第25話 午後の散歩
ニーデル商会の工房を出て、町中を散策しながら冒険者ギルドに向かった。
いろんなお店をチェックしながら歩いていると、気になった看板が目に入った。
「サンドウィッチの店だ!」
食い意地が張っているのか、つい購入してしまう。
「勝也の分も買ってあげなきゃ~」
2人分のサンドウィッチと果汁水を購入して、アイテムバックにしまっておく。
「このバックはとても便利よね!いくらでも入るし、取り出す時はイメージするだけで出て来る、それに時間が止まったいたかのように新鮮なのよね~キャロットが作りたがる理由がわかるわ!」
アイテムバックの仕組みは全くわからないが、使いこなしてこそ製作者が報われるという事よ。
ニーデル商会から冒険者ギルドまでの道のりを、辺りを見渡しながら歩くと大きな建物の入口にたどり着いた。
「私にしては上出来だわ、迷子にならずにたどり着いたから!」
自画自賛しながら、ギルドの室内に足を踏み入れた。
この時間のギルドは冒険者の人数が少なく、テーブルで飲み食いしてるパーティが2組ほどいるだけだ。
「アキナ様!冒険者ギルドへようこそ、どうかされましたか?」
受付嬢のミラが、キョロキョロしていた明菜に気付き声を掛けてきた。
「こんにちわ!チョト散歩がてらに冒険に行こうかな~と思ってきました。」
ミラの顔は少し引きずっている様にも見える。
「アキナ様は魔法は使えますか?」
「魔法は知りません!ポーションを作りたいので、薬草の採取に行こうかなと思っています。」
「従魔のフェンリルさんはいないんですか?」
「そういえば朝から見ないわね?退屈だから1人で森に散歩に行ってるのかしら?」
ミラの顔の引きずりが大きくなっている。
「アキナ様1人では危険ですので、他の冒険者と一緒に行かれるのが宜しいかと思います。」
ミラに言われて周りを見渡すが、今ここにいるのは2組のパーティと、奥のカウンターで買い物をしている若い男が1人いるだけだ。
「誰か私と一緒に森の散歩に付き合ってくれる人はいませんか?」
明菜の誘いに、テーブルに腰掛けていた2組のパーティーは一斉に顔を背けた。
あからさまに断られた感じの様子にため息を付く明菜に、奥のカウンターに居た男が声を掛けてきた。
「俺で良かったら一緒に行きましょうか?」
「エッ!ほんとですか?」
明菜は声を掛けてくれた男を、品定めをするかのように眺めた。
「俺の名前はアデル、まだFランクの新米冒険者です。」
「私は明菜、同じくFランクの冒険者です。」
「エッ!依頼者ではなく、冒険者なんですか?」
「失礼だわ!これでもれっきとした冒険者ですよ!」
そう言いながら、ギルドカードを見せる。
「すみませんでした。こんなに可愛いらしい方が冒険者とは思わなかったので、つい護衛の依頼かと勘違いしました。」
「まあ~可愛いなんて~正直な人ですね~」
2人の会話を聞いていたミラは、引きずった顔が更に引きずっていた。
「では、新人冒険者同士、採取に行きましょう!」
「俺で良かったですか?」
アデルはミラの不安そうな表情を読み取ったが『時すでに遅し』、明菜は一緒に行く気満々である。
この状況で、かつ2人が合意したのであれば、ギルドとしては口を挟む事は出来ないと判断したミラは、アデルにポーションを2本渡した。
「アデルさん、アキナ様をお願いします。それと2人共まだレベルが低いので、無茶はしないで下さいね。」
ミラに行き先を伝えて2人で採取に出発した。
城壁の門番にギルドカードを見せて、前回行った魔の森の方角に歩いて行く。
「改めて自己紹介をさせて下さい。」
彼女の勢いにつられてここまで来たが、お互いの職業や戦い等の打合せをしていないことに気付いた。
「俺の名前はアルフォスト・アデル、男爵家の次男です。アデルと呼んで下さい。」
「男爵家と言うと・・・貴族ですか?」
「貴族と言っても、田舎の小領主で跡取りは兄がいますので、自由気ままな生活を送るために冒険者をやっています。」
「私は城之内明菜、明菜と呼んでね!ちなみに平民で一般庶民です。」
「アキナさんは平民ですか?そうは見えませんね!」
「どこからどう見ても平民でしょう!」
「アキナさんがそう言うのなら構いませんが、ギルド職員の方や他の冒険者から一目置かれているように思えるですが?」
「知らないわ!私は採取しか出来ないから、ポーション作りに必要な材料を集めたいの。」
「アキナさんは錬金術師ですか?」
「違いますよ!たしかギルドカードにはティマーと記載されていたような?」
「ティマー!アキナさんはティマーなんですか?・・・従魔は?・・・」
アデルは驚いだ表情で、アキナの周りをキョロキョロと探している。
「従魔?・・・アッ!彼の事ね・・・さあ~どこか散歩でも行っているんじゃないのかな~」
アキナの他人事みたいな言い方に、アデルはさらに驚いていた。
「従魔が勝手に行動することがあるんですか?」
「従魔の定義はよく知らないけど、幼馴染よ!」
「幼馴染の従魔?」
「子供の時からずっと一緒にいるから、何でもわかるから気にしないで!」
アデルはアキナの従魔が伝説のフェンリルとは、まだ知らなかった。
2人はお互いの話しをしながら、薬草の生息場所に到着した。
「さっそく薬草採取だ!アデルも頑張って探してよ!」
「俺は採取の仕事が苦手なんだ!でもFランクではパーティーを組まない限り他の依頼は受けいれないからな~早くレベルを上げたいんです。」
「私は採取しか出来ないから、パーティーを組んでも役に立たないからね!」
「わかっていますよ~魔物が出れば俺が守ってあげますよ!」
「期待していないからね!」
笑い声はするが、薬草採取の依頼内容を思い出しながら真剣な表情で探す。
報酬分と自分で使う分を考えながら、黙々と採取する姿がそこにあった。
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