第9話 「じゃじゃ~ん!!」
チウネルには何となくですが、そんな予感がするのです。
そういえば、最初に出会ったのは――
「ええ~! 彼と一緒に行かなければいけないんですか?」
教授から「乙女1人じゃなんだろう」ってことで、トケルンと一緒に行きなさいってアドバイスされました。
トケルンは、私の隣で私と同じように直立しています。
行った場所というのは、山奥の杉の山道をず~と登ったところです。
夕暮れ近くだったので、太陽も山影に隠れていて、かなり薄暗くシ~ンと静まっていました。
その山荘がですね……。
まあ本当に大きくてビックリくりくり、古風な洋風建築でした!
ほんとにRPGやサウンドノベル、ホラー映画や推理小説に出てくるような、
*
「みずやりてい……って読むんだ」
私がカードを見ながら呟くと、
「あっ! 俺、住所を間違えた」
トケルンが私の持っている紙を横から覗き込んで、彼がボソッとそう呟いたんです。
(その時の私の気持ち、こいつドツイタロカです!)
「ちょっと! 無人駅からここまでリュックにこんな重い荷物を背負って歩いてきて、どーするんですか?」
私、怒りました!
でも彼って、私のほうを見ようとしません。
彼は逆切れしているみたいで、表情をムスッとさせていました。
(ほんとにドツイタロカです!)
せっかくの東京からの遠出だった私だから、ワンピースでおめかしして着てきたのだけれど……。
それと似合わない大きくて重いリュックを背負っているのは、これ教授からの指令――お使いという名の指令です。
「だから言ったでしょ! あのブルドーザーが駐車していた分かれ道を私は右だって、でも、トケルンが左だろって! 私、てっきりトケルンが住所を知っていて、だから左の道の方が正しいって私も思ってしまい……もう!」
私、いつも彼にこんなふうに振り回されるんです……。
別に、
この前の文学の論説のレポートの宿題を少し見させてもらったときも、すごく論理的で、それでいて面白くて、そういう視点から私、彼の判断を信じたんですよ。
「今から戻ると……こんな山道、真っ暗ですよ。懐中電灯も持ってきてないですし。どーするんですか?」
彼、ず~っと夕暮れの空を見上げて黄昏ていて……。
「ちょっとトケルン! 責任とってよ!」
パッとしない地味なTシャツに、七分丈のズボン。
頭は良いのに、どうしてファッションセンスは落第点なんだ?
雑草の花よりも地味な男子って……はぁ。
(ドツイタロカ……です)
私も最初は怒っていたけれど、もう夜になろうとしていて腹立たしさを過ぎて、なんか……なんでこんな結果になったのかなって?
あの分かれ道で、ちゃんとトケルンと話し合っていれば……とか、いろんなことを思い出していました。
しばらくの間、その
*
突然、電話が掛かってきたんです!
非通知が気になったんですけれどね。
もしかして教授が私たちのことを心配して電話を掛けてきたのかもって思って、私はその電話に出ました。
そしたら――、
「もしも~し、遊ぼうよ~。ねぇ、謎々して遊ぼうよ~」
どう聞いても、小さな女の子の声でした。
*
入ると、玄関はホテルのロビーのような、広いホールになっていました。
とても広くて天井が高くて、ずっと上の天井のシャンデリアには、ロウソクよりは明るいオレンジ色の照明が光っていました。
左側には2階へ上がるための階段があって、その階段がホールをぐるっと囲むように螺旋状になっていて。
また、右側を見ると壁の柱のところにある置時計がありました。
エレベーターを降りて地下へ、最初は少し怖かった私も倉庫に入っていくトケルンの後ろ姿を見ていて、その彼の勢いに……なんだか私は怖さを忘れていました。
私も彼に続いて倉庫へ入りました。
すると――、
「じゃじゃ~ん!!」
――その声は、電話越しの声と同じでした。
倉庫の中はダンボールや木箱があちこちに積み重なっていて、すぐ隣の開いている木箱の中には、ワインボトルが数本横になっていました。
その中の目の前の木箱の一番上に、倉庫の中を照らす唯一の電灯を頭の真上から浴びて、一人の女の子が座っています。
トケルンと私を見て、両足をバタバタ木箱に当てながら嬉しそうに
「じゃじゃ~ん!!」
*
その写真には三人。
大人の男性と大人の女性、そして女の子――。
――女の子、ナザリベスと同じ顔をしていました。
「これ、家族写真だよね」
写真の三人は家族なんだと、チウネルは直感します。
その時、笑い声が聞こえてきました。
クスクスッ クスクスッ
笑い声はナザリベスでした。
「どこ? ねえ? ちょっと何処なのよ?」
「こっこだよ~お姉ちゃん! お兄ちゃん!」
ナザリベスの声が聞こえたのはホールの上から――。
ホールの上にある二階の階段横の柱に隠れて、こっちを見て笑っていました。
*
「あははっ! もうこれくらいでいいや~。あたし、楽しかったよ~! あたし、お兄ちゃんに出会えて嬉しかったよ~! じゃあ~、ばいば~いだよ~!」
ナザリベスは右手を大きく振ってから……、
ふわわ~ん
「うそ……」
私は唖然で圧巻です。
とにかく凄い霊現象でした!
「ナザリベス……浮いちゃった」
なんと、ナザリベスが天井近くまで宙に浮いたのですよ!
ほんとです!
浮いたんですよ!
「……」
でも、
それはそれで、とても驚いたのですが、
それより、私はナザリベスが言った言葉に疑問というか、違和感に気がつきました。
「嘘!」
チウネルは思わず、大きな声を出してしまいました。
すかさず、直感的に、ナザリベスの左手を掴みます。
「ねぇ……ナザリベスちゃん? 本当は
私、率直に聞きました。
「寂しくないよ~。お姉ちゃん……」
ナザリベスは、首を大きく振って否定しました。
「じゃあなんで、自分のチャームポイントは『ウソしかつかないこと』って、わざわざ言ったのよ?」
「……」
空中に浮いていた身体をベッドの上に着地させると、ナザリベスは俯いてしまいました。
「なんで楽しかった、嬉しかったって過去形なの? 私たちは出会ったばかりじゃない? 本当だったら、あたし出会えて楽しい~、嬉しい~でしょ? その後に、じゃあ今日はバイバイって……続くはずでしょ?」
チウネルは、大学の学業成績は……まあまあなんだけれど、国語――それも文学にだけは自信があります。
登場人物の心情を、言葉のちょっとした言い回しから感じ取ることができます!
「……あはは。バレちゃったね。すご~い! お姉ちゃん、すご~い!! これ、あたしにも気がつかなかった謎々だ~!」
「やっぱり、寂しんだよね」
「……あたしね。あたしの音楽発表会に、ママ……来て欲しかったんだよ」
ナザリベスは涙腺を緩ませて、一筋の涙を見せました。
「音楽の発表会? ママ? ママは、お家にいないの?」
「ありがとうね……」
ナザリベスは、私の問い掛けに答えることなく、私たちの目の前からス~っと姿を消したのでした。
続く
この物語は、フィクションです。
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