新たな仲間

第19話 魔法使いのぬいぬいとやって来た、執事見習いのルイ

 初級冒険者となり、自由に街へと降り立てる様になったが、そのまま言えば僕は無一文無しだった。


 現物支給は、執事のシャルルさんからあるようだが『お金下さい』とは、昨日の今日でまだ言えずにいた。


 そんな世知辛い事を考えていた午後を過ぎ、ぬいぬいは一人でやって来た。


 玄関先に現れた彼は、いつもより疲れた顔して、顔に影がさしている。そしていつもはきちっと魔法使いのローブと帽子なのだけれど……。今日は、灰色のタンクトップに黒のはかまと言うか、牛若丸が穿く様なズボンを穿だけを穿いている。


「すまん、少し寝かせてくれ……」


 と言って、彼は長椅子のソファの周りにブーツを脱ぎ散らかし額の上に手を乗せ、横になり眠ってしまった。


 彼の眠りが深くなっただろうところで、読んでいた魔法の本を机に置くと、まず、彼のブーツを運ぶ。

 そして寝室で掛布団を開けた状態にし、小さく細身の割に少し重い彼自身を、客間のベッドまて運んで寝かせた。彼の鞄については何が入っているのか、検討も付かないので、そのままリビングのソファの下に置き去りにした。


 次の日、僕は目覚め、リビングの扉を開けると、机いっぱい、いや……床にまで紙が散らかっており、古い手帳を持ちペンを紙に走らせている彼が居た。


「これどうしたんですか?」


「古代の魔法について解読された文章に対し、検証し、それでわかった事から予想をたて、それを検証し結果の評価を出す。 それを随時書きとめているだけで、美しくまとめていないとこうなる。もう一度初めから書いている気分だ……」


 彼は僕に目もくれず、ペンを走らせそう言った。


「そうなんですか……参考聞きたいのですが……奥さんのあるるさん怒らないのですか?」


「昔は、怒らなかったが、今は怒る。『息子も生まれて非常事態なのよ』あるるがそう言うので、そうなんだろう。なにせ、古代の魔法の方は、彼女の方が専門だ。だからうちには今、息子の為の俺の書いた俺の役割表が張ってある。書いてる間『それどころではない』って何度も言われたが、今では、そこにあるるの注意書きのメモが張られる様になってしまった……。理不尽だろ?」


 そう彼はやはり僕に目もくれず言うので、少し笑ったが、彼は気にしない様だった。


 そしていつもの様に朝飯時、執事のシャルルさんが昨日、頼んでおいたので二人分の朝食を持って来てくれた。


 そこでやっとぬいぬいは、ペンを止めて僕の後ろについてダイニングルームへとやって来て、僕と一緒に食事を配る。


 そして一番最初に紅茶に、牛乳と砂糖を沢山入れたミルクティーの一口目をゆっくりと飲んだ


「悪いなぁ、泊めて貰って、昨日は、あるるの親父さんの誕生日で、昨日から三日あるるは向こうに泊まる予定だったんだが……一昨日の夜に、息子のアルトルアが夜中起きてしまって、朝まで寝かったんだ……。そのままあるるの実家まで幌馬車ほろばしゃで、一緒に乗って送って行った。向こうで出された沢山のご馳走ちそうをたべたら……眠くて、眠くて乗り換えをせずに、ここへ来てしまった」


「それは一度に、いろいろ大変でしたね……」


「こんなに世話になるつもりじゃなかっのだが、すまん」


 ぬいぬいは、両ひざに手を置いて頭を下げた。


「いえ、いつもお世話になっているので、僕はいつでも歓迎ですよ。部屋も多いですし」


「師匠が、弟子の世話になるわけにはいかないだろう」


「僕の世界では、師匠の身の回りの世話をするのも、修行って話もありましたが、そうですね……。僕はここでは、まだまだ独り立ち出来そうにないので、自分でお金を稼げるようになってから、その事に考える事にします」


 そう言って僕はスクランブルエッグを、一口食べる。僕はまだ、このスクランブルエッグの金銭的価値もわからない。


 でも……出来る事も増えてきた。


「ところで、レンさんから、ギルドの初級の認定証を貰いました」


「ああ、そうだな。だが、まだそれはただの身分証明書に過ぎない。お前には魔法について、まだまだ教える事が、あるからな。それを使って、ギルドクエストを受けようとは思うなよ」


