第15話 メイド……だったっけ?


 瑞槍邸みずやりていに到着し、玄関に並んで立つ二人。

 

 すると、杉原ムツキが――、

「……ナザリベスに、あんなこと言ってしまって」

 三途の川でナザリベスと謎々対決をした記憶を思い出しながら、

「幽霊からすれば、余計な説教だったろうな……」

 何でも解けるトケルンとしての、ある意味思い上がりの発言を反省するのだった。


「えっ、何か言った? トケルン」

 横に立つ深田池マリサのベルを押す手が止まる。

「なんでもないって、チウネル」

 素っ気ない返事をする彼に「……あらそう」と、こちらも愛想の無い言葉を返す深田池マリサだ。


 ピンポーン!


 まあ、いつもの彼のことだから問題ないか。

 あまり気にすることもなく、深田池マリサが瑞槍邸のチャイムを押した。




       *




「……あれ、出ないね?」

 けれど、音沙汰が無い。

 玄関から瑞槍邸の庭をキョロキョロと見渡してみる。

 チャイムを鳴らしているのに出ないのだから、もしかしたら庭に主人――エルサスさんがいて、訪問客に気がついてヒョッコリと腰を上げるはずである。

「いないみたい」

 けれど、庭にもいない様子である。

 

「確か、メイド……だったっけ? 出迎えてくれるはずだったろ?」

「うん。そうだよね?」


「……」

 杉原ムツキは、しばらく無言になる。

「何で出ないんだ?」

 刹那、キレ気味な口調でぼやき始めてしまい。まゆをピクリと引きらせた。


「もう! トケルンって短気過ぎるでしょ! すぐに怒らないでよ」

 深田池マリサが、彼に憐れむ表情を見せる。


「やっぱり、瑞槍邸って大きいね――」

 ぐるりと首を回しながら、深田池マリサが瑞槍邸のたたずまいを観賞した。


「確か、2階建てで地下1階だったっけ? トケルン?」

「ああ、玄関奥に広間があって、螺旋状の階段があって……2階にナザリベスの寝室。1階は大食堂。その奥にエルサスさんの書斎だったはずだ」

「……よく覚えてるね」

「俺ら去年も来ただろ?」

 偶然この山荘に辿り着いて、再び一年が経つ――。

 いかにもゲームに登場する舞台のような瑞槍邸を、RPG好きの杉原ムツキが簡単に忘れるはずはない。


「カナッチのやつ、『私はナザリベスのお墓に先に行きたいから、じゃあ……よろしく』って手を振って別行動って」

 なんだか郷帰りの気分なのか……と、佐倉川カナンを思い出す。

「いいじゃない、カナッチは私がお願いして付き添ってくれているんだから」

「……それ、チウネルのわがままだろ? 俺との二人旅を嫌って」

 横目で彼女に冷めた視線を再び当てた。


 その彼の目をチラ見してから、深田池マリサが「はい、そうですよ」と開き直る。


 彼女のその態度に、杉原ムツキがムカついた様子に……。

「っていうより、チウネル! もう一度チャイムを押してみろって。あの無人駅からこの山奥の山荘まで、車でも大変な距離なのに……すぐに出ろよな!」

 怒りの矛先を瑞槍邸のメイドに向けてしまった、短気な男子である。


「もう! トケルンさん」

 こいつ頭はいいんだけれど、ほんと性格最低で短気なもんだから。

 ダメだこりゃ……と、佐倉川カナンが首を大きく振ってしまう。

「じゃあ……私、もう1回押すからね」


 ピンポーン!


「出ない……なぁ?」

「必ずいるんだから、少し落ち着きなさいって……トケルンさん」



 チウネル、もう一度押してみろ! ……と、イライラしている杉原ムツキに、深田池マリサが「トケルンさん。私たち呼ばれて来たんだから、もうすぐメイドさんがこの玄関を開けて出迎えてくれるって」と、彼を落ち着かせようとする。

 すると彼……「呼んでおいて出迎えていないって、それ自体が失礼だろ?」と更にイラついてくるのだった。

 呆れたのは深田池マリサである。

 トケルンって頭はいいのに、人としてはダメだ……と彼を軽蔑する。


 二人のやり取りがしばらく続いているとき――、

「……遅くなり申し訳ございません。失礼いたしました。応接間の準備に手間取っていましたので」

 扉の向こうから女性の声が聞こえてきた。


 ガチャ……


 瑞槍邸の扉が開くと、玄関から現れたのは――、

「深田池マリサさまと杉原ムツキさまですね。お待ちしておりました」

 メイドさんだ……。

 おもわず声を出してしまうくらい、メイド服の定番――黒のドレスにフリルの付いた白いエプロン姿とカチューシャ。

 背中まで伸びるストレートのロングヘアーは金髪で、私はメイドです……という堂々と直立している女性、



 ――四条しじょうトモミさん。





 続く


 この物語は、フィクションです。



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