第30話 メイドのお姉ちゃん!
「部屋の奥に見える廊下を曲がると、トケルンさんがいる部屋の廊下へと通じています」
「ああ、あれね!」
早速、佐倉川カナンが急ぎ足になった。
「ちょっと、カナッチって」
「トケルンめ! 女子三人をコケにしやがった罪は重いからね」
すでに怒りモードに入ってしまっている彼女に、
「ま、待ってよ……」
深田池マリサも彼女を追い掛けて急ぎ足になる。
「……あの、あたしを置いていかないでくれませんか?」
自由行動すぎる客人に、あたふたと慌てる四条トモミだった。
メイドは「女子三人って、あたしもですか?」と、そこに疑問を感じながら……。
*
「いた! トケルン」
更に佐倉川カナンが急ぎ足になる。
「トケルンさん、あんたって人は!」
同じく深田池マリサもである。
「カナッチさんとチウネルさん……落ち着いてください」
メイド服のスカートをたくし上げて、四条トモミも速足で駆けていく。
「ああ、チウネル! それに、カナッチも来たんだな」
悪びれた様子はちっともない杉原ムツキ――。
「何が来たんだな……だ。あんた、どれだけ皆に心配を掛けたら気がすむの?」
「そうよ、トケルン! いくら捜索中だからって、ナザリータさんの言うこと聞かなきゃいけないでしょ」
「……まあ、普通はそうだな」
普通は……って。
「トケルン……」
ここで一発、拳を腹にぶち込んで「どついたろか!」を、お見舞いしようと思っていたチウネルだったけれど、トケルンの言い草に拍子抜けしたのか、一気に怒りが消えてしまう。
「トケルンさん、ご無事でしたか?」
「ナザリータさん、俺は問題ないですよ。問題を出してきているのはナザリベスです」
「ナザリベスちゃんが……問題をですか?」
両目で瞬きを数回して、四条トモミが彼の言葉の意味に不思議に感じた。
「トケルン、どういうこと?」
深田池マリサが彼女に代わって尋ねると、
「俺はナザリベスを追ってここまできたけど、この部屋の中に入っていったんだ」
杉原ムツキが自分の目の前の部屋のドアを指差した。
「この部屋に?」
2階の奥の廊下には、いくつか部屋がある。
彼の向こう側の廊下には、1階の大広間に通じている階段が見えた。
ナザリベスの部屋とその階段と、ちょうど中間地点にある部屋に女の子の幽霊は入っていったことになる。
「……まあ、幽霊だから当然入れるわよね」
理数系の頭脳の持ち主である佐倉川カナンが、そう結論した。
どういうロジックで幽霊を定義付けているのかは、彼女にしか分からない。
「俺も入れるかなって思って――」
ドアノブをガチャガチャ回す杉原ムツキが「……な、これだ」と施錠されていることを皆に見せた。
「あっ! ナザリータさん、鍵!」
ここで深田池マリサが思い出す。
「……この中に、ナザリベスちゃんがいるのですね」
「いると思いますよ、ナザリータさん」
四条トモミは「トケルンさん、入りますか?」と彼に確認をとると、「当然です! そのために東京から……」遠路はるばるやってきた気持ちを依頼主側のメイドに伝えた。
「開けますよ……」
四条トモミがドアの鍵穴に鍵を挿し込んだ。
ガチャと音が鳴ったことを確認して「……あ、開きました」と杉原ムツキの顔を見る。
「あ、開けます……か?」
少し怯えた声で彼に確認を取る。
「ナザリータさん、大丈夫ですって」
彼女の気持ちに気がついた杉原ムツキが「ナザリータさんが今思っているような、亡霊の
「はあ……。では」
彼のアドバイスに安心したのか、大きく息を吸って四条トモミがドアノブを回した。
ドアは……普通に開いた。
中から、RPGの定番――怨霊やモンスターとバトルする……ことも全くなかった。
*
先陣、杉原ムツキが部屋へと入っていく。
「トケルンさん、私も入るね」
続いて、深田池マリサ――。
「私も……」
と、佐倉川カナンも彼女の後から入っていった。
「あ、あたしは……廊下で待っています」
やはり、女の子の幽霊を目撃することに
ご主人さまの一人娘は写真で拝見させてもらったけれど、実際にその姿を生き写しのように出会っていいものだろうか?
怖いという気持ちもあるのだけれど、どちらかというと……知らないほうがいい。
「……待ってますから」
閉まった扉に向けて、廊下に一人いる四条トモミ――。
そこへ――
「メイドのお姉ちゃん!」
「えっ?」
その声――確か大広間で聞こえたのと同じ女の子の幽霊の声。
驚く四条トモミが辺りを見回した。
「ここだよ!」
四条トモミが、声がする方へ身体を向ける。
「……あなた?」
自分やチウネルたちが急ぎ足で歩いてきた廊下の向こう、つまりナザリベスの部屋に通じる方向に女の子が立っていた。
「……ナザリベスちゃん?」
声が同じで、容姿は女の子……更には金髪の姿が揃うと出てくる解答は一つしかなかった。
「あたし、ナザリベスだよ……」
スカートを指で
ナザリベス――田中トモミが姿を現した。
「トケルンさんの目撃談では……この部屋の中に入っていったと」
「うん、一度入ったけど……すぐに出ちゃったんだ」
「どうして……?」
四条トモミの頭が混乱してくる。
続く
この物語は、フィクションです。
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