第16話 勇者の夕食と魔王の饅頭

 水の魔法の練習。


 炎と違い安全で、子どもの水鉄炮の気やすさで、そして最初の今ならピュ――、ピュ――と水を飛ばすだけで横にいる最高の魔法使いと、心優しい兵士からどんどん褒められる自分の肯定感が爆上がりのその練習は、最後、某小僧を思い浮かばせるジョジョ……といういきなりの水の勢いの低下の為幕を閉じた。

 

 その時、6時を知らせるリンゴーン、リンゴーンという鐘が、城に響き渡たる。

  

「夕食の時間は、5時から始まるのだから、もうあらかたの兵士は、夕食を食べた頃だろ。食堂に行くか」

  

 ぬいぬいは、そう僕に告げる。


 けれど何時間も魔法を撃ち続けていたため、お腹は減っている様だが、何だかお腹減った――ではなく、疲れた――休みたいが正直な気持ちだった。


「ハヤトさん大丈夫ですか?」

 

 兵士のシルスさんが僕を心配して声をかける。


「でも、驚きましたよ――初心者なのに、こんなに何時間も魔法を撃つ事が出来るなんて……」


「そうだな! さすがたいしたもんだ」

 そう言ってぬいぬいが、僕の背中をパンパン叩き激励を飛ばす。本当にこの二人は褒め上手過ぎる。


「お――い 夕ご飯に行くぞ!」

 ぬいぬいが、ベンチに座るオリエラに声をかける。


「待ってました!」

 オリエラが両手を広げながら走ってくる。

 

 今日の晩御飯は練習場の食堂で食べる事が出来る。執事のシャルルさんに前もって、ぬいぬいが報告してくれたことを練習途中に聞いていた。

 

「シルス、食事はどうする? 仕事の都合もあるだろが一緒に食べないか?」


 ぬいぬいに、そう聞かれたシルスさんは――。

 

「もう仕事上がりなので、食堂へ行く前に一度事務所へ顔を出してきますよ。すぐ終わるので一緒に食べましょう」


「そうか」

 ぬいぬいは、シルスさんの背中を少し嬉しそうにポンポンと軽く叩く。

 

 「今日のご飯は何かな」

 

 オリエラが嬉しそうに、僕たちの前を歩く。


「オリエラは、家族とは一緒に食べないの?」


 彼女はこの城の第一王女である。せっかく寮の外で食べるのならと、僕が聞くと、オリエラがくるっと振り返り、後ろを向き歩きながら……。


「そうなの、実は私は落とし子だからね。まだ、いきなりの食事とかは難しいというか、まぁそう言う事」

 

 そう言ってニコッと大きく笑う。そしてくるっとまた前を向いて歩きだす。

 

「オリエラは、この王都よりもっと遠くの山岳地帯の領主の娘と我らが王、アニス王との子だ。領主とその娘は、オリエラの素性を偽り隠して、育ていたが……、予言によって彼女の存在は我が王族の知る所なり……今にいたる。」


「今は、魔法学校の寮に住みながら、俺の弟子をしている」

 ぬいぬいはそう言って押し黙った。僕もなんて言っていいのかわからず、みんなに続き歩いた。


 少し歩くと話し声や笑い声が聞こえて来た。美味しそうな匂いにお腹が鳴り出す。


「ハヤト、晩ごはんはね」


「プレートを持って並ぶと、食堂の係の人が次々におかずや、ご飯をのせてくれるの今日はシチューか……夏のシチューも美味しいよね」


「ちゃんと前を、見て並べ、ぶつかるぞ」

  

 そう言うぬいぬいは、どう見ても給食を待つ小学校にしか見えない。次々に載せてもらい、どんどんプレートが山盛りになる。


 後からやって来たシルスさんは仲間が来るたび挨拶しているのでなかなか僕達との距離は縮まらない。


 とても彼らしい様子で、周りの兵士たちは僕に対していつの間にか警戒心が緩んだのは彼の功績によるところが大きいのだろうと確信を得た。そして兵士達が普通に僕に対して接してくれる事に内心とても嬉しかった。


 そして僕らの前に見本の料理プレートが現れる。今日のメニューは、シチューとパンかご飯とヨーグルトサラダ。飲み物は、オレンジジュースと牛乳と水、紅茶のどれか選べる。宮廷絵師こんな所で仕事をしているのか?って位の絵だった。もしかしたら絵のうまい兵士が居るのかもしれない?


