第8話 話し相手は、勇者の僕をノックアウトした。
仮の勇者の僕に用意された勇者の間。
部屋数は多く、長年使用していなかっただろうが、全ての部屋の掃除は行き届き、豪華絢爛で素晴らしいかった。
僕はその勇者の間でジョギングの時、以外の大半の時間を過ごしていた。
しかしジョギングコースを長めにとり、無駄に動き回っていたお陰か、そろそろ僕に対する兵士達の警戒は少しずつ薄れつつあった。
勇者の間を新しく警備する様になった青年とは挨拶と少しの無駄話をするまでになっていた。
食事の料理は、執事のシャルルが全て取り仕切ってくれる。彼は有能で湯船の用意も最初指定した時間通りに沸いている。とても有能であるが、リアルメイドさんを見て見たいなぁ……などと、思うがそれはあくまでも後学の為で、メイドさん萌えの為では絶対にない。
しかしフィーナのメイドコスは、見てみたいそんな純粋な気持ちだった。
そんなわけで僕の住む勇者の間に訪れて来る人間は、魔法の様に現れて消える、ごんぎつねのごんの様な執事のシャルルさんのみ。
しかしその日、レンさんの言う話し相手は、僕の前に現れた。
ある日、勇者の間の玄関に、鐘の音が響く。
執事のシャルルさんは鍵を持って居る為、警備の兵士の挨拶か、時々現れる事務手続きの役人かと思い出てみると、小2位だろう、ハニーブロンドの長髪の魔法使いの少年が――。
「お前が、勇者殿か? 俺はぬいぬいと言う。よろしく」と、そう挨拶をした。
「草薙ハヤトです。よろしくお願いします」
彼の眼光の鋭さと物言いが、殺し屋風だったので警戒しながら、彼を招き入れるかしばし迷っていると……。
「師匠なにやってるの……」
今度は中2位の長い黒髪の女の子が、ぬいぬいの後ろからこちらを覗き込んでいた。
「いや、勇者殿が家の中に入れてくれん」
「『お前が、勇者殿か? 俺はぬいぬいと言う。よろしく』じゃ、普通いれないよ。ギルドマスターのレン ホルンさんの紹介で、初級魔法を教えにきた。ぬいぬいです。よろしくお願いします。だよ」
「そういうわけだ、よろしく」
彼女は、ぬいぬいと言う少年をの声マネをした後、がっくりと肩を落とした。
「私は、オリエラ。魔法学校3年です。特別に師弟制度を3年ながら受ける事ができ、ぬいぬい師匠の元で修行をしております。よろしくお願いします」
「彼女は、この国の第2王女だ。扱いは普通の姉弟子で構わんが、それは頭に入れとけ、下手をすると首が飛ぶからな」
「はは、それもよろしくって事で」
彼らを招き、長い廊下を経て、リビングルームへと案内する。
ぬいぬいは、改めて僕を上から下まで確認すると、はぁ……とため息をついた。
「まぁまぁ師匠、彼は勇者なのだし、上には上がが居るって事でそれでいいじゃないですか?」
二人の態度とぬいぬいの目の鋭い眼差しと言い、師匠と言われる事と言い、ぬいぬい氏は見かけ通りの年齢ではないのかもしれない。
そう思った時、彼はオリエラに向かって「まぁいい、やれ」と彼女に対し僕を顎で対象と指示した。
「え? ここで?」
オリエラが、驚きの声をあげる。
僕はも何やらわからないが、被害があった場合の高い調度品の数々の損害費用の値段をはじき出そうとするが、どれも高そうで想像がつかない。
「ここで」
ぬいぬいは、腕を組み大きく頷きながら簡潔に言った。何やらわからないが思い切りが良すぎでしょう!?
オリエラは、大きい鞄から木の剣を2本取り出す。
「そう言う事だから、やりますか。勇者様」そう言って、彼女は僕に剣を投げて寄越した。この王女も、師匠同様に思い切りが良すぎでしょう!?
そんな事考えている時間は無かった、オリエラ、彼女は僕の横腹目掛け、剣を振り抜こうとしていた。
かろうじてその剣を後ろ下がり避けたが、彼女の振り抜いた剣がビューと音をあげ僕の前で半円を描いて通り過ぎた。
――噓でしょう!? 当たったら凄く痛いやつじゃん!
