#3 悪霊

 達海は差し伸べられた手を握った。


「どうしてここに⁉︎」

「ごめん。実はなんか心配になっちゃって後つけて来ちゃった。そしたらこんなことになってるんだもん。びっくりしちゃったよ」


 レイは目を細め、ばつが悪そうに頭をポリポリと掻く。

 達海はレイにサポートしてもらいながら力を振り絞って立ち上がった。


「レイ、あれは一体なんなんだよ」

「悪霊だよ。あの黒いモヤから強い憎しみを感じる」

「どうすればいい?」

「除霊しないとだね。本当は呪符を使うのがいいんだけど……私は使えないから力でねじ伏せる!」


 レイはそう言うと真剣な顔つきで、再び悪霊の元に走り込んでいく。達海はそれを黙って見ていることしか出来なかった。レイの攻撃は凄まじかった。悪霊の腕を掴んで投げては、拳や足で打撃を入れていく。悪霊は壁にぶつかると、すり抜けることは無く、ダメージを受けているようであった。


「なんなのだこの小娘は。あぁ〜このままでは消えてしまぅ〜。早く、早く魂を喰らわねば」


 悪霊はスルリとレイの攻撃を避けると、ものすごい速さで達海の方へと向かってきた。


「あっ、しまった。君、逃げて!」


 レイが叫ぶ。


「もう遅い。さあ、私の糧となれ!」


 前のめりで向かってくる悪霊を、達海は重い脚を動かして横に避ける。悪霊の背面に回り込んだ達海は悪霊の脇に腕を差し込み、がっちりとロックしてそのまま横向きに倒れ込んだ。


「レイ! やれ!」

「ナイスだよ。君のおかげで除霊できる」


 レイは達海と共に横たわる悪霊の顔に踵おとしをくらわせた。「ぎゃぁあぁぁあぁ!」という断末魔とともに悪霊は消えていった。それと同時にボロ屋も段々と消えていき、そこは元の空き地に戻っていた。

 

 

 日はすでに沈みかけている。悪霊が消えた場所に、どす黒く燃えた小さな球のようなものが落ちていた。レイがそれを拾い上げる。達海は立ち上がり、レイに問いかけた。


「なんだ? それは」

霊魂れいこんだよ。幽霊はみんなね、この霊魂のおかげで現世に存在できているんだ。こんなに黒くなってしまって、かわいそうに」


そう答えたレイの顔はなんだかとても悲しそうだった。


「その霊魂はどうするんだよ」

「私の知り合いにね、これを回収している人がいるの。悪霊の霊魂を清めてくれるんだ」

「そうか」


 達海が短く返事をすると、レイは俯き気味だった顔を上げた。


「えっと、、そういえば、君の名前まだ聞いていなかったね。教えてよ。」

「あっ、天知達海。……それとさっきは助かった。ありがとう。」


 照れくさそうに達海は答えた。レイは少し驚いた表情をしてから満点の笑みでもう一度自己紹介をする。


「私は幽霊のレイ。私が住んでいる場所においでよ。達海君に会ってもらいたい人がいるの。夕ご飯もそこで一緒に食べて行けばいいよ」

「はいはい、わかったよ。まだまだ聞きたいこともあるし、付いて行ってやるよ」

「やったぁ! 私たちもう友達だよね」


 友達という響が達海にとって少しこそばゆく、嬉しかった。

 二人は歩き出した。あたりは暗くなり、一人の影だけが闇に呑み込まれて薄くなっていく。そんな二人の様子を物陰からピエロが覗いていた。



 ケタケタケタ。









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