第27話 パックマン、スペランカー、おゆき?


「まず、チウネルよ……電灯のスイッチを探そうか」

「そうだね……って、これじゃない」

 大広間を入った扉のすぐ横に、それはあった。

「それだ」

「押すよ……はい」

 深田池マリサがスイッチを押すと、中央に飾られているシャンデリアに明かりが灯った。


 ――しばらく二人が見上げる。

「エルサスさん……シャンデリア好きだな」

「高そうだね……玄関の天井に吊り下げられているのと同じくらい」

 それから、視線を下げて、

「ナザリータさんが言っていた通り、物置というか……倉庫だな」

「昔はパーティーとかをしいた娯楽会場だったのにね」

 今度は、大広間の現状を二人で眺める。


 大広間は、まるで資材置き場のようだ。

 段ボールの上に段ボールを重ねて置いてある。

 それも数か所、大広間のほぼすべての場所に……。


 例えるなら、迷路のようだ……。


「ナザリベスちゃん、何処にいるの! 出てきてよ……」

 段ボールが邪魔になり、大広間の全体を見渡せない深田池マリサが大声を出してみる。

「あいつは幽霊だからな、この迷路のような大広間の荷物をすり抜けて移動できるだろうな……。まるで、ファミコンのスペランカーの幽霊だな」

 ここで杉原ムツキがナザリベスという存在を、ゲームで例える。


「……それ、ファミコンのパックマンみたいなモンスターのこと?」

「チウネルよ、よく知ってたな」

「私、任天堂のスイッチでパックマンを遊んだことがあるから……」

「パックマンのモンスターは壁をすり抜けられないけど、この大広間を例えるならパックマンが適当だな」

「じゃあ、スペランカーってどんなゲームなの?」

 深田池マリサがそう聞くと、杉原ムツキが「よくぞ聞いてくれた!」と親指を立ててグッジョブ。

 彼は、そのゲームの概要をただ一言、


「……足を踏み外しただけで即死する」


 とだけ伝えた……。

「何それ?」

 彼女にとっては意味不明な説明も、ファミコン世代であれば誰でも納得するだろう。

「ナザリベスは女の子だから……忍者じゃじゃ丸の『おゆき』に例えたほうがよかったかな」

「おゆき?」

「……って、ゲームの話は置いておこう。チウネル、さがすぞ!」

 幽霊騒動を解決すべく、本題に入る。


さがすって、まさか……」

 半歩後ずさりしたのは深田池マリサである。

 彼女は、なんだか嫌な予感がした。

「そのまさかだ、二手に分かれてこの迷路を移動しながらナザリベスを見つける」

 見つけるためには捜さなければいけない……捜すということは捜し歩くということになる。

「ええ! トケルンさん……迷ったらどうするの? ゲームオーバーになっちゃうよ」

「……ならん。俺たちスマホを持っているんだから、お互い連絡すればいいだろ」

 彼の冷静なアドバイスに、

「ああ……」

 言われてみればそうだと、彼女がホッと胸をで下ろす。


「そうだ、チウネルよ」

「なに?」

「スマホでカナッチに連絡して、ナザリータさんと連絡を取れるようにしておいたほうがいいかもな」

「そ、そだね!」


 早速、深田池マリサがスマホでメッセージを入れる。




       *




 俺は大広間の右側を探すから、チウネルは左側をと二手に分かれてさがし始める。

 迷路状態の大広間、シャンデリアの明かりは部屋全体を照らしてくれているから捜しやすかった。


「チウネル~! 今どこだ?」

 迷路の何処どこかから、杉原ムツキが大声を出して彼女を呼ぶ。

「私は……たぶんだけど、大広間の応接間に通じる扉を下に見たら……左上くらいだよ」

「俺は右側を一通り歩いてから、今は大広間の中央にいる」

 彼の頭上にシャンデリアが輝いている。

「ナザリベスは見つかったか?」

「全然だよ……。何処にいるんだろね」

「俺も、さっぱりだ」


 その時――、

 深田池マリサのスマホに着信音が鳴った。

「あ、カナッチからだ……」

 スマホを耳に当てると、

「もしもし、カナッチ? 今何処にいるの……そうなんだ。ナザリータさんと一緒に玄関の中なんだ」

 一旦、彼女が耳からスマホを放して「トケルンさん! カナッチ、今玄関の中だって」と大声で佐倉川カナンの居場所を伝えた。

 その大声は、当然スマホの向こうにいる人物カナッチにも聞こえたから、

「……え? ナザリータって……ああそれはね、私が四条トモミさんに付けたニックネームだよ」

 慌てて、その意味を説明することになった。


「どうした、チウネル? カナッチに何かあったか?」

 大広間の中央にも聞こえる彼女の早口な口調に、杉原ムツキが気にした。

「トケルンさん……、カナッチね、彼女の隣にいる四条トモミさんを見ながら大爆笑しているみたい」

「何でだ……」

「私がナザリータってニックネームをつけたから……かな?」


 ――そうだろうね。


「そうそう、カナッチにお願いがあるんだけど……ナザリータさんに、私たちは女の子の幽霊に遭遇したって伝えてほしんだ。それと、その女の子の幽霊を追って今、大広間の中にいるってことも」

 大爆笑中だろう彼女に、その笑いネタの相手――メイドの四条トモミに現状を伝えようとする。


 そしたら――、

「え? ナザリータさんが心配してるって?」

「今度は、ナザリータさんが何だ?」

「……うん。あのね、トケルンさん。ナザリータさんが『大広間は荷物が散乱していて、まるで迷路のようですから危険です』だって」

 幽霊騒動の依頼解決のため選考調査したのがまずかったか?

「できれば先に教えてもらいたかったけれど……依頼を優先したからな」

 杉原ムツキが腕を組んで、四条トモミに心配を掛けてしまったことを反省した。


「お兄ちゃん~、お姉ちゃん~」


「……ナザリベスちゃんの声だ」

 スマホから耳を離した深田池マリサが、おもわず段ボールの上を見る。

「ナザリベス! 何処にいるんだ? 姿を表せって」

 その段ボールのはるか向こう側にいるだろう杉原ムツキが、大声で女の子の幽霊を説得する。


「やだ、やだよ~」


「もう、ナザリベスちゃん! 私たちはね、あなたとお話がしたいのよ」

 駄々をこねる女の子に、今度は、チウネルお姉さんが説得した。


「お話って?」


「ナザリータさんがね、女の子の幽霊が泣いているって気味悪がっているから、どうしてそうなのか理由を教えてほしいの」

 彼女は四条トモミの名を出して、客観的な理解をナザリベスに求めた。


「ナザリータさんって?」

「ほら、この山荘には新しくメイドさんが働いているでしょ」

「……メイドさん?」





 続く


 この物語は、フィクションです。




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