第26話 じゃじゃーん! あたしは嘘しかつかなーい!


「トケルンさん……やっぱしだったね」

 深田池マリサ、何故かここでドヤ顔になる。

「ああ、チウネルよ。出たな……」

 瑞槍邸で女の子の幽霊とくれば、おおかた誰なのかは想像できる。

 杉原ムツキは彼女とは対照的に、やれやれといった呆れ顔。


「お兄ちゃんとお姉ちゃん、お久しぶりだね!」

 大広間の扉から顔をのぞかせているのは――、

「ナザリベス……瑞槍邸に女の子の幽霊か」

「ナザリベスちゃん……去年の墓参り以来だね」


 そう、ナザリベスである。


「無人駅であたしが姿を見せたのが最後だったね」

 ナザリベス――本名を田中トモミ。

 旧姓は佐倉トモミ。

 どうしてそうなのかは、本編を読んでもらえればありがたい。


「こんなことだろうと思ってたけど……」

「私も……。よほど瑞槍邸に未練があるのかな?」

 ソファーの上で二人が顔を見合わせていると、

「未練なんてないよ~お姉ちゃん」

 と、ナザリベスから否定されてしまう。


「いやいや、それじゃあ……何で幽霊として現れるんだ?」

 現世に未練があるから、幽霊として出現する。

 これ、幽霊のセオリーだろうと杉原ムツキは考える。


 そこへ――、

「じゃじゃーん! あたしは嘘しかつかなーい!」

 ナザリベスのお約束の口癖が出た。

 自己言及のパラドックスによる自分は嘘をついている……いないの矛盾した言葉。

「……ああ、そうだったわね」

 懐かしい決めゼリフを聞けても、嬉しい気持ちにはなれない深田池マリサ。

 女の子に言いくるめられてしまったことに、情けなさを感じたからだ。


「んじゃ、あたしはこれで……ばいちゃ!」


 どうしてアラレ語を知っている、そして言う?

 手を振っているナザリベスが大広間へと向かっていく。

「ち、ちょっと、ナザリベスちゃん?」

「相変わらず、自分勝手な女の子の幽霊だな……」

 肩を竦めてしまった杉原ムツキである。


「どうする? トケルンさん」

 深田池マリサが彼の疲れた顔を覗き込む。

「……このまま、四条トモミさんに『やっぱり女の子の幽霊の正体はナザリベスでした』って報告して東京に帰るか?」

「でも、それじゃ……幽霊騒動の解決になっていないんじゃない?」

 という、彼女の問題提起に杉原ムツキはというと――、

「それもそうだな……。問題はどうしてナザリベスが再び出現したのか……ってか?」

 頭をかいて依頼を解決するための問題文を整理してみた。


「じゃじゃーん! ……の前に、未練があるから……って」

「言ってたな……。嘘の裏返しという意味でだけど」


 ――大広間の扉は開いたままだ。

 応接間から遠目に中を見ても、暗くてよく見えない。


「まあ、手っ取り早いナザリベスに『どうして再び現れたんだ?』って直接聞くのが早いだろうな」

「それって、なんだか……イタコの口寄せの具現化だね」

 日本文化遺産に匹敵するだろう、東北は恐山おそれざんの名物……失礼。

 文化的価値がある信仰行事を例に挙げる。

「今時、イタコって……よく知ってたな。俺たち直接聞けるんだから、聞けばいいんじゃね?」


 杉原ムツキからの提案に、「そうだね……」と、深田池マリサが納得した。

 彼女の同意も得られたということで、「じゃあ、入るか」と彼がソファーから腰を上げる。


「ちょっと……トケルンさん! カナッチを待たないの?」

 今頃玄関の中でメイドの四条トモミと会っている頃だろう、佐倉川カナンを思い出す。

「ああ、そうだった……。って、待つも何も、カナッチが別行動でナザリベスの墓参りに行ったんだから」

 俺たちも自由行動でいいんじゃね?

「もう、そんなこと言わないでよ。カナッチのことだから……何か意味があってかもしれないよ」

 自分を見上げてそんなことを言うもんだから、

「どんな意味だ?」

 と、杉原ムツキが尋ねても、

「さ、さあ……」

 ノープランの深田池マリサだった。


 でも、佐倉川カナンを待ってからでも遅くはないだろうと、杉原ムツキが行くか待つかを立ったまま考える。

 しばらくして――、

「俺は大広間に行くぞ……。チウネルはどうする?」

 何でも解ける男――トケルンの解答は友情よりも問題解決のようだ。

「私も……早くナザリベスちゃんに会いたいかなって」

「チウネルって、まるで親戚の子どもに会うみたいに嬉しそうだな」

「そんなんじゃ……ないよ」

 彼女のおかけで大学4年生になれたことを忘れ、深田池マリサは女児を選ぶのか……。


「応接間の向こうが大広間なんだから、このまま扉を開けて行けばナザリータさんも気が付くだろ?」

「でも、勝手に大広間に入ったら怒られないかな?」

 ここはひとまず依頼主――エルサスさんの名代、メイドの四条トモミに話をつけていたほうがいいだろうと、彼に意見する。

「幽霊騒動の依頼は引き受けたんだから……早速調査開始していますって弁解できるだろ」

「あ、そっか……」

 それも刹那引っ込める。

 彼女にとっては、ナザリベスと再会できたことが最優先事項なのだろう。


 深田池マリサもソファーから立ち上がる。


「おい、チウネル? その足元のリュックはどうするんだ?」

 杉原ムツキが気にしたのは彼女の足元に置いているリュック、「応接間に置いておくのもどうなんだろうな……」と彼が心配を語ると、

「も、勿論持っていくよ……重いけど」

 深田池マリサが「よっこいせっ……」と背負った。

「それ、教授からエルサスさんへ何かを渡す物が入っていたっけ?」

「うん、中は確認していないけれどね……」

 東京から岡山県N市まで電車で数時間、中を確認する時間はあっただろう。


「じゃ、行くか! 大広間に……」

「トケルンさん、行きましょう!」





 続く


 この物語は、フィクションです。




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