第二章 ナザリベスシリーズの本質

第17話 ナザリベスとナザリータ


「お兄ちゃん、おめでとう!」

「トケルンさん、おめでとう!」


「何だ?」


 目の前に二人いる。

 左側にはナザリベスがいた。

 右側の見た目が20歳過ぎの……この女性は誰なんだろう?


「お兄ちゃんおめでとう。ようやく死ぬことができたね。そんでもって地獄じゃなくって、ここに来ることができたんだね」

 ここってどこなんだ。自分は辺りをキョロキョロと見回した。


「ここは、もっちろん! 天国だってば!」


「……ああ。俺は死んだんだ」

「そうだよ、お兄ちゃん。おめでとう」

「全然、めでたくないだろが!」


「お兄ちゃんは言ってたじゃない。自分はもう十分に生きたって……。ずっと覚悟を決めて、今日まで生きてきてそして死んじゃった」


「ところで、お前の隣にいるその女性は誰なんだ?」

「お兄ちゃん、謎々だよ。さて、この女性は誰でしょうか?」

「わかるか!」


「んじゃあ! ヒントを出すからね。ヒントはメイドだよ」

「ふふっ! ナザリベスちゃん、そのヒントは簡単すぎない?」

 その女性は、ナザリベスを見つめて微笑んだ。


 しばらく、トケルンは考える……。


 そして――、

「ああ、そうなのですね。あなたは四条トモミさん。つまりナザリータさんなのでしょう」

「お兄ちゃん、せいかーい! この人は大人のあたしだよ」


「ふふっ! あたしの子どもの頃のあたしってこんなんだったのですね」と、ナザリータさんが言った。

「えへへ! あたしって可愛かったでしょう。まあ当然ね」と、ナザリベスがそう言うと。


「あたしだって、大人になっても可愛いですよ」と、ナザリータさんが言ったら、「それって、子どもの頃のあたしが、可愛さを維持し続けたおかげだよ」とナザリベスが言う。


 ナザリータさん!

 相変わらず、あたしだね。


 ナザリベスちゃん!

 あたしって、よーく見るとあたしよりも可愛いですね。


 お兄ちゃん!

 トケルンさん!


 あたしのあたしと、大人のあたしと、どちらが可愛いと思う?


 ねえ、お兄ちゃん!

 ねえ、トケルンさん!




       *




「あたし、言いたいことがあるからお兄ちゃんの前に、こうして現れたんだよ」

「はい、そうですよ。トケルンさん。私もあなたに言いたいことがあるので、こうしてあなたの前に姿を見せました」


「だから、何が言いたいんだ? もういいじゃないか、俺は死んで天国まで来て」


「まだ、来てないよーお兄ちゃん」

「はい、トケルンさん。まだ、天国には来ていません」


「それって、どういうこと?」


 あなた、まだ生きてるじゃない――


「お兄ちゃん……」

「トケルンさん……」

 そして、二人一緒にこんなことを言いました。


「「あなたは最後の魔女にされた結果、あまりにも多くの死んだ人たちを知りすぎて、自暴自棄になってしまっている。自分のせいで、みんなが死んでしまったんだと……。あなたは、その重荷に耐えられなくなって、もう自分なんていなければっていう気持ちに陥った――」」


「トケルンさん、それは違います! あなたがどれだけ身を削って皆の内何人かを救っても、その結果お兄ちゃんが死んでしまったとしても、それは本当の解決と言えるのでしょうか?」

「言えないね!」

「トケルンさん、自暴自棄の気持ちを越えるにはね……」


 生きようとする意志が大切なんだよ。




       *





「トケルンさん、子どもの頃の骨折や捻挫が、実は無意識による反応の結果だった」

「あれは、自分が足を滑らして……」

「お兄ちゃんは田舎に引っ越したけど、あの幼稚園には行きたくなかった。無意識が幼稚園を否定した」


「「あなたの一生は無意識がすべてを決定していて、脳が勝手に反応してあなたを動かしています」」



 泣いたらあかん――

 

 トケルン、また来てね――



「もんだーい。お兄ちゃんは、どうして死ねなかったのでしょうか?」


 分からない。


「お兄ちゃんは、自分が死ぬべきだって思っていて、自分はこういう人生だったんだって諦めているんでしょう」

「それは違いますよ、トケルンさん」


「じゃあはっきりというね、お兄ちゃん」

「あたしも言いますよ、トケルンさん」



「「お兄ちゃんは、すごく頑張ったんだからね!」」



 トケルンさん――


 人を生かす前に、自分が生きることを考えてくださいね――





 終わり


 この物語は、フィクションです。






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