第18話 勇者は、初級冒険者
城の中庭の噴水で、暗闇の中の僕らに呼びかけた人物が、ぬいぬいの明かりで照だされた。
声の主は、レンさんで、僕らにしきりと手振っている。
「おお――い」
「どうした? 俺たちはもう街に帰るが、何か用事か?」
「ハヤトに用事があるんだよ。」
「なんだ、こんな時間にか? お前には仕事終わりって概念がないのか?」
ぬいぬいは、動きを止めてレンを食い入る様に見る。
「まぁまぁ怖い顔しないで、ぬいぬい」
レンは、ぬいぬいをなだめる様に手を、彼の肩に置く。
「ハヤトのギルドの初級の認定証と、ギルドの身分証明のカードが出たんだ」
そう言うと、きれいな紙袋をレンは差し出した。
「じゃーん、この紙はホイルトツェリオ城の城下町で、作られる工芸品なんだよ。凄くないかい? もちろんこれも私が安価で素晴らしい紙を広めらる目的でダイジスにねじ込み彼との確執は無くなり、気兼ねなくギルド昇級テストで訓示を読んで貰える」
「そうか、それは何より」ぬいぬいは、あまり興味なさげに言い捨てた。
「後、ギルドの身分証明書は、城下町の身分証明書も兼ねているんだよ! もともと別の証明書が必要だったけど……最近はこれ一枚で良くなったんだ!」
いつになくレンが、興奮して話している。でも、ただでさえ忙しそうなのに大丈夫だろうか?
「レン、わかったから、じゃ――ハヤトの事頼んだ」
「レン、ハヤト、またな」またねぇーハヤト、レンさん」
「ありがとうございました。おやすみなさい」
「ふたりともおやすみ――」
二人は、兵士の訓練場の奥の馬車のエリアへと消えていった。ぬいぬいが、あまりにもあっさりと帰ってしまったので、僕はレンさんと二人で残され気まずかった……。
「レンさん、オリエラの門限に遅れてしまっている様なので……」
彼のあんな態度は、いつもの事さ、いつもはあるるが、そんな彼の事を諌めているのだが、それが無くなりどうなる事かと思ったが、彼に二人の弟子を持たせた事は間違いではなかったと私、勝手にそう思うんだ。
そうして僕とレンさんは、明かりの少ない石畳の道を歩き始めた。
「あっ、レンさん兵士練習場の使用許可の事、ありがとうございました」
「勇者殿のバックアップは、我々の務めだよ。
そう言うと彼女は穏やかに笑った。様に思う。暗闇だから、見えないけどね。
暗闇の城内から、やはり暗闇の勇者の間の扉の入り口に立つと、レンさんが先に入れるよう扉を支えた。
彼女は「お邪魔します」と言って入り、僕はその後へと続く。
レディファーストについては、いまいちわからず、ぬいぬいがいれば、彼に合わせれば良いのだけれど、一人だと自信も何もあったものではない。
そんな僕よそに、彼女は家の中に入ると、玄関横のランタンのロウソクに、マッチで火を灯しその燃えかすを灰皿に捨てる。
そこでやっと僕は扉を閉めた。
「はい、どうぞ」
僕はランタンを受け取り歩きだす、電気が一般的でないこの世界は、応接間に行くだけで、毎日少し緊張がある。
それはリビングの燭台のロウソクに、幾つもの炎を灯す事で、やっと落ちつく事が出来る。
「勇者の間は、仲間と住む事を想定されているので、さすが広いね。管理するだけで大変そうだ」
「それは執事のシャルルさんが、やってくださってますから」
「彼は、有能だし問題ないだろうが……やはり少し不便さはありそうだね。そう言う事も含めて、今回いろいろ決まったから」
レンは、ギルドの身分証の入っているだろう白い袋を取り出す。
「ごめん、ちょっと開けるね」
彼女はそう言ってきら袋を開けた。
中から本の様な形状のギルドの初級の認定証を取り出し、僕に立つ様促すとその認定証の中身を読み上げる。
「草薙ハヤト殿、貴殿をギルド初級冒険者に認定する ギルド監督長レン ホルン」
卒業式と同じ作法で、うやうやしく認定証を受け取った。
レンさんはギルドの身分証明のカードの入った袋も、僕に手渡しながら、少し困った顔をする。
「君は、名前が後に来て苗字は先だろ?」
「こちらでは、名前が先だら、迷ったけれど……。君がどう望むか確認無しに、そのままに記載してしまったよ」
レンさんは、申し訳なさそうに言うので、こちらも慌てる。
「ありがとうございます、そこまで気にしてもらってなんか嬉しいです」
ちょっと申し訳なさそうなレンさんが、気になって焦って言ってしまった。
「ところで、身分証明書を得たって事は、僕はもう自由に歩けるって事ですか?」
「この城と城下街はね。そこ以外の場所には、行かせる事は出来ない。身分を与えたのは、こちらが使いやすいようにでもある為、制限はあるって事と考えて貰ってもいい。でも、それはたぶんしばらくの間だ。……その話は置いて、記念品って訳ではないが良い物をあげよう」
そう言ってレンは、小さな紙袋を差し出した。
「ちょっと食べてみてくれないか?」
開けてみるとクッキーが一つ入っていた。
食べてみるとごくありふれたクッキーの味で、この世界のクッキーをまだ多く食べていない僕は、そのまま伝える事にした・
「うーん僕の世界では、普通のクッキー味です」
「スーッとして爽やか感じは、やはり感じない?」
「あまりよくわからないですね……」
レンさんは、深く考え込む動作をする。
「今、ギルドでは、この地方の名産品の作りに一役買っているんだけれど……」
「ギルドの仕事はそんな事もするんですか?」
「いや、しないね」
「じゃ……何故?」
「ギルドはどうしても一般人から仕事を請け負うから、その代表とも言える商業界の連中に、恩を売るった方がいいって副長の方針でね」
「今日の兵士練習場の夕食でた、ヨーグルトもその試食会を兼ねたものだったもので、そっちはおおむね好評だった」
「だったのだが……焼くクッキーにすると、スリアロの葉の爽やかさが出ない」
「困ったものだよ」
レンは、そう言って苦笑する。
「アイスクリームやゼリーに入れてみるのは、どうでしょうか?」
「ゼリーは入ってものを、見かけたが……まだ一般人にまで普及されてない、アイスの開発から考えてみるのも手だね!」
「今からギルドに戻って、副長と相談してみるよ!」
レンさんは、喜び帰り支度を始める。
「いやいや、レンさんは家に帰ってもう寝てください」
「仕事し過ぎです! たぶん」
「わかったでは、朝いちで」
「明日は、しっかり休んで、就業開始時間に行ってください」
レンさんの多彩な仕事ぶり見かねて僕は少し強めて言ってみた。
レンさんは、僕をまじまじと見つめて「君、案外押しがつよいね」と言うので――。
「そうですよ、さぁさぁ家に帰っておやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
レンは少し口元を緩ませ笑った様に見えたが、すぐに振り返り――。
「ギルドの規約も読んでおくように、それと近々執事見習いが君の専属で入る予定だから、後は彼に聞くといい、じゃーまた」
そう言って彼女は暗闇の中、ランタンも持たずに危なげなく帰っていったのだった。
続く
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