 ぬいぬいには、僕の胸の内はわかるらしい。戦いながら経験値を積んで、レベルアップと言うわけないはいかないようだ。


 その時、玄関の扉の方で、来客を告げる鐘の音が鳴る。


「誰だ?」


「オリエラでは?」


「そんな予定はないぞ」


「じゃーとにかく行きましょう」


 僕たちは、立ち上がり玄関に向かう。


 玄関の飾り窓の外の風景を反射させて、外の風景を映し出す鏡を見ると、長身で正装の男性が立っている。


「どちら様でしょうか?」


 僕が声をかけると、彼は明瞭めいりょうで、よく通る声で答える。


「今日からこちらでお世話になります。執事見習いのルイスと申します」


 レンの言っていた執事見習いの様だ。僕は、扉を開ける。


 その間に、シルクハットを脱いだだろう彼は、自然な動作で扉を少し広げ、彼が扉を支える形にする。


「ありがとうございます どうぞ」

 と、僕はお礼を言い、彼を招き入れた後に自己紹介をする。


「草薙ハヤトです よろしくお願いします」


「ぬいぬいだ、俺はこいつの師匠だ。 よろしく」


「ご丁寧にありがとうございます こちらこそよろしくお願いします。改めまして、執事見習いのルイスと申します。ご用件は何なりとお申し付けくださいませ」


 薄いコートと手に持った彼がお辞儀をすると、緩いウェーブのある前髪が、深い緑の海を思わせる瞳にかかる。


 そんな彼を見つめている僕に気付き、彼はにっこりと笑う。整った顔で破壊力が凄い。


「あのハヤト様、不躾ですがお部屋を拝見しても?」


「どうぞ、よろしくお願いします」


「では、失礼します」

 そいうが早いか彼は、コート掛けにコートをかけると台所の方へと消えていった。


「あれは、女泣かせの顔だな」

 と、ぬいぬいがぽつりとつぶやく。


 ルイスさんとの友好を深めるのは、後にして僕たちはふたたび朝食もどる。しかしダイニンテーブルの前に座ったぬいぬいは、何やら魔法についてのスイッチが入ってしまった様で、難しい顔をして料理を小さく切り、食べ、また1つ切り食べていた。


 そんな彼を僕は、観察しながら食べた。そこへに素晴らしい魔法へのヒントが隠されているように思ったからかだ。


 しかし食事を先に終えた僕の出した結論は、『食事中は、食事に集中した方がいい』だったので、魔法を極めるのは奥が深いようだ。


 僕はまだまだ食事の終わらなそうな、ぬいぬいを残して先に皿を洗う事にする。


「ごゆっくりしていてくださいね」


「あ、あぁ……」

 心ここに在らずという感じに、彼は返事をした。


 僕がキッチンに皿を洗う為に、キッチンへと行く。


 そこには見習い執事のルイスさんが、皿や器具などをメモ取りつつチェックしていた。


「ハヤト様、わざわざお皿をお持ちくださり、ありがとうございます」


 慌ててメモを中断した彼は、僕の手から皿を受け取りキッチンの台の上へと置いた。


「ありがとうございますルイスさん、ですが……僕はここにいつまでも居るわけではないので、出来る事はやらせてください。出来ない事も、教えてくれると助かります」


「いえ、その必要はございません」


「旅には、私もご同行し、あなたのサポートをする事が決まっておりますので、心配ご無用ですよ」


「もしかして、お前はアルト家の一族なのか?


 キッチンの入り口には、まだ料理を食べて居ると思っていたぬいぬいがそう言うと、そのまま歩いて行き、持っていた皿をシンクの中へと入れた。


「はい、その通りでございます」


 彼はにっこり微笑む、僕らの持って来た皿を見て少し考える仕草をしてから……。


「今後の事もございますし……お二人には一度、リビングルームお戻りいただき、今後について確認などいたしましょう。さぁさぁ……」


 そう言ってルイスさんは、かす様に僕たちをリビングに連れて行った。僕とぬいぬいが、長椅子のソファーにすわる。


「ルイスさんも、どうぞ座ってください」


 そう言うと彼は、一人がけのソファーに座った。


「まず、私から話しても?」


 ルイスさんは、手袋をつけた手を胸当てあてる。


「はい、よろしくお願いします。後、この世界、そして城や貴族の暮らしについて、僕にもわかりやすく、話して貰っていいでしょうか?」


 僕がそう言うと、ルイスさんは少しクスっと笑う。


「では、まずハヤト様」 


「はい」


「ご主人様」


「はい?」


「ハヤト!」


「はい???」


「失礼ですが、ハヤト様、相手を対等に見るのはいい事ですが、相手につけ入る隙を与えてはいけません。勝手ですが、私は、勇者と言う呼び名を、尊い物として扱って貰いたいのです」


 ルイスさんは、生徒をさとすように言う。


「それについてはわかります。でも、僕は、勇者の様な中心いる立ち位置にあまり慣れていません。たぶん勇者のあるべき姿にはなれないし、魔王も倒すきもない。逆に共存の道を考える。他の人とも僕を下に見るなら見ればいい、僕をそういう風に扱う人間だと、相手を思うだけです。だから残念ですが、あなた望む勇者ではなく、僕が望む勇者にしかなれません……」


 正直に話たのだが、結構ルイスさんに対して厳しい事を言ってしまったような気はするが、彼のポーカーフェイスは揺らぐ事はなかった。


「差し出がましい事を言ってしまったようです……」


「いえいえ、僕も失礼な事言ってしまった様です。これに懲りずに何でも言ってください。そして……」


 なぜか僕は、手で自分の顔をおおっている。


「僕の事は、呼びやすければハヤトと呼んでください」


 ――俺の事をハヤトって呼べよな? って人生で言った事ないのに、こんな顔の整った人に言うのはある意味罰ゲームなのだが、今後の気まず関係になれば、僕の胃が死んじゃう。


「はい、わかりましたハヤト様」


 ――さすが出来る執事、そこはやはり様付けなんだ……。


 そして次は僕の話す番、僕には秘密がある。

 ここで少しでも彼を見極めなくてはならない。


 続く




 

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