第17話 かがり火にうつる風景

 久しぶりに、不特定多数の人の中で食べた食事。


 その事によって異世界の中で一人、別の世界の人間である事の寂しさ、それが少し消えた様に僕は思った。


 そんな僕にとって意味のあった、晩ごはんを食べ終えて、僕はプレートを返す。


 もう退勤時間を終えたシルスさんが、さっき兵士の事務所に顔を出した際に、やらねばならない手続きがあった様で僕達との食事を終えるとそこで彼とは、別れの挨拶をした。


 ぬいぬいが兵士の練習場から出ると、少し大きめ火の玉を放した。


「触るなよ、火傷するからな」


 そう言った彼の横を、火の玉は、手に持つた風船の様に離れない。


「火の玉が付いて来るのか……、どんなイメージなんだろう」


 そう言ってオリエラは、火の玉に指を伸ばす。


「アッ」


「はぁ……、オリエラ、指を出せ」


「今度は冷たい……」オリエラは、ぬいぬいに指先に氷水を、かけられている様だ。


「好奇心があるのはいい事だが、言いつけは守れ。この程度なら明日、回復が得意な先生や生徒を捕まえて治して貰えよ」


「はい……師匠。でも、今の熱さでこの魔法についてわかった事がありそうな気がする」


 そう言ってオリエラは、手を組み考え込む動作をしようとしたが、「イタッ」と、言って火傷した手を振る。


「大丈夫? オリエラ」


「大丈夫、大丈夫。でも、ハヤトは真似しない方がいいよ」


「わかった……」


 そして僕とぬいぬいとオリエラは暗闇の中を歩き出した。


 幼い風貌で、闇をまとった僕らの師匠に、引きつられ夜の城を歩く。


 松明の僅かな灯りだけの暗い城を、僕達の組み合わせで歩くのはちぐはぐで、とても異世界らしいと思った。


 沈黙する石像の横から、今にも白い姿の亡霊が、僕らをさらいにやって来たりしそう。音が僅かにある世界で、それでも兵士達は、小さくも、時には大きくもある声をあげてこの城を守っている。


 そんな暗闇の中、僕ら壁に近づくとゆるいスロープを壁の上へと上がって行く。


「武器を運ぶ為の道だ」


「この先に何かあるんですか?」


「ある」


 僕の師匠は、説明はわりと長いが返事は短い。だからをまず見てみる事にした。


 僕らは城壁のてっぺんに着いた。車輪の付いた小さな大砲がいくつも置かれているのが、ここからでも見える。


「連絡をしておいた、見学だ」


「あ……ぬいぬい殿ですね! 聞いておりますので、ご自由にどうぞ」


 兵士の彼はそう言い、ふたたび城の外へ視線を向ける。


 城の外からは城下街が見えるはずだが、遠いからなのか、今の時代の光源があまりないからなのか、街の風景は闇に沈んでいる。


 その代わり空いっぱいの星空が、僕らの上に輝いていた。異世界に来た当初は、眠る時に、カーテンを開けて毎日よぞらを見ていたが、最近では星々をみて天気を思う様になりつつある。


 城壁の上をしばらく歩き門の上へと、僕たちはたどり着いた。


 そこは他の部分より広く場所が取られ、保温の為か他の所より少し低い位置にかがり火が暗闇の中燃えている。


 ぬいぬいと僕たちは、その赤く燃える炎の前に立ち、炎を見つめる。


「炎だ」


 ぬいぬいは、真面目に普通の事を言うので、

 少し可笑しくなったが、我慢をした。


「この炎を見るだけに、ここまできたんですか?」


「そうだ。以前、お前が作り出した炎は青い炎だった。お前には、まだ使いこなせないチカラ。それで毎回あんな爆破されたらかなわんから、炎の精霊とお友達になる事から始める」


 そう言って悪い笑いを浮かべる。


「お友達ですか……」


「そうだ、お前の言っていた15分炎を見つめるっていうアレだ。まず初心者が扱うべき炎をこのかがり火を見る事で掴む。そうすれば青い炎の様な特殊な魔法も、イメージ作りにみあう魔力を体から自然に引き出せる様になる。絶対に確実だ」


「絶対に確実……」


「そっそっ夢や魔法はね、どうしょうと思うとそこで爆散しちゃうの。だから魔法使いの言葉は、いつも強いの」


 オリエラは、手でぱらぱらって舞い散った何かを表す動作をし、それを手で、掴み取る様な動作をした。


 そして親指から人差し指へと徐々に手を開ける。と、手のひらには炎が灯っていた。そして炎をふぅ――っと吹いてかがり火の中に返した。


 パチパチパチ

 僕が拍手をするとオリエラは、「なんか拍手されるなんて久しぶり。ちょっと照れるね」そう言ってはにかみ笑う。


「とりあえず見るか……」


 オリエラとぬいぬい頬が、炎に照らされて明るく見える。


「師匠、アブラカタブラ」


「ほいほい、アブラカタブラ」


「ハヤト、アブラカタブラ」


 そう言って、オリエラは、指先を魔法のステックの様に動かす。それに続くぬいぬいも、そして僕も同じ様に――。


「アブラカタブラ……ってこれなんですか? 」


「ハヤトは、アブラカタブラ知らないの? 」


 オリエラが、後ろに手を組みながら話す、いたずら好きの子猫のように。


「アブラカタブラはね――概念的なものと言うか……。魔法使いを目指す者を導く魔法みたいなもので……。精霊が少しでもいる場所で、私は凄い魔法使いになります、だから精霊達よ導いてくださいって感じで言うの」


「でも、最近は魔法学校の入学の際とか、始業式とか?の時、炎の前で言う行事的なものになりつつあるけど」


 ――クリスマスに、メリークリスマスって言う感じだろうか? 


「まぁ常識をくつがえすと意味もあるし、作り出すと意味もあるな」


「つまり魔法だな」


 そう言うと、ぬいぬいは、かがり火の炎に手を近づけ。そして彼が体をひるがえすと、炎が点々と彼の手が通った軌道に残される。彼のひるがえる魔法使いの服と合わせちょっとした舞いを見た気分になり、僕はふたたび拍手した。 パチパチパチ


「師匠!それめちゃやりたい」


 炎の精霊が居なくなったぬいぬいに、オリエラは、掴みかかるように近づいてそう言うと――。


「だめだ」


「ししょおぉ――――」


「じゃ――お前が上級の魔法使いなれば、考えなくもない」


「やった――!」


「ハヤト、お前も出来るだろうが、やるなよ」


「魔法は危険なものだから、そこら辺のルールが、時に厳しいからな」


「でも、師匠はやるんだ……こんなに可愛いのに」


「可愛いは知らんが、おおいにうらやましいやがれ」


 ふんともにゃりとも取れる、ちょっとワルいぽい顔をぬいぬいはした。


「じゃ――そろそろオリエラ帰るか、また寮母りょうぼに怒られるからな」


「いや……この時間は怒られると思うな……自主学習に間に合わなそうだもん……」


「なに!?」


「大丈夫だよ師匠……また、一緒に謝ろう!」


「それは、大丈夫と言わん!」


「なんかすみません、僕のせいで」


「ハヤトも大丈夫だよ」


「師匠は、可愛いから寮母さんに、子供扱いされて怒られてるだけだから」


「はぁ……」


「じゃ――さっさと帰るぞ」


 そう言った割には、ぬいぬいは普通の早さで歩いていた。僕らは城の中央噴水の所まで来ると誰かが僕達を呼び止める声はする。


 しかし暗闇の中で姿を確かめる事は、今はまだ難しい。

 続く

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