こちらもすぐ反撃すべく、腰を落とし彼女の踏み込んでいる足元めがけ、剣を振るう。
何故かあれだけあった家具が僕の達のまわりから、すべて排除されている。しかしそれについて見まわし確認している時間は無かった。
しかしオリエラの踏み込んでいた足が消えた! 剣は空を切るだけで、当たった感触もない。
その瞬間、「あぐぅ」息が出来ない激痛と衝撃が僕の背中を襲う。彼女の足音をすぐ横で聞いた時、彼女の剣が僕の背中を強打していた事を知った。
咳き込む僕に彼女は、僕を思いやる様に――。
「ごめん、大丈夫?」と、声をかける
僕の目の前に彼女足が見えた、無理やり息を吸い込んで剣を杖にして起き上がる。
「大丈夫じゃありません」
「はは、背中にあんだけ喰らって起き上がるんだ……」
「師匠、まだ、続けるの?」
「おれはまだ止めてない」
「じゃ、まだやりますか」
そう彼女は言い、僕はすぐに剣をその場に捨て、彼女の腕と肩を掴み、彼女の足を払う。倒れ込んだ、彼女にすぐさま、剣を拾い彼女の首に当てた。
「そこまで!」
ぬいぬいの制止の直ぐ後、的確な彼女の拘束が出来ていなかった事と、思いもよらない彼女の体の柔らかさを見余って事から、彼女の蹴りを今度は思いっきりみぞおちに喰らい……。
僕は絵に描けない状態に陥ってしまい、しかもその上に倒れ込んでしまった……。
☆★☆
目を開けると、ヴッっとなる。拭いてあるけど……。あっ……うん……。
「ごめん、大丈夫」
「待って待つて! 今、ヒーリングを念の為かけて貰ったところだから、しばらく動かないで」
起き上がろとした僕を、オリエラは制した。
「そんな時間はいらねぇ ヒーリング魔法の技術は戦う為に向上している。血を大量になくしたとかまでに、至っていなければ大丈夫になって来ている」
ぬいぬいが言い放つ。
「お前には、気の毒だが、安全が確保されるまで気は抜かないほうがいい。うん……今日は、これまでかな……お前も早く風呂には入りたいだろうし……」
「本当にすません」彼女は、ふたたぶ謝った。「大丈夫ですよ」と、僕は言った。
「おれらが掃除しておくから風呂入って来い、兵士がいるから鍵は後でいいだろう」
改めてみると家具は、綺麗に端へと移動されている。彼がやったのだろうか?
「お風呂やシャワーは使い方がわからなくて、シャルルさんに入れて貰った、湯舟をに入っているんですよね」
二人は顔見合わせる。
「魔法で、沸かす方式のやつか……」
「たぶん……うちも1年から、それ使っているからそうだと思う」
二人は顔を見合わせて話込んでいる。なんとなく、小学校や中学校の下校風景を思わせる。
――魔法で使う設備だったのか……、一度、拾った薪入れようとしたけど壊れていないかな……。
「一筆書いてやるか……」
ぬいぬいと、オリエラは、なにやら紙になりやら書いている。近くで見てもなんと書いてあるかわからない。
「なんて書いてあるんですか?」
「お前に、兵士の練習場の風呂を貸してくれと書いてある。俺は城とギルドから頼まれてオリエラの面倒を見ているから、俺とオリエラのサインがあれば入れてくれるだろう。駄目なら、ここの門番連れて行け。さぁ、行って来い!」
そうして僕は掃除を二人に任せ、兵士の訓練場のお風呂へ行った。不思議な事に彼らの書いてくれた紹介状は、入り口の兵士に見せる頃には、僕にも読める様になっていた。
大変気の毒な顔で見られ、彼らはよくしてくれすんなりとお風呂場までたどり着けた。
魔法の使えない兵も居るって事で、兵士の練習場には僕の居た世界と同じ造りのシャワーもあり実は、異世界に来て初めてのシャワーを浴びる事を出来た。
そんなわけで、僕の最初のお客は、王女と魔法使いだった。(そして僕はお姫様にノックアウトされたのだった)
続く
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