#55 白馬の王子様
私、
家は大豪邸で内装は煌びやかな装飾品が多く飾られており、まるでおとぎ話に出てくるお姫様が住んでいるような所だった。
「ほらぁ、パパでしゅよー。パパって言ってみてくだちゃい」
「かのんー、ママだよー。ママって言ってみてごらん」
「きゃっきゃぁ」
「あっ、花音が笑った!」
赤ん坊の頃から私は、超がつくほどのバカ親に溺愛されて育っていった。
少し大きくなって歩けるようになると、お姫様のようなドレスを着させられてお嬢様のような言葉遣いを覚えさせられた。この幼稚園に通うようになってから男の子にこの口調を馬鹿にされたのをなんとなく覚えている。あの時は、少しだけ両親のことを恨んだかしら。
「かのんー。今日もあなたが大好きなお話をしてあげるわね」
「うん!」
私はお母様が寝る前に読み聞かせてくれる物語がとても楽しみだった。特にお姫様と王子様が出てくる話が大好きだった。
お姫様が悪い魔女に襲われそうになっていると、白馬に乗った王子様が颯爽と現れて魔女を退治してくれる。その後、お姫様と王子様はキスを交わしていつまでもいつまでも幸せに暮らすのだ。
私はそんなお姫様と王子様に憧れのような感情を抱いていた。
「私のところにも王子様が来てくれるかしら」
「うん。花音のところにもいい子にしていればきっと王子様が来てくれるわ」
「えへへ」
小学校に通うようになった頃、友達が私の家に遊びに来てお姫様ごっこして遊んだ。誰が魔女役をやるか、喧嘩もしたんだったかしら。あの時はとても楽しかったですわ。
七歳の誕生日、両親は例年の通り私を盛大に祝ってくれた。私にとって大きすぎるホールケーキをそのまま口いっぱいに頬張って。残ったケーキは両親が食べてくれていた。今思えば格好はお姫様でも素行はお姫様とは程遠いですわね。
それから数日も経たないうちに悲劇は起きた。私の家が火の海となったのだ。きっと、お金持ちで幸せそうな私たちを僻んだ誰かが放火をしたのでしょう。朝も早く、両親は二階の寝室で寝ていて、私は一階のリビングに一人。私の周りはあっという間に炎に包まれた。
「お父様ー!! お母様ー!!」
そう、泣き叫び続けたことを覚えている。その声はどこにも届かずに次第に弱々しくなっていった。
熱い、喉が焼けるように苦しい。誰か助けて、誰か、王子様……。助けに来てよ王子様。私、いい子にしていましたわ。…………王子様なんて物語の中だけの存在だ。空想の存在だ。白馬の王子様なんて現実には存在しないのだ。結局、私を助けてくれる人なんて誰もいない。誰も……誰も、、、
こんな時に、こんな時に全てを思い出すなんて……
「我、この幽霊を滅する。急急如律……」
「白虎」
お嬢がもうダメだと思い、目を瞑った瞬間、体が宙を浮き何かに乗せられた感覚がした。
「お前ー!! なぜここにいる! そしてなぜそれを従えている春明!!」
道拓の叫びを聞いたお嬢が目を開くと後ろには春明が居た。お嬢が下を確認すると自分も春明と共に大きな白い虎にまたがっている。春明は急いでお嬢の頬に貼られている呪符を剥がした。
「待たせたな。怖い思いをさせて悪かった、お嬢」
春明の言葉を聞いて、お嬢は目を細め潤ませる。
「全く、白馬の王子様とは程遠いですわね……」
「はぁ?」
困り顔の春明にお嬢は目を潤ませながら笑顔を向けた。
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