第三章 大人の幽霊ナザリータ?
第23話 幽霊騒動の依頼内容
杉原ムツキが改めて、
「エルサスさんは、どうしてメイドを雇ったんだろうって……気になってて。俺たちがここに来た頃は、エルサスさんが一人で暮らしていたんだし……」
「トケルン、寂しくなったから……かな?」
「チウネル……そんな理由でメイドを雇うか?」
寂しいからメイドを
そんなんだから、大学の成績が下位なのだろう。
「違います……」
四条トモミが小さく首を振る。
「ご主人さまは、この瑞槍邸を売り払おうとお考えになっているようです」
「売り払う? ……ということは、引っ越すってことですか?」
唐突な発表に驚きを隠せない杉原ムツキだった。
「そのようで……」
「そうなんだ……。なんか、寂しいな……」
これは初耳、深田池マリサも驚きを隠せない。
ナザリベスと2度も謎々対決を繰り広げた、ここ瑞槍邸――。
何とも言えない郷愁と愛着を感じて懐かしい里帰りの気持ちになれる山荘を、売りに出すと聞かされたら……そう思うのも無理はない。
四条トモミが話を続ける――、
「岡山県N市の都市部――特急が停車する駅の辺りに引っ越されるようです。その手続きとか準備とかが……お仕事と重なって、この屋敷を留守にすることが多くなりましたから……」
エルサスさんの引っ越し先が都市部であることを二人に教えた。
「それで、メイドさんを……」
「エルサスさんだけで全部やり繰りするのは、大変だよね……」
納得した杉原ムツキと深田池マリサであった。
「トケルンさん、この山荘って……かなり広いから荷物とか多そうだね……」
深田池マリサが応接間を見渡す。
来客用の部屋であるから、
中央には、テーブルを挟んでソファーが二つ向かい合っている。
壁に掛けられているのは、高いのかそうでないのか分からないけれど……上品な絵画が飾られている。
「無人駅からかなり山奥にあるお屋敷ですから……、なかなか買い手が見つからないようで」
一年と数か月務めた、思い出の詰まった瑞槍邸だからだろう――、
「だからといって取り壊すことは……なるべくしたくないと……」
四条トモミも感慨深くなってしまったのか、俯いてしまう。
――それから、四条トモミの話ではナザリベスのお墓は、天神社の奥の墓場のままにしておくということだ。
引っ越し先からはある程度遠くになるけれど、幸い瑞槍邸の近くには妹夫婦の一軒家があるから娘は寂しくないだろうという判断だという。
お墓を移築するのも、経費と手間で難しいという理由もあると付け足した。
*
憂いた四条トモミを気にした杉原ムツキが、
「あの、四条トモミさん。……俺たち教授から瑞槍邸に幽霊が出たって聞いて」
本題を思い出させようと話し掛けた。
本人もついうっかりと忘れてしまっていた様子で――、
「そうそう、ご依頼の件を話さなければいけませんね!」
寂しそうな表情を一変させて、背筋を伸ばして姿勢を正す。
「幽霊って、やっぱりナザリベ……」
「こら、チウネル!」
杉原ムツキから、お返しか? 深田池マリサの腕を軽く肘で突いた。
「あっ、そうか! わわっ……」
エルサスさんの亡くなった一人娘が幽霊に……なんて、瑞槍邸に努めているメイドの四条トモミさんの目前で言うものじゃない。
感付いた深田池マリサが、慌てて口を覆う……。
四条トモミも彼女の気遣いを理解したのか、小さく微笑んでから、
「幽霊だと思うのですが……この応接間の奥の部屋と、そこから2階に通じる階段を上がったそれぞれの部屋で、ご主人さまが女の子の泣き声が聞こえると……」
以来の件――幽霊騒動の依頼内容を具体的に話し始めた。
「泣き声ですか? 怖いですね……」
「チウネルよ、泣き声くらいで怯えるなって……」
隣で肩を震わせていることに気が付いた杉原ムツキが呆れる。
「ご主人さまは……まさかだろうと前提をつけてから、亡くなった娘が現れたのではと……」
エルサスさんも、その女の子の正体が自分の亡くなった娘ではないかと考えていることを、四条トモミは教えてくれた。
「つまり、ナザリベスの幽霊が……」
深田池マリサが単刀直入にそのニックネームを口にした。
「ええ……」
大きく頷いた四条トモミ――。
「ご主人さまも、この奥の部屋と2階の部屋に行くことは滅多にありませんので、大変驚かれたようでした」
「奥の部屋って何があるんですか?」
応接室の
「奥の部屋は大広間でして……ご主人さまによれば、かつては岡山県N市に住む知人友人を招いて――」
パーティーなどを行っていたと聞かされたが、今では物置のように大広間のあちこちに荷物を置いているという。
「2階には……あたしも入ったことがございませんので、何があるかはわかりません」
首を大きく振りながら、女の子の幽霊の説明を加えた。
「迷子の女の子が入り込んだのではと……あたしはご主人さまに伺いましたが、ご主人さまは『大広間は、いつも鍵は掛けてなくて、よく出入りするのでわからないが、2階の部屋はすべて鍵は掛かっていたから、それはないだろう』と……」
つまり、大広間を除くそれぞれの部屋は、すべて密室状態でだったいう。
「……トケルン、どう思う」
あんた何でも解けるんだから――横から彼の顔を覗き込むように深田池マリサが尋ねてくる。
「ねえって……」
彼女は恐怖のためか? 扉の向こうに気を引かれている彼に、シャツの袖を引っ張って座らせようとする。
いち早く、幽霊騒動を解決したいと願うはチウネルである。
今回のお仕置き旅は、ちょっと怖いぞ……。
続く
この物語は、フィクションです。
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