 食事は、プーレトに料理をよそって貰う方式で、久しぶりにどんどん料理がよそわれてしまう驚きを体感した。


 「いただきます」

 と、言って食べ始めるのは僕ぐらいで、みんな長いお祈りをしている。


 みんなを待ってご飯を食べ始めるが、僕は生活に密接関係している場面では、溶け込むのは難しいものがあるのだろうか? と、少し不安になった。

 

 シチューには、エビが入って居るのだが……エビが模様が、シマウマのそれだ……。


「あのエビってシマシマの模様ですか? 」

 

 僕が聞くとシルスさんが「その種類は、エビとは明確には違う種類だけどエビだね」

 

 ――エビなのか、エビはないのか……それとも翻訳の機能がバグっているのだろうか?

 

 味はエビだった。異世界なので、そんな言葉についての誤差があるのだろう……。まぁ、ニュアンスで、わかればいいか……いや、駄目なのか?


 シチューは、美味しくとろとろで、パンはこっぺぱんで少し硬いような気もしたけど、だいたい僕達の世界と同じ味だった。ヨーグルトサラダは、少し爽やかで、夏には爽やかになるミント系の葉っぱを入れるらしい。牛乳は、今まで飲んだものよりも少し美味しい。

 

 でも、その少しが、僕の気持ちを幸せもしてくれる、少しなのに味覚は不思議だ。

 

 ちなみに、ぬいぬいに聞いたら今日のオレンジは、少し酸味が強かったらしい。

 

 しかし毎日、お茶だったので……牛乳がこんなに美味しいと思わなかった。


「牛乳美味しいですね……」


「ハヤトさん牛乳飲めるのですか?」


「えっ?」

 

 僕が驚きの声をあげると、何故かシルスさんは小さい声で……。


「以前の勇者さんが、牛の乳なんか飲めるか!? と、言って暴れた伝説の昔話を読んだ事があるんです。だから、毎年、勇者様専用のお茶の葉を摘つむのお祭りとか、ある地方もあるくらいですよ!」


 召喚後の大立ち回りといい、お茶といい前の勇者のよしのさんは、どんな人だったんだ……。理解に苦しむ。



             ★☆★☆★彡


            ―― 魔王城 ――


 ここは魔王城の王座、勇者よしのは日々日ごろから、魔王から覇権を取り返すべく。


 王座の椅子の一番上に無駄に偉そうにとまり、そこへ座る魔王をへへんとしながら見下ろしてみたり。王座の後ろに、鳥のベットを作っては、『真の玉座のクッション』と言い張り、魔王の勢力に牽制をかけていた。


「はっくしょん」


「よしの風邪か? 獣医呼ぶか?」


 鳥のよしのを心配そうに、魔王が見守る。


「いや、魔王だから、それくらい治せよ」


「むぅ」

 

 よしのの言葉を聞き魔王の部下のフィーナは、彼の魔王へ対する無礼な態度にふくれっらになった。

 

「なんだよ、また怒ったのか? この前、貰ったお菓子やろうか?」


「もう、子供では、ありませんのに……」


「そうだな、この前も我が東京、大阪、名古屋の視察に行った時も、フィーナはしっかり留守を守ってくれた」


「あぁ……お前が城や塔に登ったお土産買って来た時のな!」


「あの時……もう、私の部屋にお城の模型要らないって言ったの、タワーまで買って来てしまった時のですね……。魔王様、やはり経済を回すなら魔界でまわして貰わねば困ります!」


「だが、お前は一緒の買って来た服を部屋に持って行き、1時は、出て来なかったじゃねぇか? おれはあん時、饅頭食べれなくなって飢え死にしそうだったぞ!」


 よしのはフィーナの肩の停まり、耳もとでがなりたてる。二人はその後、30分位饅頭とハヤトの居た世界の洋服の素晴らしさについて揉めていたが……魔王が、仲裁の為に出した岡山県のお土産を食べ、なんとか仲直りしたのであった。

 

           続く

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