#14 霊を狩る者

「は?」


 達海とレイは何が起きたのか分からず、固まってしまった。達海の手の力は抜け落ち、持っていたダンボールを下に落とした。骨の落ちた“カラン”という音が建物内で響き渡る。百香の残った下半身だけがホロホロと徐々に消えていき、そこに白いオーラを放つ霊魂がゆっくりと落ちる。マーブル柄で虹色の奇怪な棍棒を持った大柄な男がそれを拾い、楕円形のカプセルに入れた。


「仕事終わったぞ、カモク。あれ? まだ他のやつもいるみたいだな」

「…………」


 大柄な男の横にいる、懐中電灯を持った小柄な女は何も喋らない。

 大柄な男はゴツいが男前な顔立ちをしている。黒の髪は長く、襟足は肩のあたりまで伸びている。前髪は後ろに流し、おでこを出していた。左手の薬指には二つ指輪をつけている。一つは銀色の指輪。もう一つは棍棒と同じ柄の指輪だ。

 小柄な女は少しつり目だが綺麗な顔立ちで、白い髪の毛を腰の辺りまで伸ばしている。

 二人とも白のトレンチコートを羽織っていて、そのコートの右肩あたりには五芒星と植物の葉を組み合わせたような文様が描かれていた。


 この二人はGHゴーストハンターだ。棍棒のような武器はとても危険だ。達海はそう直感した。


「カモク、目撃情報にはないが追加の仕事だ。幽霊ともう一人は生者か?」


 大柄の男が達海たちを見て目を細めながら言う。


「逃げるぞ、レイ!」


 達海は固まって動かなくなってしまったレイの腕を掴み、GHが居る方とは逆の方向に走り出した。それを見た小柄な女がビクッと反応する。大柄な男も少し驚いた様子を見せてから、女に懐中電灯をもらい受け、達海たちを追いかけた。


「おい、逃げるなこの野郎。幽霊をこっちに引き渡せ。いい加減にしないと、公務執行妨害でしょっ引くぞ!」


 達海はレイの腕を引っ張り、懐中電灯を持つ腕を思いっきり振りながら、無我夢中で走る。大柄の男は真っ直ぐに達海たちを懐中電灯で照らしながら迫っていた。


「おらよっ」


 大柄の男がレイに追いつき、棍棒を振り落とす。



「あああああああああああ」


 廃屋に達海の叫び声が響く。棍棒が振り落とされた瞬間、達海はレイと大柄な男の間に割って入り、懐中電灯を投げ捨てた右手で棍棒を受け止めたのだ。達海の前腕はあらぬ方向に曲がり、血が噴き出ていた。


「達海くん‼︎」

「ばか、お前! 何してるんだ‼︎」


 レイと大柄な男が叫ぶ。


「いいから…逃げるぞ」


 達海は息を切らしながらレイと再び暗闇を走り出した。大柄な男は呆気に取られて立ち尽くす。すると、遅れて小柄の女が静かに歩きながら男の元にやって来た。


「悪い、逃した。まあ、本来の業務は終えたから良しとしてくれ。戻るぞ」

「…………」 



 達海とレイはどうにか陰陽に辿り着いた。レイが入り口のスライドドアをすり抜けて春明に助けを求める。春明は慌ててドアを開き、店から出てきた。


「何があたんだよ!」


「GHに襲われて、その時にやられてしまいました」


 達海は息を切らしながら、震える声で答えて腕を見せた。前腕部分が外側に曲がっている。血は止まっていたが、塞がりかけていた傷口からは骨が少し飛び出していた。


「GH⁉︎ そんな……」


 春明が動揺を見せる。


「私のせいで……私のせいで達海くんも百香ちゃんも傷つけて……どうしよう、どうしよう‼︎」


「大丈夫、レイのせいじゃない。大丈夫だから」


 泣き叫ぶレイを達海は宥める。


「と、とりあえず、病院に行くぞ。車まわしてくる」


 達海は春明に連れられ、夜間病院へと向かった。




 













  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る