第28話 えっ! この謎々にまだ続きがあるの?


「チウネルさん! トケルンさん! 何処にいるの~」

「あ、カナッチの声だ!」


 応接間に通じる扉の辺りから、佐倉川カナンが自分たちを呼んでいる。


「お二人、この大広間で迷子になっていませんか?」

 四条トモミも心配そうに自分たち呼んでいる。


「ナザリータさんもいるな」

「カナッチ、私たちは……たぶん迷子にはなってないよ。私は今大広間の左上の角にいるよ」

「俺は、さっきからずっと中央だ」

「お二人、そこを動かないでください……あたしが、参りますので!」

 瑞槍邸に1年以上メイドとして勤めている四条トモミであるから、この大広間の迷路のような物置状態も何処に何があるのか?

 どう歩けばいいか……などの手順は慣れたものなのだろう。


「メイドのお姉ちゃんだ~」


 そこへ、ひょいと姿……いな、声を発したのがナザリベスだった。

「ナザリベス……ちゃん?」

 四条トモミが聞きなれない女の子の声を聞いて驚く。

「あの声、チウネルさん……じゃないですよね?」

 大声を出して、深田池マリサに確認を取った。

「え、ええ……ナザリベスちゃんですよ」

 迷い隠さずに、彼女が断言――。


「女の子の幽霊ですよね……。ご主人さまが心配していた通り、やはり亡くなった一人娘が現れたのですね……」

「そうです。ナザリータさん。俺たちは、そのエルサスさんの亡くなった一人娘のナザリベスを探しているところです」

 杉原ムツキも断言して伝える――。




       *




「ひ、ひとまず皆さん応接間に集まりましょう。あたしが探しに参りますので、そこを動かないでください」

 女の子の幽霊が出現した――ビックリくりくりの四条トモミ。

 驚きを隠さず、ひたいからにじみ出ている汗をハンカチで拭うこともせず、なんとか冷静さを取り戻して捜索している二人を心配した。

「チウネルさん! 私は応接間にいるから早く戻って合流しましょう」

 佐倉川カナンも同じく……杉原ムツキには声を掛けていないけれど。


「そうだね……そうしよう! ねえ、トケルンさん!」

 大声を出して段ボールの向こうの彼に尋ねた。

「チウネルよ、ナザリベスはどうするんだ? 捜さないのか?」

「捜すも何も、声は聞こえるけど……」

「姿は何処へやら……だな」

 杉原ムツキが大きく溜息をついてから、しばし現状打開案を考え始めた。


 手分けして捜すより、全員集まって移動しながら捜すほうが安全でいいか……と。

 そこへ――、


「お兄ちゃん! 謎々だよ~」


 ナザリベスの声が聞こえてきた。

「……ナザリベス、この状況で謎々を出すのか?」

 皆に心配されていることも気にしていない様子に、杉原ムツキがまた溜息をつく。

「うん、出すよ~」

「まるで、マッピーの面クリアーに時間が掛かって、ご先祖さまが現れてしまった……だな」

「トケルンさん、ご先祖さまって?」

 大広間の左端から聞こえてきたのは、深田池マリサの質問だ。

「ファミコンの話だって!」


「チウネルさん! マッピーのご先祖さまってのはね、重力に関係なく自在に移動してくる敵キャラのことよ」

 続いて応接間に通じる扉から、佐倉川カナンが説明を加えてくる。

「……あの、佐倉川カナンさま? それに皆さま……。この状況でゲームの話ですか?」

 彼女の隣に立っているメイドの四条トモミが、困惑を隠しきれない。

 彼女が心配しているのはトケルンとチウネルの生存である……と言ったら大げさになる。


「四条トモミさん、私のことはカナッチと呼んでください。私もナザリータさんって呼びますか……ら……あはは!」

「そ、そうですか、ではカナッチさんと……あの、いい加減大笑いするのは控えてもらいませんか?」

「あははは……、すみません」


 ちょっと笑い過ぎてしまったと思い、カナッチが口を閉じた。




       *




「お兄ちゃんに問題! あたしの幽霊騒動って、まるで怪談話! な~んだ!」

「ナザリベス……お前ってやつは」

 本当に謎々を出してきたな……と、杉原ムツキが呆れてしまった。


「えっ! ナザリベスちゃん……それが謎々なの?」

 ここで、チウネルのお約束――。

 必ず出てくる、この驚きの言葉である。


「いいさ! 俺が答えてやる!」

「あっ、トケルンさん! 今、私のとこにナザリータさんが来たよ」

 四条トモミが心配そうな表情で「大丈夫でしたか?」と深田池マリサの手を握る。

 メイドとして、客人に万が一にも怪我されたら一大事である。

 それから、彼女が大声で――、

「トケルンさん。あたしが中央まで行きますから、動かないでください」

 今度はもう一人の遭難者……遭難はしていないけれど、杉原ムツキに大声を出して伝える。


 返ってきた返事は、

「俺は大丈夫です、ナザリータさん!」

 自分がメイドに心配されていることも気に掛けず、

「ナザリベス! お前はこれから奥の扉を開けて、怪談だけに……階段を上り2階に向かおうとしている……これが答えた」

 杉原ムツキがナザリベスの謎々を受けて立つ始末だ……。


「それは、どうしてかな~?」

 出現して驚かれていることも忘れているのは、ナザリベスである。


「えっ! この謎々にまだ続きがあるの?」

 またまた、チウネルのお約束が出る――。


「あの……お二人何の話を?」

 トケルンとチウネルの噛み合った……会話についていけない四条トモミ。

「トケルンさんも……戻って来なって!」

 カナッチが彼を説得しても――、

「女の子の幽霊――ナザリベスにとって大切なものが、2階の部屋にあるからだ!」

 気にせずに、続きの謎々を解答した。


「お兄ちゃん、せいかーい!」


 ガチャ!


「奥の扉が……開いた音ですね」

 メイドの四条トモミには聞きなれている音だからだろう、すぐに気が付いた。


「チウネル、カナッチ! ナザリータさん! 俺はナザリベスを負って奥の階段から2階の部屋へ向かうから」

「ト、トケルンさん? でも、その部屋って鍵がかかっていて密室なんじゃ」

 応接間で四条トモミから教えてもらった話を、彼女は思い出した。

「とにかく行ってみる!」


 だから、鍵がかかってるんや……。


 杉原ムツキは急ぎ足で大広間の迷路を迷わずに……、大広間の奥へと向かっていく。

 どうやってか? ナザリベスが開けてくれた扉に辿り着くと、そのまま一気に階段を駆け上っていった。


 彼の足音が、次第に小さくなっていく。

「もう、トケルンさんってば!」と、彼の単独行動を嘆いたのが深田池マリサで、「トケルン……あいつは」と怒りモードに切り替わってしまったのが佐倉川カナン。


 客人の一人に文字通り「ついていけない……」と、それどころではなく「あの、あたしがご主人ささまに叱られますので……」と、ちょっとだけ転職という言葉が脳裏に過った四条トモミ――ナザリータだった。



 ナザリベスの大切なものとは?

 四条トモミは、ナザリベスの大人ヴァージョンの幽霊じゃなかったんだ……。


 ……って、どゆこと?





 続く


 この物語は、フィクションです。





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