第26話 フランツ教頭の出迎

  幌馬車ほろばしゃに乗り込み、結構な時間が経った頃、馬車は出発した。


 やはりこの世界は、僕のいた世界より、人々の時間は自由に進んでいるようだ。


 城のからクネクネとした、勾配の強い坂道を下りやがて、にぎやかな街で大きくの人々を下ろす。


 そのまま馬車は、素朴な花々が咲き乱れる人々の住む家々の前を通る。 


 街の外へ出る為の小さな門の前で、僕たちを含む全ての乗客を下ろした馬車は、ふたたびもと来た道を帰っていく。


 魔法学校はそこから大きな道を進んだ、街の外れにあった。


 魔法学校には不釣り合いなほど大きな門と、その周りを囲む、街の外壁と変わらないほどの大きな壁の中の校舎。


 それは郊外練習に行った際に、街の外から見えた謎の建物だった。


 大きな門の隣には、老年の良いスーツを着込んだ紳士が一人待っていた。


「うむ……」彼を見た途端とたんに、ぬいぬいがうなりり腕を組んだ。


「草薙ハヤトです。初めてまして宜しくお願いします」


「お久しぶりでございます。フランツ教頭」


「お久しぶりです。フランツ先生」


「ようこそ勇者様、アルト様、そして久しぶりだね、ぬいぬい君。私が、このホイルトツェリオ魔法学校の教頭をしております。フランツです。そしてぬいぬいくんを、長年見て来た教師の1人と、考えて貰っていい」


 眉間に長年の皺を深く刻んだ、フランツ教頭だったが、おおむね紳士的な態度で僕たちを迎えてくれた。


 今日のぬいぬいはいつもの落ち着きは無く、居心地が悪そうな様子だ。


「アルル君はお元気かね? お子さんも大変な頃だろう……」


「まぁ、彼女は、彼女ですよ。いつも少し怒りながら、でも、たんたん仕事をこなす。そして息子とは、いつも楽しそうに過ごしていますよ」


「そうかね。なかなか彼女にとって、意義のある人生を送れているようで安心したよ。息子さんは、君たちに似て、きっと優秀な魔法使いになるだろう。その時まで私が教鞭をとっているかわからないが、この学校への入学を心待ちにしているよ。まぁ積もる話もありますが、時間は有限です。ではさっそく、皆さんを魔法学校ツアーご案内しましょう」


 彼は、両手を広く上げそのまま振り返る。そして歩くとともにその手を下した。彼は玄関までの白いレンガ道を無言で歩き、オレンジ色のレンガで作られた校舎の扉に手をかけた。


「あぁ!」

 僕の声にみんなの視線が集まる。


「あぁ……この校舎、どこかで見た事があるなっと思ったら……。僕の世界にある東京駅って駅に、雰囲気が似てるんです」


「それは格式のある駅なんでしょうね」

 フランツ教頭が感慨深げに話す。


「この学校の開校は、この国あげての大事業だったので、東西南北の天才が集まりこの学校は作られました。校舎の外装を手掛けたのも、その中の天才の一人です。そして何より学校に集まる生徒は、ぬいぬいを含め魔法に関しては、身分の差を越えて集められたエリート揃いです。しかし悲しいかな戦いになればそのエリートが、先陣に立ち戦わなければならない。その為、民衆が城へと避難する間、魔法学校内の彼らが、籠城ろうじょうし敵の足止めが出来るよう。頑丈に、そして数多くの仕掛けが、この魔法学校には、散りばめられています。ホイルトツェリオと言う城郭都市じょうかくとしで、初めての戦場の舞台になる場所こそが、我がホイルトツェリオ魔法学校なのです。敵は軍隊を率いて、我が校の裏にある大きなはね橋を通って、ホイルトツェリオに入り込むでしょう。ですから有事にも少ない犠牲、いえ誰も死なよう生徒達には在学中に我々、教師がすべての叡智を生徒達に叩きこみます」


「では、その一端をお見せしましょう」


 ギィーという重い音を奏でながら、フランツ教頭の手で魔法学校の玄関の扉は開かれた。



 続く

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