な数を採取していた時、アデルの手が何かに触れた。

 アデルの手に触れたヌルットとした物体は、姿を見せないまま逃げていく。

 草むらが不自然に動いた瞬間に、アデルに向かって何かが飛び出した。

「ワァア~」

 寸前の所で交わしたが、そのまま後ろに倒れ込んだ。

「アデル大丈夫!・・・何か動いているわよ!」

 倒れ込んだ所をめがけて白いウサギが飛びかかる。

 正面に飛んで来たウサギを剣で払いのけたが、もう1匹草むらからアデルの足に突っ込んできた。

「痛い!」

 アデルの右太ももにウサギの角が刺さっている。

 痛みを堪えながら振り払う。

 よく見ると白いウサギの頭に鋭い角が生えている。

「アキナさん!ホーンラビットです。直線的に突っ込んできますので角に気を付けて下さい。」

「私より自分の事を心配しなさいよ!」

 明菜がアデルの側に駆け付けると、ホーンラビットはその場に立ち止まった。

「どうしたのかしら?ウサギは動かないわね。」

「アキナさん・・・ヘビです。ホーンラビットの前にヘビがいるので動かないだけで、ヘビにも気を付けて下さい。」

「ヘビ!私、爬虫類は苦手よ!」

 明菜とアデルは、ヘビをジッと見ているがヘビも2人をジッと見ている。

 動かない2人を見ていたヘビは、口から舌を出したと思ったら、明菜の方向に飛び掛かってきた。

「アキナさん危ない!」

 アキナを庇ったアデルの腕に噛みついた。

「アウッ!・・・アキナさん・・・大丈夫ですか?・・・」

「なんで私を・・・」

「アキナさん・・・逃げて下さい・・・このヘビ、毒があるみたいです・・・」

 アデルの右腕が黒ずんでくる。

「ヤバ~毒の回りが早いみたいだわ!」

「アデル一緒に逃げるわよ!」

 明菜が声を掛けるがアデルは声も出ないようだ。

 アデルは痛みを堪えながらバックからポーションを取り出し、意識がもうろうとしてくる中ポーションを口に含んでから気を失ってしまった。

「アデル、しっかりして!こんなところで寝ないでよ!」

 アデルに噛みついた毒ヘビは、足元ににじり寄る。

 いつのまにか周りにはヘビが無数いる状態になっていた。

 毒ヘビが現れると同時に、ホーンラビットの姿は消えていた。

「もしかしてここはヘビの生息地!」

 無数のヘビがにじり寄って来る。

 「イヤ~来ないで!ヘビは苦手なの!・・・勝也助けて!」

 この状況はマズイ!これは絶対絶命と思ったとき、上空から雷がヘビめがけて落ちてきた。

「キャ~」

 突然の出来事に明菜は声を出してしまった。

 それと同時に少しちびってしまったようだ。

 一瞬下半身の冷たさは気になったが、大きな音と周りにいたヘビの群れが真っ黒に焦げて皆死んでいる光景をみて、漏らしたことは小さい事だと言い聞かせていた。

 雷の直撃を免れた何匹かのヘビは、物凄いスピードで逃げ出していく。

 何が起こったのか理解できないまま呆然としていると、どこから現れたのか明菜の目の前にフェンリルが姿があった。

「勝也!」

 腰が抜けたのか地面に座り込んだままの状態で、目の前に現れた勝也を今にも泣きそうな表情で見つめる。

 勝也の姿を見て安堵したのか暫くは言葉はでないままでいたが、座り込んだお尻の回りは見る見るうちに水たまりが広がった。

「見ないで勝也!」

 自分ではどうすることもできないようで、真っ赤になった顔を両手で覆って隠した。

 

 やっと落ち着いたのか、無言で濡れた下着を脱ぎ、バックにしまう。

「急に現れる勝也のせいだからね!・・・それにあの雷はなに!・・・私が雷を嫌いな事を知ってていやがらせか何か、私に不満でもあるの!」

 漏らしたことを誤魔化すように、訳の分からない言いがかりを勝也に投げる。

 そんな明菜の言葉を聞き流しながら、明菜の横に倒れているアデルの方に近づき顔色を確認する。

「忘れていたわ!アデルは毒ヘビに噛まれて倒れたままだったわ!」

「このままでは毒が全身に回って死んでしまうわ!どうすればいいの?」

 慌てる明菜の側に来て、アデルの噛まれた場所に前足を置く。

「どういうこと?」

 明菜は考えていた。

「早く毒を取り除く方法は?毒消しの薬はないし、治療の魔法も知らないのならやることは一つね!」

 明菜は、アデルがヘビに噛まれた場所の服を剥ぎ、傷口に口を当てて血を吸い取り始めた。

本来なら毒を吸い取る側も危険があるが、聖女で状態異常に耐性がある明菜は何事も影響を受けない体質であることは後ほど知ることとなるが、今はアデルを助けるのに一生懸命な明菜であった。

 






 

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